4-4 母と息子
4-4 母と息子
長の決定は下された。
まず第一弾として、私・清空・アズールの三人が先行して帝都へ向かう。
その後、馬甫を指揮官とした商隊が第二弾として帝都に入り、拠点を確保。
それを合図に、白羽ら戦闘要員が第三弾として派遣されることになった。
各派閥の長たちは、誰をどこに配置するかを慎重に話し合っていた。
馬甫は、村の特産品をそのまま持ち込むのは危険だと判断し、自身が長年かけて集めてきた他国の布や貴金属を取り出して確認を指示した。
陽仁をはじめ数人が、それらを蔵から運び出している。
また彼は、貴族邸に女官や針子として潜入できる人材を選ぶため、女性たちの中から志願者を募っていた。
私はというと、清空や長とともに、先行部隊としての心構えや、後続との連絡方法などの打ち合わせに追われていた。
かつて村が商館を設けた帝都内の拠点が、いくつか今も残っており、そこを経由地とせよという指示も受けた。
第三弾の戦闘部隊には、殲滅派の若者が多く名を連ねていた。
「龍を待つまでもない、我らが帝都を討つ」と豪語する者を、年長者たちが「時機を見ろ」とたしなめている。
白羽はその中心に立ち、ただ静かに決意の色を宿した目で周囲を見つめていた。
そんな中、ひときわ大きな声が広場に響いた。
「なんでだよ! なんで俺だけ駄目なんだよ! 紬だって帝都に行くんだろ? 戦えなくてもいいなら、俺だって行けるじゃん! 荷物持ちでも何でもやるから!」
桂馬が、馬甫に向かって叫んでいた。
紬が彼をなだめようと肩に手を置くが、桂馬はそれを振り払って言い募る。
その時、白羽が低い声で言った。
「お前、まだ十七だろ。家で待ってろ」
その言葉に、桂馬は唇を噛みしめてうつむき、悔しさを噛み殺したまま広場から走り去った。
紬が追いかけようとするが、白羽が手で制した。
「……あいつは、俺らの弟分だ。
死なせたくねえよ。裏切られたって思うくらいでちょうどいい。放っとけ」
誰もがこの作戦の無謀さを分かっていた。
けれど、他に選べる道がない。だからこそ、誰も反論はしなかった。
ただ、沈黙だけが辺りに漂っていた。
皆が話し合う中、先に家に帰った梨花は、文机の前に座り、筆をとった。
「――桂花姉様
突然の手紙をお許しください。
龍が、帝都を襲います。
どうか、どうか都から離れてお逃げください。
突飛な話とお思いになるかもしれませんが……あなたの妹は、ただあなたを案じております。
どんな空の下にいても、あなたの幸せを、私は祈っております」
そこで筆を止め、梨花は手紙を丁寧に折りたたむと、文箱へとしまった。
その箱に手をつき、顔を伏せて、ぽつりと呟く。
「……ごめんなさい、姉様。
この手紙、出せません……。
私にとって大事なのは、夫と、息子なんです。
ごめんなさい、許して……」
涙をこぼしながら、梨花は遠く帝都にいる姉に、ただ謝り続けた。
家の扉が開く音がして、梨花は顔を上げた。
慌てて文箱を隠すと、息子の桂馬が、土間から大声で叫んできた。
「なんでだよ! なんで俺だけ帝都に行けないんだよ!」
「桂馬……?」
慌てて立ち上がり、部屋から声をかける。
「なんで俺だけ……。他の奴らはみんな行くのに……!」
その姿を見た瞬間、梨花の胸に怒りと不安が同時に広がった。
「……桂馬、遊びに行くんじゃないのよ。
みんなが行くからって、そういう理由で行きたがるのは、やめて!」
「母ちゃんまで……子ども扱いしやがって!」
桂馬は吐き捨てるように言い、勢いよく家を飛び出していった。
梨花はその場に膝をつき、土間にへたり込む。
夕暮れの日差しが入り込んでいた。
村は赤く染まり、ただ静かにその時を待っているかのようだった。
家族を、また失ってしまうかもしれない――恐怖が胸を締めつける。
「……もし桂馬が死ななきゃ誰かを救えないっていうなら……
龍も、帝都も、いっそ滅んでしまえばいい……」
そう思った自分に、梨花は言葉もなく打ちのめされた。
けれど、それは紛れもない本音だった。




