42 守るべき仲間
その日、リディアは慎重に準備した。ノエルが作った新作武器を魔法鞄に入れ、いつものアッシュラインやファントムシェル、そして弾もたくさん入れた。前回から販売を始めた薬も、たくさん。
そうして取引に備えた。
*
「ごきげんよう、ヴィクターさん」
ガレンを連れて訪れたのは、西通りの酒場。ノワールローズが溜まり場にしているそこは、ヴィクターとの取引の場だった。
「突然訪ねてきてすみません。新しい商品を開発しましたので、ぜひ使っていただきたくて」
鞄をテーブルに置き、その中から取り出す大きな武器。ずっしりと重いその塊を机に置くと、ゴトンと重い音がした。
「ノクターンといいます」
それはリディアが名付けた名前だった。
「ファントムシェルと同じく音を消しています。そして最大の特徴は、弾を連続して撃つ。殺傷能力をより強くしました」
酒を飲みながらこちらを見ていたノワールローズの構成員たちが、「へぇ」と小さく声をあげる。少なくとも興味はありそうだ。
「もちろん簡単に試せるものではないですし、専用の弾も入れればかなりの額になりますから、一度にたくさんお買い求めいただくものではないと思っています」
リディアはその銃身をなぞりながら語る。
「ですから、まずはおひとつ。今ならサービスで、お試しになれる場所もお教えしますわ」
ヴィクターがゆっくりとそれに手を伸ばす。手に持って確かめるように見てから、再度リディアに目を向ける。
「東通りのつきあたりの空き地。あの辺りは野蛮な輩も多いと聞きます。ぜひこちらを使ってお掃除していただきたいですわ」
リディアの笑顔は、曇りのない明るい笑みだった。
*
ノワールローズとグレイウルフにノクターンを売った。そのお金を鞄に入れ、リディアは市場を訪れる。
「大丈夫なの?」
いつものように店を開いていたリオに、声をかけた。
「何が?」
彼はあっけらかんとしていた。
「危ない目にあったと聞いたけれど」
「あぁ、あれは危なかったね。死ぬかと思ったよ」
ケラケラと笑う姿は、誘拐された後とは思えない。そんなに危険性はなかったのだろうか。
「ボクがブラックリリーの一員だって言ってたよ。どこから漏れたんだろうね」
「……調べた方がいい?」
「別に。調べるとしたらボクの担当だろう?」
それはそうだ。しかしリオが嫌だと言うなら、リディアは他の情報屋に依頼してもいいとも思っていた。情報屋を通さなくても、シャドウドラゴンに商談を持ちかければ教えてくれるかもしれない。
「ボクはね、別にいいんだ。こういう仕事をしてるし、危険だということはわかってたから」
「そう」
情報屋は決して安全な職業ではない。それがわかっていたから、リディアは保護という名目で彼を拾ったのに。
「ごめんなさい」
リディアはそう告げた。
「あなたが危険な目に合う可能性はわかっていたのに、防げなかった。わたしの責任だわ」
その言葉に、リオが驚いて目を丸くしていた。
「……お貴族様に謝られるなんて、思ってもなかった」
それはそうだ。貴族が平民に頭を下げるなんて、本来あってはいけない。でも、ここにいるリディアは、商人リリー。ただと平民なのだ。
「貴族だって知ってたのね」
リディアが笑う。ガレンやノエルには言っているが、リオに言ったことはなかった。
「情報屋を舐めないでよ、リリーさん。いつも貴族街への門を出入りしているのは知ってるよ」
「そうね」
この様子だと、おそらく家門までは見つけられていない。リオは貴族街に入れる人間ではないから。しかし、貴族街に通じる情報屋と手を組めば、きっと簡単に辿れてしまう。
「わたしはどうすればいい?」
リディアは聞いた。
「あなたと離れることもできるわ。今後一切依頼はしない。あなたがわたしの仲間だという噂も、いずれ消えるでしょう」
噂だって長くは続かない。
「ガレンさんはそばに置くのに?」
リオが寂しそうに笑った。
「ガレンさんがリリーさんの側近だってことも、もう知られてるよ。だからボクの身代金要求もガレンさんにいったわけだし」
「……ガレンが離れたいと言うなら」
「離れないからな」
リディアの言葉を先回りして、ガレンが告げた。
「俺はリリーのために動くって決めてんだ。襲ってくるやつらは返り討ちにする」
「……そう」
ガレンのその言葉は信じられる。彼はそれに値する実力を持っているから。
しかし、リオはどうだろう。まだ子どもで、大人の力には敵わない。これからも危険なことに巻き込んでいいのか。
「ボクを信じてよ、リリーさん」
リオが言った。
「リリーさんが助けてくれたんだよ。だから、リリーさんのために生きたいんだ」
最初はお金の関係だった。リディアが渡す報酬に目が眩んで、彼はついてきてくれた。
でも、誘拐という1件で変わったらしい。
「ガレンさんから聞いたよ。迷わずに身代金を出してくれたって」
「……当然だわ」
仲間の命がかかっているのだから、躊躇っている暇なんてなかった。
「だからさ、ボクはリリーさんのために動くよ。これからも、いっぱい情報を集めてくる。それでまた危ない目にあったら、また助けてよ」
明るく放たれた言葉は、無邪気だった。きっと彼は、危険をわかったうえでそう言ってくれている。だったら、リディアの返事は決まっていた。
「わかったわ」
そう頷き、でも、と続ける。
「ガレンと一緒に暮らしなさい」
「は?」
「わたしの仲間だと知られてるんでしょう。わざわざ隠す必要がないなら、ガレンと一緒にいた方が安全だわ」
「まぁ、そうか」
ガレンは頷く。
「えー、むさくるしい男の人は嫌なんだけど。せっかくならリリーさんと」
「バカ言わないで」
文句をつけるリオに、リディアははっきり言い放つ。
「それと、恩を感じる必要はないわよ」
そして、続けた。
「あなたの身代金は、もう回収したから」
その笑みに、リオが首を傾げる。
「どういうこと?」
「商品がいい値段で売れたのよ。ついでにあなたを襲ったグループは潰してもらったわ」
「……ハハッ」
それを聞いて、リオが驚きとともに笑う。
「やっぱ、リリーさんって最高におもしろいや」
その無邪気な子どもの笑顔に、リディアも微笑んだ。




