第39話:挿絵あり
夕陽が辺りを包む中、帝国の高級将校捕虜達は王城の居室に個別で軟禁されていた。その一人の老将は、青年との個別面談をさせられている。
「さて、何から伺いましょうかね」
「……」
応接机の向かい側に座るヴォルフガング君が言った。ここには他に儂しか居らぬので、儂が黙っていれば誰も答えない。
「まずは簡単な確認からにしましょう。第一次征伐軍の総指揮官はツァーリ殿、第二次征伐軍あるいは援軍の総指揮官はユアン殿で間違いありませんね?」
「……その通りじゃ」
心臓を握られている様な錯覚を覚える。儂は彼の目にどのように映っているのだろうか。失敗したかもしれん。耄碌したように見せておけば良かったか?情報収集は捗ったが、今感じる得体の知れない恐怖感を思えば、やはり失敗したように思える。
「そして、これらの派兵を決定したのは皇帝陛下ですね?」
「……」
「表向きは」
「……!」
この男は何を知っている?子爵家の諜報組織ではあるまい、まさかツァーリが話したのか?あるいは他の捕虜か?
「……何が言いたい?」
「皇帝陛下はどなたの進言を受けて決断されたのでしょう?」
「……皇帝陛下のご意志を慮るなど__」
「__まさか陛下のご意志で、などと言う事はありませんね?」
「儂には分かりかねる」
「そうですか」
何という事だ。儂がこの若者に多大な圧力を感じている。最早冷や汗が抑えられていない。儂の肝が小さい訳ではあるまい、此奴が異常なのだ。
「カエサル皇子」
「……!」
「やはりそうですか……」
馬鹿な。これは何の悪夢だ。この男は一体どこまで知っているのだ?いや、それ以前に、どうやってここまで辿り着いた?
カエサル皇子の名を口にした時の顔……明らかな確信があった。こちらの反応を探る素振りではない。最初から知っていたとでも言うのか?まさか……帝国の内情にまで通じているのか?
だが、それはありえぬ。
ヴォルフガング・リヒターはこの国の若き宰相。戦では化け物のような采配を見せたが、帝国の宮廷政治にまで手を伸ばせるとは思えない。
では、何故……?
「秘密みたいですけれどね」
その言葉が、やけに冷たく響いた……秘密? それは一体何なのだ?帝国の諜報網にすら掴めぬ何かを、この男は掴んでいるというのか?
いや、それだけではない。この男は、まるで……。
まるで “未来を知っているかのように” 振る舞っているではないか。
「まぁこの辺りは後でツァーリ殿にも聞いてみる事にします。本来第一次征伐軍で十分攻略可能な規模の元子爵領と伯爵領に対して、第二次征伐軍だけでなくルーブル殿麾下の援軍と像兵を投入してまで滅ぼそうと思った事情は何なのか」
「……」
「色々ご協力頂ければ、様々な便宜を図ります」
「……」
「勿論、早い方に対してはより多くの便宜を図ります。だんまりでしたらツァーリ殿に聞きます」
「……」
思わず、便宜とは何かを聞きそうになるがどうにか堪える。そして、此奴は儂の内心など知った事では無いとばかりに言い放つ。
「帰国なさるのでしたら金銭が中心になりますね。絹織物や宝石でも構いません」
「……」
「亡命なさるなら、勿論爵位付きとします。連合王国重鎮の恩師ですし、帝国での実績も充分なのですから文句は出させません」
「……」
亡命。しかし家族が__。
「そして、ご家族の亡命も手配します。穏便に進まない場合は女子供老人五十人前後と、行軍可能な方々百人程度が限界ですが」
「馬鹿な」
戦慄する。儂は心が読まれているのか?
「信用出来ないのはごもっともですが、既に計画と準備は終えています。これも秘密ですけれどね」
「馬鹿な……」
これほど頭が真っ白になったのは初めての経験だった。いや総白髪になった事はあるがの。
個別面談は老人虐待の様相を呈していた。




