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負け組夫婦の僻地ライフは意外にも快適です  作者: ゆあん
第二章 アトラ領調査 食料問題編
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第17話 村長

立派な麦畑を目にしたオラリオは、疑問が浮かんだ様子だが……?

 道は下方の村に向かって真っすぐに伸びている。その道に沿うように、その畑はあった。畑は斜面に合わせて階段のように複数の棚づくりになっていて、棚(ごと)丁寧(ていねい)に手入れされた新緑が並んでいた。


 これが、春の麦畑。


 近づいてみると、確かにその先には穂がついている。オラリオはそれに触れながら、(あご)()でている。


「どうなんでしょう?」


 私も触ってみるが、まったくわからない。


 これまで作物に関する文献(ぶんけん)にもそれなりに触れてはいたが、そういう書物は「それをどうやって活用するか」に重点が置かれていて、「それはどういうものだ」を知れるような、図鑑的要素は案外少なかったりする。初めて実物を目にする私には種類の判別はできるはずもない。


「ふむ」


 しかしオラリオは難しい顔をしている。


「どうかしたのですか?」


「ん、いや、少し思うところがあってな。歩きながら話そう」


 オラリオはそう言いながら私の手を引いて進んでいく。


「仮にこれが小麦なら、少し見方を変えた方が良いかも知れない」


 彼は地域全体を俯瞰(ふかん)するように眺めながら言った。


「これだけの規模で小麦が採れていて、食糧難になることがあっただろうか?」

「あ!」


 その言葉で思い出す。あまりに雄大な景色により失念していた。


 ――アトラ辺境。本国領土でも数えるほどの貧困地区――だったはずだ。


「麦の中でも小麦は格別だ。他の麦種に比べ、その栄養価や多様性は突出している」

「他の麦種だった場合には、どうなのですか?」

「小麦ほど食生活は充実はしないだろうな。とはいえ、この量だ。いずれにせよ食うに困る、とはならないのではないかと思うのだが」


 オラリオはそう言うと、額に手のひらを当てながら(つぶや)いた。


「せめて収穫量や住民の数さえわかればな。数字にさえなってくれれば、状況はおおむね把握できる」

「それは宰相補佐としてのご経験ですか?」

「ああ。だがダメだな。やはりそのものを見ないと。広さと単位が紐づかないようじゃ、私もまだまだだ」


 そう言いながらオラリオは辺りに目を配らせている。


 私から言えば、数字を見れば状況が把握できる、という事の方がよほど高度なことのように思える。単に算術ができることと、その数字の意味を読むことが出来るのとは別次元だ。


「……と」


 突然、オラリオの足取りが止まる。


「村人だ」


 彼の指さす方を見れば、麦畑に一人、人影がある。大きな麦わら帽子をかぶり、かがんだりしているので、その姿は判然としない。が、畑作業をしているのは分かる。ここの住人で間違いないだろう。


 オラリオはこちらを見て、小さく「いいか?」と聞いてきた。私は一呼吸してから(うなず)くと、彼はつないでいた手を放し、一歩前へ出た。


「そこの方。ひとつよろしいだろうか?」


 彼の澄んだ声が斜面に木霊(こだま)する。すると畑に埋もれていた人物がぬっと立ち上がり、こちらを見た。どうやら、そこそこの年齢の男性のようだ。


「作業中失礼した。村長に会いたいのだが、ご存じないか?」


 オラリオの問いかけに対し、男性は少し固まったあと、ゆっくりと麦畑を抜けて近づき、怪訝(けげん)な顔を向けてきた。


「はぁ、どちらさんで?」

「ご挨拶が遅れて申し訳ない。私はオラリオ・ジオフリンテ。昨日よりアトラ領主に就く者だ」


 オラリオの言葉に、男性はみるみる表情が変わっていく。


「あ、ああ、新しいご領主さまで。はぁ、それはそれは、失礼いたしました」


 男性は明らかに慌てふためいている。まさか新領主が現れるなど思ってもみなかったのだろう。


「いや、こちらこそ突然すまない。ついては村長と話がしたいのだが、案内を頼めないだろうか?」


「村長ですね。今だと集会所か……ご案内します。どうぞこちらに」

「助かる」


 男性は気まずそうな顔をしていたが、背を向け歩き出した。オラリオがそれに続き、私は一歩後ろからついていく。


 男は道をまっすぐに下っていく。そして集落に辿り着いた。


 集落を構成するのは、質素な木造民家だ。斜面のうち平坦な箇所をうまく活用して家が点在していて、中央には井戸がある。村には沿うように小さな清流が引かれているようだ。村に立ち入れば、枝を持った子供たち数人が駆け回っていたが、やがてその母親と思われる女性に(かば)われるように家の中へ消えていった。


 そうして数件の家を過ぎて、少し大きな家の前に到着し、男性が言った。


「ここで少しお待ちください」


 男はその家の中に入っていく。おそらく、ここが集会所なのであろう。しばらくして再び男性が顔を出し、その(うなが)しに従って家の中に入っていく。


 家の中には巨大なテーブルが一つと、それを取り囲むように立つ数名の男達。そして中央に()す老人が、こちらを見つめて言った。


「どうぞおかけください」


 オラリオは促しの通り、老人と対角の席へついた。私はその横に座る。しばしの沈黙のあと、老人が口を開いた。


「ようこそお越しくださいました。村長のロンと申します」

「お初にお目にかかる。オラリオ・ジオフリンテ。こちらは妻のエーリン。昨日よりアトラ辺境伯の任に就いている」


 オラリオの紹介に合わせて、私も会釈する。再び顔を上げロンの顔を見るが、その顔は暗く、重かった。そして放たれた言葉もまた同様だった。


「ついにいらしてしまわれたか……。このまま領主不在でいてくれることを願わない日はなかったというのに」


 案内してくれた男性が、「村長!」と声を上げロンを非難したが、ロンは気にも留めていない様子だった。


「それで――今日は何用で?」


 敵対心と疑念が織り交ぜられた視線が、オラリオに向けられていた。


村長の元に訪れた二人だったが、村長ロンは明らかに歓迎していない様子。

果たして二人は食料を分けてもらえるのか、

良好な関係を構築することが出来るのか?


次回もお楽しみに!

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