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第32話:挿絵あり

 昼時の戦場跡地。連合王国の宰相とその側近、そして帝国軍の捕虜たちは、一つの天幕の下で食事を共にしていた。捕虜たちは皆、何とも言えない表情を浮かべていたが、その中でも忠義の男は一際複雑な心境だった。

 

 いちいち毒気が抜けそうになる。こいつら、本当に指揮官なのか? そして我々は、こんな奴らに負けたのか……。いや、深く考えるのはよそう。そう思った矢先、慌ただしく駆け込んできた伝令が声を張り上げた。


「さ、宰相閣下! 女王陛下と母君が到着されました!」

「よせ、捕虜の前で騒ぐな」

「えっ、宰相? 女王陛下……?」


 呆然と呟くアドルフ。冗談だろう? こいつが、宰相?


「というわけで捕虜諸君、私は中座するが、ゆっくり食事していってくれ。またいずれな」

「はぁ……」


 そう言い残し、宰相たちはあっさりと天幕を後にした。

 一体、何だったんだ。


「ねぇライナスさん、宰相ってかなり偉い人だよね」

「そうだな……」

「あの人ルーブル将軍とバッキバキに一騎討ちしてたけど、そういうものなのかな?」

「そんな訳あるか……もう国家ぐるみで蛮族なんじゃないか?」


 ため息混じりに言うと、敵軍の連中も苦笑いしている。すると、その中の一人と目が合い、彼らが話し出した。


「ヴォルフ様はなぁ……わざわざ王城から脱走してまで前線に来たしな。蛮族呼ばわりされても否定せんだろうよ」

「あの人は宰相になっても変わらなかったな……」

「えぇ……本当にアレが宰相なのか?」

「おうとも、我らが連合王国初代宰相だよ」

「マジで?」

「マジで」


 マジらしい。この国大丈夫なのか?



 ***


 天幕内部に困惑が拡がる中、帝国軍の新兵はおにぎりをもぐもぐ食べながら、やはり困惑していた。



 うーん、偉い人ってあんまり現場に出てこないって聞くけどなぁ。僕の故郷の行政官は一緒に畑耕したりしてたけど、かなり珍しいって話じゃなかったかな?気がつけば握り飯が追加されて、連合王国の人たちも食べ始めてる。なんか雑談が始まってるし、やけに和やかだ。


「しかしヴォルフ様は無事なのかね?帰城したらしばかれるって言ってこっちに居残ってたけど」

「女王陛下と母君がこっち来たもんな」

「わざわざしばきに来たのかね」

「ご冥福を祈ろうぜ」

『はっはっは!』


 宰相閣下もしばかれるんだ。僕も混ざってみようかな。


「宰相閣下はよく最前線に出てくるんですか?」

「あー、いつもそうだな」

「君らを危険な目にあわせておいて後方に居る事は出来んって言ってたな」

「いや、前線指揮官ならばともかく、宰相がそれはどうなんだ?」

「だからしばかれてんだろ」

「違いないな」


挿絵(By みてみん)


 ついにライナスさんも混ざってきた。それにしても、少し前まで僕らは殺し合いに来てたんだけどね。軍人さんってこう言うの慣れてるのかな。


「まぁ出てくるのは戦場だけじゃないけどな」

「そうなんですか?」

「捕虜のあんたらに言うのもなんだがな……こうして工事現場に出張ってきたり、孤児院に出入りしたり、学校建てて授業に出てきたりとか色々やってるよ」

「へぇー。偉い人って怠け者ばかりだと思ってたけど、そんな人もいるんですねぇ」

「おかげで文官達もサボれないってぼやいてたな」

「んだな。さて、俺たちも働くとするか」


 うん、僕らも働かないとね。ご飯もらったし。


「なぁアドルフ」

「なに?ライナスさん」

「お前は……亡命とか、考えた事あるか?」

「うーん、無かったけどねぇ」


 そんな事考えた事も無かったし、そもそもそんな暇なかった。故郷に居たころは畑仕事だけじゃなく、賦役や開墾、妹の面倒も見ないといけなかったし。それが捕虜になってからは休憩や食事、睡眠時間は軍属になる前より多いくらいだ。自由時間はないけど、考える時間はむしろ増えたんだよね。


「最近は時間もあるし、考えちゃうね」

「そうか」

「……怒らないの?」

「何か怒る気が失せてな……」

「あー確かに」


 思わず苦笑いが出てくる。ライナスさんもそうみたい。


「僕は実家への仕送りの為に軍属になったから、亡命すると目的があべこべになっちゃうからなぁ」

「そう言えばそうか」

「そうなんだよ」

「家族ごと亡命しようとは思わないのか?」

「へ?」


 家族ごと?


「奴も言っていただろう?手紙書くなら馴染みの商会を教えろと。奴の事だ、検閲などされんように届ける伝手はあるだろう」

「ええ?そうなの?」

「故郷の特産品も教えてやるんだな。取引ついでに届けて、悪目立ちを避けるだろうよ」

「はえー、みんな色々考えるんだねぇ。ライナスさんありがとう!」

「ふん」


 うん、ひとつ借りが出来たね。確かライナスさんはシャーリーさん家の陪臣だって言ってたし、ユアン将軍を助けられたら返せるかな?僕に何が出来るかはわからないけど、頑張ってみようかな。


「ところでアドルフ」

「なに?」

「その、さっき奴が悪ぶってる時に何があったって言われてたんだ?」


 あぁ、さっきお姉さん達が言ってたアレか。


「……アレはただのノロケだから、気にしなくていいと思うよ」

「……そうか。じゃあ穴掘りに戻るか」

「そうしよう」



 捕虜たちは、やはり微妙な表情を浮かべながら戻っていった。

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