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沈黙の誓い

それからしばらくたってから僕らは賢人(けんじん)と会う事ができた。

賢人は公務が多くなかなか自由になる時間が無いので、会えるまで時間がかかってしまった。

ザラと名乗る彼女は外見からでは年齢が全くわからない。幼女のようでもあり老婆のようでもある。

「実際の歳は貴方様がお考えになっているよりもかなり上ですよ。賢人は自分の年齢を明かす事を好みません。お好きな様に思ってください」

「し、失礼致しました」

賢人は王族と同等の扱いを受ける。失礼な振る舞いは自分の首を絞めかねないのだ。

「大丈夫よ、パトリス。ザラ様はね、とーってもお優しくて寛大だから」

「アビゲイル様、それは私を牽制していらっしゃいますか?」

ザラは穏やかに微笑む。あーでもこの手のタイプは本心隠すのが上手いからな。気をつけよう。

僕のその考えも読まれていた様で、ザラは僕に向かって悪戯っぽく微笑む。

「ザラ様は、私とチェスターの魔法の先生なの。だからいつもはザラ先生とお呼びしているのよ」

「え? 二人は魔法が使えないだろう?」

「そうよ。魔法の使い方ではなく、歴史や原理の授業をお願いしているのよ。魔道具を開発するためにね」


魔法が使えなくても「魔道具」と呼ばれる道具があり、それを使えば誰でも魔法と同じ効果が出せるのだ。

ただしかなり高価なので貴族や一部の商人など裕福な市民にしか普及していない。

例えば一度行った所に瞬時に行ける魔道具はちょっとした家一軒分くらいの値段がする。

普段の生活に取り入れると言うよりは、命が掛かったりいざという時に使う物という感覚である。

この魔道具を作る研究が最近盛んになっていて安全で安価な魔道具の開発が進んでいるのだ。


僕の国にも魔道具はある。この国よりももっと身近なものだ。

例えば「ずっとひたすら玉ねぎを飴色になるまで炒める魔道具」が人気だ。オニオンスープが国民食と言われている我が国では玉ねぎのキャラメリゼは非常に助かる。僕も野営の時など野戦食レーションだけでは物足りないのでこの魔道具を使ってスープを作っている。


「二人は優秀なんですよ。発想も豊かなので良い魔道具を作ってくれるはずなのですが、残念な事に王族なので魔道具職人にする訳にはいかないのです」

ザラがコロコロと笑う。

「でも、お国に何かあった時は、お二人とも魔道具師として生活に困ることはありませんよ。よかったですね」

いや、お国に何かあった時って今サラッとすごい事言ってますけど。


「それでお聞きしたかったのは16年前のシャーロットの誕生祝いの時の事です」

アビゲイルが話題を変えた。

「その質問をなさるということは、貴方たちはあの時何があったのかもうご存知という事ですね」

「はい」

アビゲイルの返事に続き僕は塔の中で見た過去の光景を詳しく話した。

話を聞いたザラは困った顔をした。

「すでにご承知の事と思いますけど、あの時何があったかは皆の記憶から抜け落ちています。それを元に戻すことはおそらくできないでしょう。そして、賢人たちも沈黙の誓いをしています」

「でも先生、誓いって大抵は破られますよね?」

凄いこと言ってるよ、この娘。でも、大体合っている。

「沈黙の誓いは破る事ができません」

ザラは断言した。

僕たちは頼みの綱が切れた思いだった。絶望感がこの部屋を満たしていった。

長い沈黙を破ったのはザラだった。

「でも何事にも例外ってあるんですよ」

ザラが続けると、僕たちの表情は明るくなった。

「ただ、その方法も絶対という事はありません。期待させて悪いのですが」

「可能性があるだけでもありがたいです」

僕は感謝の意を述べた。


「沈黙の誓いを我々に要請したのは国王陛下アーロン様です。アーロン様のご命令なら我々は沈黙の誓いを解除させる事ができます」

「国王陛下のご命令……」

僕たちは黙ってしまった。だってそれは明らかに無理だから。

「アーロン様もそのご令嬢シャーロット様もあの茨の下にいますよね。では何か方法はないでしょうか」

二人の先生をやっているだけあって質問形式で僕たちに考えさせるザラ。

アビゲイルが何かを思い出した様に言った。

「もしかして……血の継承?」


血の継承とは、魔法契約を結んだ相手が亡くなるなどした場合にその血を引く者が代わりに契約の続行、解除などをする事だ。親の代わりに子供がするのが普通だが、それ以外の血縁者でも可能だ。必ず継承出来るとは限らないが血が近い方が可能性が高い。


ザラが頷いた。

「はい。その通りです。これには実際に血縁者の血を使います。布とかに染み込ませたものでも良いのですが」

「じゃあ私の血を使ってください」

嬉しそうにアビゲイルが言うと即座にチェスターが割り込む。

「駄目だ!」

普段は穏やかなチェスターのあまりに強い口調にアビゲイルは驚く。その様子を見てチェスターは取り繕うように続けた。 

「えっと、俺たちだと血が遠い。先生、血は近い方が成功しやすいですよね」

チェスターの質問にザラは頷いた。

「それにアビゲイルが傷つくのも嫌だ。お前は怪我をするといつも大騒ぎするじゃないか」

「大丈夫よ。ほんの少し傷をつけるだけだから」

「それでも嫌だ。アビゲイルがやるなら俺がやっても良いが、俺たち二人じゃ叔父上との血の関係は一緒だから意味がない」

「じゃあどうするのよ」

アビゲイルの問いにチェスターはきっぱりと答える。

「王弟の血を使うんだ」


ザラが静かに二人のやり取りを見守っていたのが印象的だった。


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