話を聞こう
マーヤが用意した宿の一室に僕たちはいる。
彼女は椅子に座らされ取り調べを受けている。
彼女の外見は過去の話で見た魔女とは完全に別人だった。
「まさか貴女が賢人として現れるとは思わなかったわ」
ザラは穏やかに言う。
「王都で歩いてたら声をかけられました。あの場に現れて決められた台詞を言えばお金がたんまりもらえるって言われたからその通りにやっただけです。だって前金だけでもすごい額だったんですから」
「依頼人? フードをかぶってたから顔は分からないし、男とも女ともつかない様な曖昧な声でしたね」
「呪いの魔法? あたしにはムリです。そんな力なんてないもの」
「ああ、少しの間だけなら見た目を変える魔法は使えます。てゆーか、その魔法しか使えないんですけど。姿絵をもらったのでそれに化けました。姿絵? 確かに引出しに入れておいたのにお城から帰ったら無くなってました。でももう使わないので気にしてませんでした」
「お金は家に戻ったらすぐに届けられました。詐欺じゃなくて良かったと安心したんです」
マーヤの証言は大体こんなものだった。
「やはり替え玉でしたね」
チェスターは言う。
「実際に魔法を発動した者はあの会場にいたのよね?」
アビゲイルの質問にザラは答えた。
「近くの方が余計な魔力を使わなくて済むのでシャーロット王女の側に居たはずです」
「お前に依頼した者の心当たりは無いのか?」
僕の質問にしばしマーヤは考え込んだ。そして話そうとした途端、マーヤの動きは止まった。
「ザラ先生! この方どうされてるのですか?」
アビゲイルが驚いて尋ねる。
「沈黙の誓約……? でも、そんなはず。あれは王族にしか使えないのに」
ザラが呟く。心配してザラを見つめる僕たちに気付くと落ち着いて言った。
「これはおそらく沈黙の誓約と同じ効果のある魔法です。依頼者の事を話そうとすると発動するみたいですね」
「沈黙の誓約とは違うのですか?」
アビゲイルの質問に苦々しくザラは答える。
「あれはこんなもんじゃありません。以前どの範囲までなら話せるか試したのですが体中に激しい痺れが走りしばらく痙攣が止まらないのです。その間も痛みは続きます。そして二度と話す気にはならなくなるのです。わたくしは色々な状況を試しましたけどね。全て無駄でした。何も伝える事は出来ませんでした」
色々試したんだ。その度に激痛に耐えて。だから恨みも深いんだな。
「正規の沈黙の誓約は王族のみ使えるのです。これは王族の承認なしで出来る代わりに沈黙を破った時の報いが緩いのでしょう。効果が完璧では無いのです。フードを被っていたとか声について語れたのもその為だと思います」
「痛いっ!いったーい!!」
急にマーヤの叫び声が聞こえた。
「あら解けましたね。さっきのパトリス殿下の質問に答えてください」
にっこりと笑いながらザラがマーヤに迫る。
「む、無理です。だって話そうとするとああなっちゃうんでしょ?」
「ああ、確かに。じゃあその魔法、わたくしが解いてあげましょう」
「本当ですか?」
「ええ、でも貴女も魔法の修行を一時でもしたら分かっていると思いますが、解呪には対価が必要ですよね。貴女の大事なものが」
「大事なもの?」
「そう、今思い浮かべたものです。なるほどね、この宿屋が一番大切かと思ったら違うんですね」
「い、いや、この宿屋ですよ。私の大事なものは」
焦るマーヤにザラは聖女の様ににこやかに微笑んで言った。
「その綺麗で艶やかな黒い髪をいただきましょう」
「嫌だ! 髪は女の命だ。小さい頃から髪だけは褒められてきたんだ、これは私の命と同じだ!」
「じゃあ代わりに命を差し出すというのですか?」
「そ、それは……」
「でもね命を頂いたら話が聞けなくなるじゃないですか。まあ亡骸から話を聞く方法も無くは無いのですが、あまりやりたくはないのですよ。髪と命、どちらをよこしますか?」
なにこれ、ザラ様怖い。というより滅茶苦茶な事言ってませんか。おそらく本人も自覚があってわざとやっているのだろうけど。
髪か、命か。どちらを手放すかと問われて悩むものなのか?
黙るマーヤにザラは続ける。
「返事が無いならわたくし達が決めますね。 皆さん、どう思われますか?」
「いや、普通に髪でしょう」
チェスターの即答に皆頷く。
だがアビゲイルは物言いたげだ。女性の髪を差し出せと言っているのだから同じ女性としては思うところもあるだろう。
「では貴女にかけられた沈黙の呪いを解きましょう」
ザラはまた不思議な発音、ルーンを口にした。するとマーヤの髪が風に靡いた様に揺れ出した。
「いやあ、止めて!」
マーヤは髪を守るように両手で頭を押さえながら叫ぶがザラはお構いなしだ。
ザラの呪文が終わるとマーヤの髪は一瞬光り消えて行った。
マーヤはいわゆるつるっ禿げな状態になった。自分の頭を触り狂った様に叫ぶマーヤ。
ザラは彼女の手を取って強い口調で言った。
「貴女がした事は王族に対する殺人未遂と内乱罪で本来なら死刑に値するものです。それが髪だけで済んだのです。髪はまた生えてきます」
「そんなの嘘よ!」
マーヤはさらに興奮してとても話にならない。
「先生、もういいんじゃないんですか?」
アビゲイルかやれやれといった表情でザラに言う。
「確かにね。本当、髪は女の命ですね」
ザラは呪文を唱え出した。するとマーヤの髪が地肌から生えてきたのだ。そして顎近くの長さで成長は止まった。
「ほら見えるでしょ? 貴女の髪がちゃんと生えてきたのが」
自分の頭を触り、マーヤは少し落ち着いてきてから呟いた。
「……短い」
「それは対価にしたのですから仕方がないですね。でも手入れが楽で良いと思いますよ」
「短いのも悪くはないな」
チェスターが付け加えた。
ええ? こいつこんな台詞も言えるんだ!
僕は感心した。いや、落ち着かせて話を聞くためってわかってはいるけどね。
異性であるチェスターの言葉に安心したのかマーヤは落ち着いてきた。
マーヤが話せる様になるのを確認して、ザラが口を開く。
「依頼した人に心当たりがあるのですね?」
「はい。私は東国との国境付近に住んでたのですが、あの人はよく東国から行商に来てた人に似ていると思うんです」
東国? それはこの国の東に位置する国だ。ちなみに僕の国は反対側にあってこの国では西国と呼ばれている。
「東国が絡んでいるのか?」
チェスターがポツリと言う。
皆黙り込んでしまった。この国と東国の関係はすこぶる悪いからだ。
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