街の情報
城が目覚めてから1カ月ほど経った。
シャーロットの体調も元に戻ったので明日は城の外に出てみることになった。すぐそばに市民の憩いの場になっている「バラの広場」がある。城のバラと違って珍しい品種は無いが城のバラより数が多い。一斉に咲き誇ったバラは圧巻だ。貴族もよく訪れている所で治安も良いし安心だ。
僕は念の為、数人の護衛と共に下見に行くことにした。
明日は広場までは馬車で行く予定だが、今日は歩いて行くことにした。馬車だと見過ごしてしまう危険があるといけないからだ。
途中、井戸に人が集まっているのが見えた。何やら困っている様なので近づいてみる。
「ああ、ここも濁ってる。これじゃ飲めないわ。困ったわね」
「あの通りの向こうまで行けば飲めるらしい。しばらくはそこまで水汲みに行かなきゃならないな」
「今までこんなに水が濁る事は無かったのに。なんでかしら?」
井戸の水が飲めなくなっているのか。最近は大雨が降ったこともないし、どうしたのだろうと僕も首を傾げる。
しばらく行くとまた人が集まっている。何かあったのかと近付いてみると今度は家が傾いているらしい。
「この辺りは皆同じ高さの土地なのに、この家のこっち側が隣の家と比べると指3本分くらい低くなっているだろ。でも反対側は同じ高さだ。つまりこの家は傾いているって事だろう?」
見てみると家の高さが左右で違う様に見える。僕は近くの井戸から水を汲んで流してみた。水は同じ方向へ流れていく。高低差がある証拠だ。
「いつからこうなったんですか?」
僕の問いにその家の人たちが答えてくれる。
「そうねえ。一カ月ぐらい前からかしらね」
「ああ、そうだ。お城の茨が無くなるちょっと前くらいだったから覚えてる」
「最近この辺りじゃ変な事が起こってて気持ち悪いのよ」
「変な事?」
僕は尋ねる。
「ここみたいに家が傾いたって所も他にもあるし、井戸の水が濁ったり、あと地面から変な音が聞こえるって話も聞いたわ」
「それはどの辺りですか」
住民たちが色々なことが起きている場所を教えてくれる。僕は護衛騎士達を使って他にも問題のある場所がないかを探らせた。
城に戻り、アビゲイルとチェスターにも声を掛けて街で仕入れた情報をまとめてみる。
おかしな事が起こり始めたのはだいたいどこも2〜3カ月前くらいからだった。ちょうど城が茨で覆われた頃からシャーロットが目覚めた頃あたりだ。
チェスターが城下町の地図を持ってきてくれた。異変が起きている場所を地図に書き込んでいくと面白い事がわかった。
「これ、みんな王城の中心から同じ距離にある。こうやって繋げてみると」
そう言って僕は異変が起きた地点を滑らかな曲線で繋げてみる。
「城を囲む大きな円になると思わないか?」
「うん、綺麗な正円になるね」
「地下に何かがあるのかしら? 水脈?」
「いや、これは自然のものではない」
地図に描かれた円をみて僕は何かを思い出した。
綺麗な真ん丸。正円。
「魔法陣か?」
「え? 街には何の絵もないわよね。もしそんなものが描かれていたら皆すぐに気がつくもの」
「地上ではなく地下だとしたら? 誰も気づかないよね」
僕が言うとアビゲイルが反論する。
「誰にも知られずに地下にそんな巨大なものを作るなんて不可能だわ。トンネルを掘る音とか絶対に気付かれるでしょ?」
「何か気付かれない方法があるはずだ」
チェスターはアビゲイルにそう言った。
「通常、同じ精度で描かれた魔法陣は大きければ大きいほど威力が増すんだ」
チェスターが教えてくれる。
「なあ、この巨大な魔法陣は何に使われたと思う?」
「それはシャーロットの呪いだろ?」
そうなんだろうけど、何かが引っ掛かる。
「とりあえず、この件を魔法院に知らせよう」
僕は地図を魔法院のザラに持って行く様に指示した。
シャーロットの誕生を祝う宴、招かれた賢人は全部で7人。マーヤが乱入する前に予言を告げた6人の賢人、この6人は問題ないだろう。ザラ様もこの中に入っている。マーヤは森に篭っている賢人のフリをしただけだ。
マーヤが賢人の役を演じている裏で、シャーロットに死の予言をした者は誰か。考えられるのは当の消息不明になっている賢人ナタリー自身だが。
「ザラ先生によるとナタリーはそんな事をする人じゃないって事よ」
「でも賢人は考えが読めないじゃないか。ザラ先生もナタリーに騙されていた可能性はあるよな」
確かにそうだ。
「ところでずっと気になっていたのだが、賢人の予言とは一人につき一つまでなのか?」
アビゲイルもチェスターも、何でそんな分かりきっている事をという様な顔をして僕をみつめる。
「え? だって普通一人一つでしょ?」
「いや、僕の国にはそういう慣習は無いんだ。一人一つと言うのは慣習でか? それとも能力的な問題なのか?」
僕は幼い頃からこの国に長く滞在しているが、王族の誕生はシャーロットやこの双子以降無いので知らない。
アビゲイルが黙り込む。反対にチェスターはもっともだと言う顔をして言う。
「当たり前過ぎて考えたこともなかったな」
「もし、一人が二つ以上の予言が出来たなら、最初の6人も怪しくなる」
「それってザラ先生も疑うってこと?」
アビゲイルが腹立たしそうに言う。
「疑いたいわけじゃ無いか、可能性がある以上容疑者から除外できないだろう?」
「そうかもしれないけど、ザラ先生は絶対違うわ」
チェスターはアビゲイルの頭を軽く叩いて言う。
「それは俺たちも同じだよ、な? パトリス」
僕は頷いた。
「シャーロットの死の呪文を発動するためにこんなに大きな魔法陣が必要なのか?」
「命を奪うだけなら不要だと思うけど」
「死んだ後に王城を茨で包むためでしょ?」
「いや、死んでないのに包まれたんだが」
間髪入れずチェスターが突っ込む。
「じゃ、生死に関わらず王城を閉じ込めるつもりだったって事ね」
「何のために?」
僕の問いにアビゲイルは黙り込むとチェスターが口を開く。
「王弟が王室の人間を害して王位を奪うと言うなら、こんな面倒な事をする必要がない。最初は王弟の仕業かと思ったんだけどな」
「なあ、ここで話していても結論は出ないだろう? お前はシャーロットの側についていてやれよ。きっと心細く思ってるぞ」
チェスターに言われ僕はシャーロットの元に行った。
「パトリス!」
シャーロットの明るい声で迎えられる。
「明日は久し振りの外出でしょ? 嬉しくって何だか落ち着かないの。ちょうどお話したいと思ってたのよ」
嬉しそうな彼女に先程の会話は伝えられない。そうだ。シャーロットは事実だけを知ればいいんだ。僕たちが早く解決して「こんな事があったんだよ」と笑って伝えられる様にしよう。
「明日の天気は良さそうだよ。バラもちょうど見頃だし、人が多いかも知れないから大き目な帽子で顔を隠そうか?」
「じゃあカツラで髪色を変えたいわ。この金髪じゃ目立つでしょ?」
「確かにそうだね。何色がいい?」
「えーと、あ! パトリスと同じ色がいいわ」
「え? ごく普通の茶色だけど。こんなのでいいの?」
「普通かどうかは問題じゃないわ。パトリス色の髪にしたいの」
パトリス色?
何て事を言ってくれるんだ、この人は!
これ、絶対耳まで赤くなってるよね。バレバレだよね、ただしシャーロット以外に。
すると侍女が一歩前に出て口を開いた。
「こんな事もあろうかと、シャーロット様のカツラ、各種取り揃えてございます」
「城下を見てみたいとおっしゃるだろうと思って用意しておきました。シャーロット様の金髪は目立ちますのでね」
「もちろんパトリス様の髪と同じ色もございますわ」
侍女たち準備良すぎだろう!
「ちなみにシャーロット様の髪と同じ色のパトリス様のカツラも用意してございますのよ」
「え? 金髪のパトリス? 見てみたいわ」
「でしたら持って参りますわ!」
侍女がノリノリで金髪のカツラを持ってきた。
シャーロットはそれを侍女から受け取り僕の頭にかぶせて髪を整える。
「うーん。面白かったら笑おうと思ってたのに。普通に似合っているわね。残念」
「ええ、とても良く普通に似合ってらっしゃいますねえ」
「その上格好良く見えてしまうのが悔しいわね」
褒めるか貶すかどちらかにして欲しい。
いや、みんな僕に何を期待しているんだ。そんなに残念そうな顔をするな。
「でも金のパトリス、とっても素敵だわ。このままお揃いの金髪で出掛けたいところだけれどね」
「はい。今以上に目立ってしまいますね」
「じゃあ明日は二人でパトリス色の髪で出かけましょう」
パトリス色の髪、普通の茶色なのにそう言われると特別な色に感じる。
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