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龍の国にて  作者: しし
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5-10 葬


5-10 葬


暴徒と化した騎士たちの暴動と翡翠空の訃報は、間を置かずに皇帝の元へ届いた。


「愚かな……」


皇帝は静かに呟き、目を閉じたまましばらくの間、苦悩を噛みしめていた。


やがて唇を噛み締めると、側近に厳しい口調で命じる。


「後宮にて翡翠空および女官たちに刃を振るった騎士たちを全員、粛清せよ。

関わった者も例外ではない。」


側近が問い返す。


「親類縁者はどうされますか?」


皇帝は冷ややかに答えた。


「禍根を残すなと言いたいが、騎士たちの縁者まで粛清する必要はない。

首謀者たちを徹底的に炙り出し、計画に加担していれば連座させよ。」


側近たちが緊張した面持ちで出入りを繰り返す中、皇帝は静かに息をついた。


「急かし過ぎたかもしれぬな……」


側近が蘇枋の来訪を告げる。


皇帝は穏やかに頷いた。


部屋に呼び入れられた蘇枋は、皇帝の目前でひざまずく。


「立太子の儀は当面延期とする。

翡翠空の葬儀を済ませ次第、内々にて執り行え。

朱映の安全を最優先せよ。帝都から離す為、絹の島へ送る。

お前は帝都にて、朱映の立太子及び戴冠の準備に専念せよ。」


蘇枋は「かしこまりました」と返し、部屋を去った。


側近が皇帝に近付き、改めて問いかける。


「蒼識空殿下を龍捕獲へ派遣されますか?」


皇帝は冷ややかな笑みを浮かべて否定した。


「そこまで待てる体力は私には残ってはいない……。

私の白銀の龍に異変があれば、朱映を島より呼び戻す手筈を整えよ。

立太子の儀を内々で済ますのは、反対派の不満を鎮めるための方便に過ぎぬ。

私の方針は変わらぬ。」


深く頭を下げる側近。


皇帝は側近に短く言い放った。

「翡翠空の葬儀の手配は、儀天家に任せよ。」


側近は深く一礼し、皇帝の宣旨を遂行すべく足早に部屋を後にした。


一人残された皇帝の嘆きは、誰の耳にも届くことなく、静かに部屋の奥へと沈んでいった。


◆◆◆


正妃襲撃から一週間程たち、翡翠空の葬儀の儀式は全て滞りなく終わった。


葬儀と並行して、後宮で凶行に及んだ騎士たちは容赦なく粛清された。

また、首謀者として名が挙がった昴烈家の複数の人物も排除された。


柘榴も加担を疑われたが、明確な証拠はなく、粛清の対象からは外れた。

一方、桂花は実行犯の騎士たちに後宮への出入りを許可した責任を問われ、謹慎処分を言い渡された。


桂花も蒼識空も翡翠空の葬儀への参列は許されず、

私は全ての儀式にて、皇帝のすぐ横に立ち参列した。

盛大な立太子の儀こそまだであった為、帝都の民には知らされないが、

それは普段は帝都にいない辺境の貴族にも私の立場を知らしめる行為だった。


王宮の高塔に掲げられる旗は全て白で統一され、

垂幕や緞帳も全て白色で統一された。

さまざまな色であふれる王宮は、

この一週間は、白く染め上げられていた。

高い天井から垂れる香の煙までも白く揺らめき、参列者たちの視線が私に突き刺さるのを感じた。

まるで鋭い獣の視線が周囲を埋め尽くすようで、

私は、感情を圧し殺し、正しい皇太子の姿をなぞるだけの人形と化していた。




儀式を終え、私の自室である大広間の片隅でアズールがゆったりと寝そべっている隣に、私はようやく腰を下ろした。


清空の視線を受け流しながらも、私はひそかにアズールへ身を預ける。


彼は動じることなく、私を潰さぬよう、静かに気遣ってくれていた。


この一週間、見ることができなかった翡翠空からの小箱を見つめた。


小箱は様々な色合いの木の皮を貼り合わせ、繊細な模様を作っていた。

華美ではないが上品で繊細、どこか古めかしい実直さを感じる箱だった。


胸の奥に押し込んでいた感情が、開ける指先を震わせた。


小箱の中には一通の封筒があった。

さらに、小箱の奥底にある木肌には、翡翠空の玉印が鮮やかに押されているのが見えた。

封筒を取り出し、中身を確かめる。


清空が隣に腰掛け、興味深げに覗き込んできた。


女官たちはすでに控えの間に移動し、大広間には私たちだけが残っている。


封筒の中には、翡翠空からの上品な文字で綴られた、ただ私の無事を願う優しい言葉が書かれていた。


「なんだか、本当にお母さんって感じの文だね」

清空は静かにそう呟き、涙で潤んだ私の肩をそっと撫でる。


翡翠空の玉印、

それは彼女の死後も、彼女を正妃と認める者たちには影響力を与え、

私が彼女の意思を継いだ正当な後継者であると示すものだった。

あの時、もう死ぬつもりだったのか……。

死してなお、私を守ろうとする翡翠空の手が、私を抱きしめようとしていると感じていた。



弱った姿を誰にも見せてはいけないと強く思えば思うほど、逆に涙は止まらなかった。


アズールと清空は、言葉はなくともただそばにいてくれた。


いつも頼ってばかりで、申し訳ない……

そんな想いが胸を締め付けていた。


アズールの鱗越しの熱と、清空の人の温もり。

そのどちらもが、私を生かす灯火だった。

だからこそ強くならねばならなかった。


例えばそれがただの虚勢であっても、強さを誇示しなければ……、

利用され、何も守れない人間だけにはなりたくなかった。





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