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37 勧誘のお茶会


 シャルマン公爵家からお茶会の招待状が来た。エリスとはファーストネームで呼ぶ関係とはいえ、きっと好意は抱かれていないと思っていないのに。社交界シーズンが近づいてきて、舞踏会に向けての牽制だろうか。


 これも社交のひとつだと、リディアはそれに参加するという返事を出した。ドレスを選んで、アクセサリーを選んで、準備をした。


 小公爵にもらったラピスラズリのイヤリングは、リディアが持っているアクセサリーの中でも最高品質だが、今回は使わないことにした。リリーとして裏社会で使いすぎているため、リディアとつながらないためだ。さすがに裏社会で出会った人間と社交界で会うことはないだろうが、今回はジュリアンと会う予定でもないため、使っていなくても問題ないはずだ。


*


 当日、リディアは馬車に乗ってシャルマン公爵家を訪れた。


「ようこそ、皆さま」


 エリスはいつもより少しだけ上機嫌だった。集まった令嬢たちをさっと見て、リディアは察した。中立派の家門の令嬢ばかり。つまりこのお茶会は、貴族派による勧誘だと。


「お招きいただき、ありがとうございます」


 令嬢たちがカーテシーをして彼女に礼を示す。派閥が違うとはいえ、相手は公爵家。格上の人間だ。


「どうぞおかけになって。お茶を飲みながら、ゆっくりお話しましょう?」


 エリスの目は、リディアを見ていなかった。そんなに嫌いなら、呼ばなければいいのに。アルセイン伯爵家は特別力を持っているわけでもないのだから。


 お茶会のおともは、よくある紅茶。そして、リディアが先日のお茶会で披露したアズキのペーストがあった。


「ふふ。リディア様に紹介していただいたアズキがおいしくて。我が家でも取り寄せてみましたの」

 またマウントか。裏社会での商談のようなわくわく感は、ここにはない。


「エリス様にお気に召していただけるなんて、光栄ですわ」


 リディアはそう笑ってスコーンを手に取った。アズキとバターの組み合わせは、リディアのお茶会の時と同じ。リディアのお茶会ではグリーンティーとスコーンにしたが、本来なら紅茶でもよく合う味だ。


 でも、これは違った。味がぼやけていて、甘いのにおいしくない。


「以前の方が……」


 リディアの席の近くで、ポツリとこぼした令嬢がいた。これは嫌がらせではないらしい。あいまいに微笑む令嬢たちの中で、

「エリス様、素敵なおもてなしをありがとうございます」

 リディアが口を開いた。


「せっかく使っていただけるのでしたら、レシピも聞いてくださればよかったのに」


 本当のレシピを正確に知らないのだろう。リディアのように本場の人間から聞いたものではない。アズキだけを取り寄せて、それっぽく作っただけ。それでもここまでの完成度になるのだから、公爵家の料理人たちはさすがだ。


「アズキには、塩を少し入れると美味しいんですって。ぜひ料理人に助言してさしあげてくださいな」

「……えぇ、そうですわね」


 エリスも、これがリディアのアズキとは違う味だということには気づいているはず。でも妥協するしかなかった。公爵家の意地のために。


 かわいそうだと思った。そんなプライドなんて、無意味なのに。


 アズキを独占する気はないし、必要だと言われればわけてあげることも、レシピを教えることもできた。社交界を渡り歩くために必要とあれば、その程度のことは簡単だったのに。


「そういえば、皆さん、ご存知ですか? 最近、おそろしい噂があるとか」

「噂?」


「えぇ。なんでも、ブラックリリーというおそろしい組織があるそうですよ。危ない武器を売っているとか」

「まぁ……」


 もう貴族にまで噂が広がっているのか。他の令嬢たちが怯える中、リディアは気にせず紅茶を飲む。やっぱり品質のいい茶葉はおいしい、なんてことを考えていた。


「怖いですわね」


 なぜエリスがその名前を出してきたのか。リディアがメアリウス子爵に見せたアッシュラインの話が、彼女の父親にまで伝わったのだろう。リディアなら知っている、伝手を持っている、と鎌をかけたのだろうか。それなら反応しないのが正解だ。


「そうでしょう? ですから、ここは皆さんで手を取り合って助け合っていきたいと思っております。皆さま、いかがですか?」


 こうもあからさまな勧誘とは。家門の決定権なんて持たされていない令嬢たちは、困惑するしかない。


「そ、そういえば」

 強張る空気をほぐすように、ひとりの令嬢が口を開いた。


「もうすぐ舞踏会ですね。皆さん、パートナーは決まっていますか?」

 その瞬間空気が緩むのを、きっとエリスは感じ取る。だからこれ以上続けることはできないはずだ。


「アルセイン伯爵令嬢は、今回もリュセール小公爵様と踊られるのですか?」

 自分には関係ないと決めつけていたリディアに話がふられた。


「……どうでしょうね」

 ティーカップを置き、ふっと微笑む。


「お手紙のやり取りはしていますが、そういったお誘いはいただいておりません」

「会場で誘われるのでは?」

「とてもお似合いでしたもの。ぜひまたお2人が踊られているのを見たいですわ」


 やはり令嬢たちはこういう話の方が好きだ。派閥なんて関係ない中立派の家門は、誰と誰が仲良くしていようと関与しないのが鉄則。だから単純に興味だけで話ができる。


 そんな会話を、リディアは軽く笑って聞き流していた。


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