第28話:挿絵2枚!
吹雪が強まる中、本城と支城の間に塹壕を掘っていた帝国軍の若い新兵は、その塹壕から猛然と逃げ去っていく猛将と麾下の部隊を見て、不安を募らせていた。
戦場ってとんでもない場所だ。故郷への仕送りの為に軍属になったけど、受けた命令は穴掘りだった。ラッキーと思っていたら最前線に連れてこられて、降ってくる岩に怯えながら穴を掘った。すごい掘った。今日もせっせと掘ってたら、いきなり騎兵に射かけられた……みんなで穴に隠れてやり過ごしたけど、死ぬかと思った。
そしたらルーブル将軍が突っ込んで来て、敵の騎兵を薙ぎ倒し始めた。アレは化け物だよ……騎兵がバラバラに吹っ飛んで撒き散らされる有様はすごく怖かった。アレが味方でよかった。
そして、今度は白馬を駆る騎兵が敵城から飛び出して来て、ルーブル将軍に襲いかかって、ドッカンバッコン打ち合ってた。チャーリーさんも暴れ回ってたけど、綺麗な女の子が二人がかりでチャーリーさんと打ち合ってた。化け物ってそんなぼんぼこ出てくるの?なんなのアイツら。
んでもって今、ルーブル将軍とチャーリーさんや強そうな騎兵も物凄い速さで逃げてった。僕ら置き去りだけど、どうなるのかな……。遠い目で考えていると、仲間たちが話しかけてくる。
「どうすんだこれ?」
「アドルフならどうする?」
「どうしよっか……上官は討ち死にしちゃったしねぇ。というか君が一番年長でしょ?君が決めなよ」
「そうだけどよ……どうしろってんだ?」
本当だよ。今から本陣に逃げるにしても、あの白い化け物に追いかけられながらじゃあ無理じゃないかな。アレは人間の動きじゃない。それに、気になる事を言っていたし。
「あの化け物はさっき、高所に登れって言ってたよね?」
「あー、確かにそうだな」
「ってことは穴にいちゃヤバくない?」
『……』
絶対ヤバい。なんかゴゴゴゴゴって地響き鳴ってるし、これは山崩れの臭いだ。ここで死にたくない。
「帝国兵に告ぐ!武器を捨てて降伏しろ!高所へ登れ!」
『武器を捨てて降伏しろ!高所へ登れ!』
白い化け物と反乱軍が声を上げてる。決めるなら急がないと駄目だ、みんなを見回して聞いてみる。
「降伏かぁ……上官や将軍達は、アイツらは集落を略奪して破壊した野蛮人って言ってたけど……」
「でも立札には帝国軍の仕業って書いてたよな?」
「うーん……」
確かに、立札には『略奪の限りを尽くした帝国軍を許すな!』とか書かれていたけれど、そんな事するのかな?家屋は焼き尽くされて、井戸には毒まで仕込まれてたけれど、第一次征伐軍がそんな事したとは思えない。そうすると、実行したのは反乱軍か、そこら辺の山賊かなぁ……でも山賊には村の生活基盤を破壊する理由が無いしなぁ。
「それでも、集落を破壊したのは反乱軍じゃないかな?」
「自分らの村を焼いたりするかね?」
「そうなんだよねぇ……よく分からないね」
僕らには情報が入りにくいけど、反乱軍は第一次征伐軍を撃退どころか、ほとんど壊滅させてるみたいだし。だとすると占領から解放した村を破壊する意味がないんだけど。うーん……あーこんがらがってきた。仕方ない、もう南無三だね。
「よし!みんなで降伏しよう!」
「まぁそれしかねぇだろうけど、いいのか?俺らの家族が責められたりしないか?」
故郷の家族の顔が頭をよぎる。家族の為に志願兵になったのに、これでは僕が父さんや母さん、妹を危険にしてしまう。一体どうすれば……!
「良くはないよ……!でも、たぶん山崩れか洪水が起きてるのは間違いないよ」
『マジで!?』
「確かになんか地響きしてるよな……」
「そう。それになんか臭うでしょ?これは山崩れの前兆なんだ。だから僕らはあと数分で流されて凍え死ぬと思うよ」
「てめぇら!武器を捨てて敵陣の丘に走れ!」
『ひいぃぃぃ!』
早。僕も逃げよ。化け物も野蛮人も怖いけど、山崩れよりはマシ……だと思おう。家族は心配だけど、ここ寒いし。まずは生き残らないとダメだ!
***
『うわあぁぁぁ!』
「逃げろー!」
「降伏する!助けてくれぇ!」
ズドドドドドという轟音と共に、ついに洪水が来た!圧倒的な勢いで木々を薙ぎ倒し、岩や土砂まで混じった山崩れだ!僕らが掘ってた穴はもとより、捨てた武器や資材、そして逃げ遅れた仲間たちが飲み込まれていく……いや、切り替えないとダメだ……!感傷に浸っていたら僕も死んじゃう!僕も必死の思いで叫びながら、走る!
「みんな急いで!高いところを目指して!」
「走れ!駆け上がれ!」
『うおぉぉぉぉ!』
いつの間にか反乱軍の砦の堀には渡し板が置かれてる。彼らが置いたのかな。丘の上では白い化け物が率いる騎兵が大弓を引き絞っていたり、砦の敵兵からクロスボウを向けられているけど山崩れよりマシ!急ごう!
「両手を上げて砦内部に急げ!走れ走れ走れ!水没するぞ!」
『うわあぁぁぁ!』
「何でアイツは敵の俺たちを助けようとしてるんだ!?」
「知らないよ!走って!」
白髪の化け物が冷たい空気を切り裂くように、白馬を駆りながら巨大な薙刀を軽々と振り回しながら叫んでる。その声は、まるで山を震わせるような低音だった。僕たちを助けようとしてるみたいだけど、絵面が怖いな……。
そして、意外にも反乱軍は丘の上の砦に入れてくれた。各所に焚き火が焚かれていて、みんなで囲んで暖まる事が出来た。それにしても本当に死ぬかと思った。槍やら弓やらクロスボウに囲まれるのは怖かったけど、山崩れを間近で見た時は生きた心地がしなかったよ……。手を上げながら、仲間たちと背中合わせになったり焚き火で暖まりながら、みんなが口々に言う。
「ぜー、はー……ほ、本当に洪水が起きたな……」
「あぁ……よく生き残ったよな、俺たち」
「アドルフ、ありがとよ!」
「ははは……まぁこれからどうなるかは分からないけどね」
『それは言わないでくれ』
これからどうなるかなぁ……。ふと見上げると、白い化け物は上級将校なのかな?歴戦の老将にあれこれ指示してるみたい。僕とそんなに歳が変わらいくらい若いのに。あ、何処かに行くのかな。よく見れば船が用意してある。綺麗な女の子とか強そうな騎兵が下馬し、彼に従って船に乗り込んでる。洪水に備えてたのかな?それとも彼らは洪水を起こせるのかな……化け物って怖い。
人の争いなど興味ないとばかりに、濁流が全てを薙ぎ倒して押し流していった。新兵は安堵と恐怖の坩堝に居ながら、生きている事を実感するかの様に空を見上げている。




