賢人の言葉
翌日は天気も良く、絶好のお出かけ日和だった。久し振りの外出にシャーロットもシャーロットの侍女達も浮かれている様子だ。
「姫様、今日は晴れてようございましたね」
乳母も嬉しそうだ。
「パトリス、このドレスおかしくない? 侍女達が頑張ってくれたのは良いけど、バラ園に行くにはちょっと気合いが入りすぎてない? ちゃんと茶色の髪に似合っている?」
シャーロットが心配そうに尋ねる。
「大丈夫だよ。茶色の髪と色も合っているよ。バラ園に行くのにちょうど良いと思う。スカートの丈も気持ち短くて動きやすそうだし。間違っても悪目立ちする事はないよ。とても綺麗だ」
「よかった」
安心するシャーロットを見て僕も思わず笑顔になる。にやけてた僕の横に乳母が滑る様にやってきて耳元で囁く
「本日はお気張りくださいませね。わたくし達皆パトリス殿下の味方ですので」
乳母を筆頭に侍女達全員が「パトリス殿下」「頑張って」と書いた小旗をにこやかにパタパタ振りながら生暖かい目で見つめている。いや、いつ作ったんだよそんな小旗。
「応援、感謝する」
僕はぼそっと呟いた。
僕はシャーロットの手を取りエスコートをする。馬車まで歩く間、僕は今日やる事を頭の中に思い浮かべる。バラ園に入って暫くは二人でバラを堪能して、道なりに歩いていくと噴水に至る。そこで用意していたこのイヤリングを渡そう。
僕は胸ポケットに仕込ませてあるイヤリングの箱を撫でる。僕の目の色と同じ緑の宝石がついている。ちょっと恥ずかしいけどこの色を選んだ理由を教えて、ちゃんと僕の気持ちを伝えよう。
友達とか幼馴染とかじゃ無く、ちゃんと婚約者としてシャーロットが好きな事を分かってもらうのだ。
周りの人は僕が何も言わなくても皆僕の気持ちを知っているのに、何故シャーロットだけが分かってくれないのか不思議だ。これも何かの呪いなのか? いや、絶対に呪いだ! そういう事にしておこう。
「パトリス、大丈夫?」
シャーロットが心配そうに僕の顔を覗き込む。
「これから遊びに出掛けるのに険しい顔をしてるのだから」
え? そんな顔をしていたのか。気をつけよう。今日は穏やかに優しい表情で過ごしていたいから。
「大丈夫だよ。僕も久々のシャーロットとの外出で緊張しているのかもしれないな」
うん。これは事実だ。今日の工程を考えると緊張してしまう。
馬車が見えてきた。シャーロットを馬車に乗せ、僕も乗り込む。最後に侍女が乗った。まだ正式に婚約をしていない男女という事で二人きりになるのを防ぐ為だ。いや、逆にそんな申し訳無さそうに何度も頷きながら僕の顔を見ないで欲しい。
扉が閉まると馬車はゆっくりと動き出す。城の中のバラも綺麗に咲いている。門までの間ずっとバラが続いているので、暫く綺麗なバラを見て過ごす。
そして門を出た瞬間、シャーロットが急に苦しみだして倒れた。僕は声を上げて慌てて馬車を止めさせる。車内を見た御者はすぐに状況を理解し元来た馬車をなるべく揺れない様にと戻って行く。
僕はシャーロットを椅子の上に寝かせたが仰向けは辛いらしく彼女はすぐに起き上がって苦しそうにしている。どこが苦しいんだ? 僕は彼女を膝に乗せ抱きかかえて、少しでも楽になる姿勢を探す。侍女はシャーロットの汗を拭っている。
そうこうしているうちに宮殿の車寄せに着いた。
先程見送りをしてくれた侍女達が何事かと集まってきた。すぐに状況を理解した侍女長が的確な指示を出す。
僕はシャーロットを抱き抱えたまま彼女の寝室へと向かった。
部屋に入り侍女達にシャーロットを託すと呼ばれた侍医が大急ぎで部屋に入って行く。
僕は彼女の部屋を後にした。
全てがあっという間の出来事だった。
騒ぎを聞きつけたアビゲイルとチェスターが駆け寄ってくる。僕とシャーロットの外出の報告を聞くため王宮に来ていたのだ。
「何があったの? まさか襲撃とか?」
アビゲイルの問いに答える。
「いや、門を出た途端、シャーロットが急に苦しみ出したんだ。今、侍医が見ているところだ」
「出掛けるまでは元気だったんだろ?」
「ああ」
全く、何が何だか分らない。
いや、ずっと何かが引っ掛かっているのだ。
それが何かは分からないが。
「とりあえず場所を変えよう」
チェスターはそう言ってぼんやりしている僕を自分の部屋へと案内した。
チェスターは僕を椅子に座らせた。
「おい、しっかりしろ」
ガシッと両肩を掴まれて軽く揺られた。その振動のせいだろうか僕はごく小さく呟く。
「賢人の贈った言葉は実現する」
それが本当だとしたら?
のんびりと状況を見ているだけじゃ駄目だ。
僕の頭は急に回り始めた。
「シャーロットを救うためにも賢人ナタリーの行方を調べる必要がある。チェスター、お前の事だ。既に調べてあるんだろう?」
「彼女が最後に確認された場所は分かる。逆に言うとそれ以外はお手上げだ」
「彼女はどこにいたんだ?」
「ゴッタルトだ」
「またゴッタルト?」
アビゲイルが口を開く。最近よく聞く地名だ。東の国との国境付近にあるゴッタルト。今はこの国が統治している。
「ああ。マーヤが言っていた行商人がいた所だ。賢人ナタリーはそのゴッタルトの森で穏やかに暮らしていたらしい」
「やはり一度調べに行った方が良さそうだな」
僕が言うとアビゲイルが心配そうに言う。
「そうかもしれないけど、今はシャーロットの側にいる事が一番だと思うわ」
その時扉がノックされシャーロットの診察が終わったと侍女が伝えにきた。
シャーロットは眠っているとの事だが、顔だけでも見に行こうと僕たちは部屋を出た。
シャーロットの部屋に行くと、侍医はすでに帰っていた。シャーロットは薬が効いているのかよく寝ている。
寝台の横には王妃がいてシャーロットの手を握っている。王妃の後には王が立っていた。
二人に礼をすると王は部屋から出る気配を醸し出す。右手を振ってパトリス達に付いてくる様に伝える。
王妃を残して4人は部屋を出て王の執務室横にある応接室に向かった。
部屋に入ると王は僕たちに座る様に指示する。
「この部屋で話される事は他人に聞かれる事はないから安心して欲しい」
「はい」
「まずはシャーロットの容体だが、診察の結果特に悪い所はないとの事だ。とはいえ安心は出来ないが」
とりあえず僕たちは安堵する。
「パトリス、君はシャーロットがこうなった理由に心当たりがある様だな」
アビゲイルとチェスターが僕に目を向ける。僕は腹を決め王に思っている事を話すことにした。
「シャーロットの誕生祝いで7番目に予言したマーヤがシャーロットは死ぬと断言しています。もちろんマーヤは賢人ではありません。ですがマーヤの声に被せて本物の賢人が予言をして正規な物になったと思われます。その根拠は、その時の魔力の強さからして予言は本物だったというザラ様の証言です」
王は頷く。何か言うのかと待っていたが、王は僕に話を続けるように目配せする。
「塔にいた老婆は僕に言いました『賢人の贈った言葉は実現する』と」
僕は深く息を吸った。
「シャーロットは予言通り糸車の錘に刺されて倒れました。最後に予言した賢人ブリアナの予言が無ければおそらく即死だったのではないかと思われます」
自分で言っておいてゾッとする。
「シャーロットが生きているのはブリアナの予言のお陰ではありますが、ブリアナの予言を正しく言うと次の通りです。
『王女殿下は錘に刺されても死んだりはしません。100年の眠りにつくだけです』
『私の力ではあの賢人の呪いを完全に改呪することは出来ません。ですが100年の眠りがゆっくりと呪いを解き目覚めた王女殿下はご健康を取り戻します」
つまり、シャーロットには100年の眠りが必要で、今起きていてはいけないという事なのです」
僕の話をじっと聞いていた王は深いため息をついて言った。
「やはりその結論になるのだな」
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