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負け組夫婦の僻地ライフは意外にも快適です  作者: ゆあん
第二章 アトラ領調査 食料問題編
15/29

第15話 開拓指針 ~食料問題~

お互いの過去を話し終えた二人は、これからの行動について話し合い始めるが――

「――全ては、警戒を(おこた)っていた私の未熟さゆえ。()やんでも悔やみきれん」


 話し終えたオラリオは、小さく首を左右に振って視線を落とした。その瞳には後悔の色が映っている。


「すみません、言葉が見つからなくて」

「いや、いい。同情が欲しいわけではないからな。必要なのは、互いの理解だ」


 そういう彼はいつもの凛々(りり)しい表情に戻っている。この切り替えの早さは、宰相補佐としての経験がなせる(わざ)なのだろうか。


 そのオラリオの経験を聞いて、ふと思ったことがある。


「こんなことを言うのは(はばか)られるかも知れませんが――」


 私の伺う目線に対して、彼は片手で(うなが)した。


「オラリオ様も、改革をされようと――志が同じで、嬉しく思いました」


 彼もまた、国の為を思って行動を起こした一人だった。お互いに予想していなかった結果により、ここに送られることになってしまったけれど。その思いが、志が共感できることが、素直にうれしかった。


「そうだな。現状で満足していては、人は成長できない」


 きっと、現状維持を敢行する政治や貴族に対しての(うれ)いもあるのだろう。


「とはいえ、まぁ――」


 彼はそう言うと、わざとらしく部屋を見渡して言った。


「――ほどほどに受け入れるというのも、必要なことなのだが」


 確かに。私も思わず笑ってしまった。


「さて、一通りお互いの経緯を話した訳だが」


 オラリオは一呼吸置いたのち、再び真面目な様子で言った。


「ここで一つはっきりしたことがある――それは、共に退路はないということだ」


 退路。それはつまり、私達が再び貴族の生活――元の立場――に戻れる可能性についてだろう。


 私は自身の行いの責任として。彼は国家転覆の冤罪(えんざい)として。

 貴族社会は一度レールから逸れてしまったものを再び受け入れるような寛容(かんよう)な世界ではないことは、私もよくわかっている。

 私は彼の言葉に、理解として(うなず)いた。


「したがって、これから考えることや起こす行動については、退路を一切除したものにしたいと思う。あわよくばと気を取られていては、また致命的なミスを起こしかねないし、正直ここでの暮らしはそこまでの余裕はないと考えている。現状に対する最善の一手に対し、全力を出すべきだ」


 だからこの話もよくわかる。貴族の中には、自分だけが良い思いをしようと画策(かくさく)する者が少なからずいる。そういう人間はたいてい、時流を読みうまく立ち居ふるまうが、振り返ってみれば何の成果も残していない、ということは割とよくある話だ。またそういう者は敵が少ないが、信用されず味方が少ないのも傾向としてある。

 今や、これから二人でなんとかしていかなければならない状況で、そのような行為に走ることは破滅を招きかねない。二人で目的を共有して、共に頑張る。つまりは領主としてアトラを復興させつつ、二人の幸せな結婚生活に全力を挙げる――彼の言葉の裏には、そういう目的があるのだと理解した。


「私も、それに賛成です。それに――」


 だが彼に賛成するのは、その考えを理解できたから、というだけではない。だから私は満面の笑みで答えた。


「もう未練もありませんので」


 政略結婚の道具として、女を磨き続けること。それだけのために生きるということに、正直疲れてしまっていた。


 他の令嬢からすれば、恵まれた環境に居ながらなんと贅沢な、と思われるかも知れない。私も姉や妹のように生まれて彼女達のような生活をしていれば、そんな考え方にはならなかっただろう。


 だが私は誘拐され、そこで見てしまった。味わってしまった。

 見て見ぬ振りは出来ない。一度体験してしまえば、感性は元には戻せない。


 だったら今の私が一番満足できる生き方をしてみたい。


 ――それがこの人となら、できる気がするのだ。


 私の決意の笑顔を見た彼は、口角をほんの少しだけ上げた。どうやら、この回答を気に入ってもらえたようだった。


「よかった。ではさっそくだが」


 彼はそう言うと一度席を立ち、紙とペンを手にして再び席につき、言った。


「まずは食料問題について、なんとかしたいと考えている」


 オラリオは言うなり、手元の紙にペンを走らせている。書き出されているのは、食材と量。私たちが持たされていた食料についての内訳だ。


「今手元にある分では、もって数日という所だろう。量、質共に足りていない状況だ。だがそれを改善する手段を、我々は持ち合わせていない」


 用意された食料はもともと、馬車で長距離移動する際の緊急食という性格が強い。追放された身であるとはいえ、表向きは領主の任への拝命である。前任の領主や領主館に勤める者達は歓迎こそしないにしても、食事の用意くらいはしておくのが常だ。


 しかし現在、どういう訳か領主館は入ることが出来ず、ここで暮らすしかないという状況。建物は管理されず当然備蓄食もない、料理人も不在――となれば、食料不足になるのは確定だ。


「そこで、ここは恥を忍び、領民に頼みにいこうと思っている」


 その案に私は少し驚き、聞き返した。


「――食料を分けてもらえるよう、お願いに上がるということですか?」

「そうだ」


 彼の迷いのない回答に、覚悟を感じる。


「しかしそうなると、当然彼らも私たちの存在を知ることになる。簡単には、いかんだろうな。危険も伴う。正直、貴方を連れて行きたくない」


 領主が領民に頭を下げるのは、確かになかなかない。アトラは貧困していると聞いているから、食料を分けてもらうのにも一苦労はあるだろう。


 だが、危険とはいったいどういうことだろうか?


「理由をお伺いできますか?」


 私の問いに、彼は再びペンを走らせながら言った。


「領主館に入れない、という話をしたな。なぜなのか話そう」

「お願いします」

「――ここアトラでは十数年前の病が流行し、人口が激減してな。以来、復興は遅れに遅れ、我が国でも数えるほどの貧困地域となった。それを後押ししていたのが、当時の領主の悪政によるものだ」


 紙には、アトラ領土の遍歴が走り書きされている。


「人は一度手にしたものを簡単には手放せない。それが生活に根差した環境であればなおさらだ。己の生活の水準を落とすことは耐えられなかったのだろうな。彼らはそんな環境下にある領民から高い税を徴収し続けた」


 高い税金。どこかで聞いたような話で、胸が痛む。


「そんなことをすれば、双方立ち行かなくなるのは見えている。そして、彼らはとうとう、領主としてもっとも恥ずべき行為に及んだ」


 彼のペン先が、領主の名前に×印をつけた。


「――逃げ出したのだ。アトラ領から。それが二年前のことだ」


改めてお互いの気持ちを確認した二人。

領民との関係が最悪だった前領主の失態を語るオラリオ。

そんな状況で果たして食料はわけてもらえるのか――?


次回、初めて二人でアトラ領土を歩きます。村人なども登場し物語がようやく加速していきますので、お楽しみに!

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