魔法陣
アビゲイルの応接室への帰り道、
「思ったよりすんなり行けたわね。お父様って実は話せるタイプだったのね」
喜ぶアビゲイルにチェスターがしばし可哀想な子を見る目を向ける。だが急に吹き出した。
「お前は単純でいいなあ。まあそんな所が俺の救いかもしれない」
そう言って彼女の頬に軽く口付けた。
「もう! 揶揄わないで」
チェスターは冗談ぽく肩をすぼめた。
だが僕は分かっている。今のはチェスターの本心だ。彼女の常識はずれで子供っぽくかつ考えなしのところがどれほどチェスターを救っているか当の本人は知らないのだろう。ああ、これは決してアビゲイルを低く評価しているのではない。褒めているのだ。
あ、でもこのままだとマズいよな。いくら仲の良い双子とはいえ、いい加減に姉離れしないと。早く良い人に出会えるといいな。僕は生温かい眼差しをチェスターに向ける。
それに気付いたのか軽く咳払いをしてチェスターは話す。
「王弟の行動原理は兄へのコンプレックスだ。優秀な兄といつも比較されていたらしい。実際は王弟も優秀ではあるんだけどね。兄が優秀過ぎたんだな。でも第二王子は何かあった時は兄王子の代わりなれるように王になる教育も受けさせられる。同じ事をするので比較もされやすい」
「それって第二王子にありがちなの?」
アビゲイルが僕を見ながら尋ねる。
「僕の場合は割と早くからこの国の王配になる事が決まっていたからね。王としての教育は弟の第三王子が受けてるよ。でも兄に対して変なコンプレックスは無いと思うな。普通に出来の良い兄を尊敬しているみたいだから」
「まあそうよね。性格によるでしょうね」
「アルフレッド王弟の場合は、兄を見返してやりたい思いが強いと思うよ。今回のことも兄がした契約を自分が解除する事で自分の能力を見せつけたいのだろう」
チェスターはすぐにアルフレッドのハンカチをザラのいる魔法院に届けさせた。同時にアルフレッドが解呪の承諾を得たことも告げた。
それから何日が経ってザラから連絡があった。魔法陣ができたという。
ザラがいる魔法院は許可された者しか入れないので離宮のアビゲイルの応接室まで来てもらうことになった。
「届けてもらったハンカチの情報を魔法陣に組み込みました。早速ですが魔法陣を展開しましょう」
「ここでですか?」
僕が聞くとザラは優しく頷いた。
「魔法陣を描く床があればどこでも出来ますよ」
ザラは一枚の紙を手に取りそれを床の上に置いた。と同時に紙に書かれた図形が大きくなって床に移った。絵がなくなり白くなった紙は床の絵の中心で燃え上がり灰になって消えていった。
すると先日の王弟とのやり取りの光景が浮かび上がった。以前塔の上で老婆に見せられたものと同様に本人がそこにいるみたいに鮮明に見える。
王弟が自ら腕を傷つけて血のついたハンカチをこちらに渡すのを見てザラが言った。
「確かにご本人の承諾をもらったのを確認しました。これより術を解除します」
ザラは不思議な音声を発音する。
「あれはルーンの古代発音よ」
こっそりとアビゲイルが教えてくれる。
直径3メートル位の魔法陣が黄金色に光だし中心から文字が現れてうずまいていく。おそらくルーンの古代文字だろう。文字は縄の様になりザラの体を縛ったかの様に見えた。途端に縄ははじけて砂金の様に細かい金の粒になって風に流される様に消えていった。と同時に魔法陣が床から浮かび上がり、こちらも金の粒になって消えていった。
「終わりましたよ。魔法陣さえしっかりしていれば割と簡単に来るのです。もっともその魔法陣作成が何より大変なんですけどね」
確か妖精さんに頼んだんだよね。妖精さん、お疲れ様でした。
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