28 閃光と劇薬
ノエルを連れて下町に出た。ガレンと合流し、いつもの森の中に入る。
「で、新作だっけ?」
ガレンの目が輝いている。何よりも楽しい時間らしい。
「これだ」
ノエルが持ってきたものを差し出す。アッシュラインよりも銃口が太く、グリップの部分も大きい。
「扱いにくそうだな」
リディアは少し離れた。ここはリディアが出る場面ではない。ノエルとガレンで交わされる会話を聞きながら、新商品のことを考えるだけだ。
「まずは、これ」
ノエルはすぐそばに落ちていた石を拾う。
「石を撃つのか?」
「あぁ」
「……なるほど。弾がいらないってのはいいな」
ノエルに言われた通り、ガレンが石を装填する。リディアの拳ほどの大きさの石が銃口から入れられて、木に向けて放たれた。
ゴンッ
鈍い音を立てて幹にあたった石は、粉々に崩れ落ちた。
「おぉ……。威力は抑えめだな」
「まぁ、これは殺傷能力は考慮してないから。メインの使い方は、こっち」
そう言ってノエルが取り出したのは、大きな弾だった。
「まずはこれ、試して」
「おう」
ガレンがそれを入れて放つ。着弾したところから煙が湧いた。
「目くらましか」
「そう。こっちも」
次のは閃光弾。どちらも敵の視界を奪うものだ。
「ガレン、使えそう?」
ようやくリディアが口を開く。
「あぁ。専用の弾がいるのはちょっと厄介だけど、石を撃てるのはありがたいな。目くらましが必要な場面もあるだろうし」
「……そう」
それを聞いて、リディアは値段を計算する。いくらくらいなら適切だろうか、と。
「マフィアは弾に困ってそうかしら」
弾だけはガレンを通じて買えるようにしてからもう随分経つ。リディアが下町にいない間の売れ行きはガレンもよく知っているはずだ。
「んー……、1回に売る量は少ないけど、頻度はかなり多いな。5日に一度くらいは両チームとも買ってるんじゃないか? アッシュラインが使われたなんて派手な噂は流れてきてないし、たぶん練習とか、使っても噂にならない程度だろうけど」
「じゃあ、その弾が必要ない武器っていうのは、売れると思う?」
「マフィア向けというより、金がない冒険者やチームに所属してない犯罪者がほしいんじゃないか?」
なるほど、マフィアが相手ではないのか。
「それはまた今度考えるわ」
「目くらまし専用とするなら、アッシュラインの方が有用だな。使える場所が限られる」
じゃあこれはあまり高価にすると売れないかもしれない。あえて安価にしておいて、練習用にとでも言えばそれはそれで売れそうでもある。
「わかったわ。ありがとう」
ノエルが少ししゅんとしている。もっと使えるものの想定だったのだろう。
「ノエル、心配しないで」
そんな彼に、リディアが告げた。
「わたしが売ってみせるわ」
楽しい、なんて。これがいくらで売れるか、力を持つマフィアたちがどうやったらほしがるか。そんな想像をするのが、リディアの楽しみになっていた。
*
落ち込んだノエルがもう少し研究したと言って帰り、リディアはガレンとともにそのままイレーヌの研究所へ向かった。
散らかった部屋のソファに座り、イレーヌを待つ。彼女が持ってきたのは、容器に入れられた丸薬だった。
「珍しい形なのね。液体や粉状が普通の薬だと思ったけれど」
「砕いて粉状にしても問題ない。こっちの方が持ち運びやすいと思って」
「持ち運ぶものなの?」
クリーム缶のような容器を手に持ち、その薬を見つめる。
「試さない方がいいわよ」
それを、イレーヌがさらりと止めた。
「そんなに怖い薬なの?」
「脳みそのブレーキを壊す薬、といえばわかりやすい?」
「……ブレーキを、壊す?」
「痛覚や疲労を感じにくくするの。反動として効果が切れると動けなくなるくらい倦怠感を覚えるみたい。実験したねずみの中には、壊れた人形のようになってしまった子もいたわ」
こくん、と息を呑んだ。そんな強い薬ができるなんて。
「何を使ったらこんなもの……」
「聞きたいの?」
イレーヌの挑戦的な目に、リディアは一瞬だけ迷う。
「……憲兵に見つかったら危ないものかどうか。それだけ教えて」
素材や成分を言われても、おそらく大半がわからない。ただ、持ち歩いてもいいものかどうか。それだけは知っておきたかった。
「成分を調べられたらやばいわね」
イレーヌの返答はあっさりしていた。まるでそれが当たり前と言わんばかりに。資金は随分提供しているし、その範囲で作ったものだろう。
「わかったわ」
人が壊れるかもしれない薬。これは、ガレンに試してとも言えない。ガレンが壊れることを、リディアは望んでいないから。
「ねずみで効果は出てるのよね」
「もちろん。人間では試してないけど。そっちで試せる人いないの?」
イレーヌの声は軽い。まるで楽しいおもちゃを発明したかのように。
「わたしは知らないわね。でも、わたしのお客様は知ってるかもしれないわ」
だから、リディアもそのトーンに合わせた。それを聞いて、一瞬目を丸くしたイレーヌが、
「……ふふ。あなたのそういうところ、本当に好き」
と目を細める。
「ありがとう。嬉しいわ」
リディアの返事に、2人は上品に笑い合った。
「怖いんだよ、2人とも」
それを見ていたガレンが、呆れるようにこぼす。
「やばい取引を見てるみたいだ」
「あら、人を壊す薬の取引が、やばくないとでも?」
イレーヌのおどけたような言葉に、
「……それもそうか」
とガレンは納得する。
「それ、リリーが売るんだよな?」
「えぇ。安心して。ガレンには任せないわ」
「そうしてくれ。俺が持ってると間違えて飲んでしまいそうだ」
怖がるガレンがおもしろくて、リディアはくすっと笑う。その丸い薬を指でつまみ、にっこり微笑みかけた。
また新しい商品が手に入った。




