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再会?と遭遇7

はい、続きです。



 目の前に広がる闇、それは彼から吹き上がる深く濃い怨念の塊、【黒い靄】だった。


『キサマ、俺を嵌めようとしたな!』

「嵌める? 何の事だ?」

『外には壁があった。見えない壁が、俺を外に出さないように、封じるようにな! 触れた途端俺の(からだ)が削られた。キサマの仕業か? キサマがあの人(・・・)が言っていた俺を消しに来るという祓い屋(はらいや)か!』

「祓い屋? 何を言ってるんだ? 俺はそんなんじゃない!」

『黙れ! 奴らに復讐する前にお前たちを先に俺の糧にしてやる!』


 彼がそう言うと、白骨死体から【黒い靄】が噴き出していく。


『復讐って何? 私たちを糧にってどういうこと?』


 先輩が怯えたように訊ねて来た。

 復讐、その相手は彼の奥さんと彼の雇い主。彼の記憶では、彼の奥さんは彼の雇い主と不倫関係となり、邪魔になった彼を亡き者にしようとした。彼はそれが真実だと思い込まされている(・・・・・・・・・)。だから彼は、復讐するために俺たちを閉じ込め、力を蓄えようとしていた。


「あんたの奥さんはもうこの世にはいない。復讐するには遅すぎた。こんなことをして一体何になるんだ!」

『関係ない。だったら奴らの子孫に復讐するまでだ。俺を殺しておいて、自分たちだけのうのうと幸せになりやがって! 殺してヤル、殺してヤル! まずはお前たちから殺してヤル!!』


 噴き出た【黒い靄】は頭蓋骨を頭に据え、身体の骨格を芯としてマントのようなローブのような形状に変化していく。それは、まるで死神のような姿だった。


『ヒッ!?』


 先輩が小さく悲鳴を上げた。

 視えているのか? いや、靄は視えなくても霊は視えるのかもしれない。駅のホームで他の霊たちが視えていたようだったからな。【黒い靄】が悪霊の形となったから視えるようになったのか。


『死ね!』

「待て! やめろ!」


 俺の制止も聞かずヤツはその腕を振るってきた。

 腕から黒い触手のようなモノが伸び、俺に襲い掛かって来る。

 咄嗟に右腕でガードすると、触手は俺の腕に絡みついて来た。


「うぐっ!?」


 絡みつかれた腕は締め付けられ、次第に力が抜けていった。

 生気を吸われているのか? 俺は立っていられなくなり片膝をついた。


『勇人君!?』


 先輩が木製の椅子を振り上げ、ヤツの触手に殴り掛かった。


 ドカッ


『グギャッ!?』


 ヤツは獣のような悲鳴を上げ俺の腕を放した。痛覚はあるようだ。というか物理的な打撃が効くのか。凝縮して密度が濃くなり形を成したからか?


『勇人君、大丈夫?』

「は、はい。ありがとうございます」


 先輩は砕けた椅子の木片を掴み、彼を牽制するように構えた。


『勇人君立って! 早く逃げなきゃ!』

「は、はい」


 俺は鉛のように重くなった身体を強引に立たせた。


『逃がすか! 邪魔をするならお前から糧にしてやる!』


 触手が先輩に向け放たれた。


「先輩!」


 俺が声を上げると、先輩は木片を木刀のように振るい触手を叩き落とした。


 ドスッ


『だ、大丈夫。これでも高校時代は剣道部だったんだから』


 先輩はそう言って、木片を器用に振り回し触手を防いでいく。


『チッ、小娘が!』


 ヤツが悪態を吐くと、触手を複数に裂き四方から襲い掛かって来た。


『ちょっ、ずるい!?』


 複数の触手を相手に必死に防いでいたが、死角からの触手には反応できず木片を弾き飛ばされてしまった。


『キャッ!?』


 触手は先輩の両腕を絡め取ると、そのまま身体を持ち上げていく。


「先輩!?」

『くっ!? 外れない……』


 先輩は触手を外そうともがいているが、両腕を封じられてはどうにもできない。足があれば蹴る事も出来ただろうけど、残念なことに幽霊となった今の先輩に足はない。


『ん? お前、霊体か? これはいい、殺す手間が省ける。このまま俺の力と成るがいい』 


 ヤツはそういうと、もう片方の腕を振り上げた。腕は触手へと形状を変えていく。


『い、いやっ!?』

『クハハハハハハ……』


 ヤツの下卑た笑い声と共に、触手が先輩に向け振り下ろされた。


『いやぁぁぁぁぁぁっ!?』


 叫ぶ先輩の目には涙が浮かんでいた。

 俺は頭に血が上り、何も考えることができなくなった。そして、気付けばヤツに殴り掛かっていた。


「先輩に触るなぁぁぁっ!!」


 ドスッ


『グギャァァァッ!?』


 俺の左ストレートがヤツの顔面にクリーンヒットし、その衝撃で頭蓋骨の一部が砕けた。

 先輩を襲う触手は寸前で止まり、締め付けていた触手は力を失ったように垂れ下がり先輩は地面におろされていた。


「先輩!!」


 俺は先輩に駆け寄りまだ絡まっている触手を剥ぎ取った。

 先輩は両手首をさすりながら俺を見上げ、大丈夫であることを示すように微笑んで見せた。


『あ、ありがとう、勇人君』

「ハァ、よかった。本当に無事でよかった」


 ホッとしたのも束の間、頭蓋骨を砕かれたヤツは憎悪を増し怨嗟の声を発した。


『許さん許さん許さん許さん、殺す殺す殺す殺すコロスゥゥゥ……』


 ヤツは両腕を振り下ろし、無数の触手を伸ばし襲ってきた。

 あんなもの防ぎようがない。


「先輩!」

『え!?』


 俺は咄嗟に先輩の腕を掴み、この部屋から外へ(トンネル側へ)出た。

 それと同時に、ドガッと衝撃音が背後から聞こえて来た。

 振り返ると、崩れていた壁がさらに破壊されガラガラと瓦礫が崩れ落ちてきていた。

 こんな古い壁を破壊すれば、トンネル自体が崩れかねない。ヤツはそんなことも考えられなくなっているのか。

 砂埃が立ち込める中、ユラリと揺らめくヤツの姿が視えた。

 トンネルを破壊するようなヤツに構っていられない。俺たちじゃどう頑張っても太刀打ちできない。それこそヤツが言った祓い屋じゃなきゃ無理だろう。幸い、ここからの脱出手段はある。急いでヤツから離れないと。


「先輩、こっち!」


 俺は先輩を連れて外へ出ようとした。

 しかし、ヤツがそれをさせてくれるはずもなかった。


『ニガスカァァァァァァッ!』


 ヤツの怨嗟の声が聞こえてきたが、砂埃で視界が悪く、触手が迫っていることに気が付かなかった。

 触手は勢いよく横薙ぎに振り抜かれ、俺ではなく先輩が弾き飛ばされてしまった。


『キャァァァッ!?』

「先輩!」


 先輩が地面を転がっていく。

 どうにか立ち上がろうとしているが、ダメージが酷いのか立ち上がることができないでいた。先輩は生身どころか魂がむき出しの状態だ。そんな状態でダメージを受けては立ち上がれるはずがない。これ以上ダメージを受けるとどうなるかわからない。万が一という事もある。

 俺は反射的に先輩の下へ駆け出していた。


『クハハッ、まず一人!』


 ヤツの触手が先輩に向け放たれた。


「先輩!!」


 俺は重い体に鞭打ち、先輩へ飛びついた。

 そして、先輩を庇うようにその身体を抱き隠した。


『勇人!』


 先輩は身体を小さくし、必死に俺にしがみついていた。

 そして、ドスッと重たい音が全身に響き、俺たちは吹き飛ばされた。今にも飛びそうな意識の中、先輩を離さないことだけを考えていた。

 俺は背中の痛みに耐えながら、どうにか声をひねり出した。


「せ、先輩。大丈夫、か?」

『勇人が庇ってくれたから私は平気。勇人は?』


 先輩は俺の腕の中で返事をした。

 どうやら先輩は無事のようだ。気張った甲斐があったってものだ。でも……。


「大丈夫って言いたいところだけど、正直痛い。気を緩めたら意識を持って行かれそうだ。……ハハッ、格好よくはいかないもんだな」

『そんなこと……』


 先輩が何か言いかけたが、それを遮るようにヤツが嘲笑ってきた。


『クックックッ、往生際が悪いな。さっさと俺の糧となれ。お前たちに逃げ場はないんだからな』


 逃げ場はある。けど、このままでは……。


「ヤツは俺が押さえておくから、先輩は先に逃げろ!」

『何言ってるの! そんなことできるわけないじゃない!』

「それしか方法はない!」

『だったら私が!』

「ダメだ! これ以上ダメージを受けると、下手をすると先輩の魂が消滅するかもしれないんだぞ!」

『しょ、消滅!?』


 さすがにそこまでは考えていなかったのか、先輩は動揺を隠せないでいた。先輩だってこんなところで消えたくはないだろう。


「外への脱出方法は覚えてるな?」

『覚えてるけど、無理だよ。目を瞑ってたら捕まっちゃう』

「大丈夫だ! 俺が必ず押さえて見せる」

『でも……』

『脱出? そんなことさせるわけないだろ! お前たちは俺の力になるんだからな!』


 俺たちの話を聞いていたヤツは、そう言うとこちらに向け手をかざした。

 俺は立ち上がり、両腕を広げ先輩の壁になるように立ち塞がった。


「早く行け!」

『イヤッ! 勇人を置いてなんていけない!』


 先輩は俺の背にしがみつき、離れようとしない。


「先輩!!」

『っ!?』


 先輩の息を飲む音が聞こえた。


「頼むから言う事を聞いてくれ」


 どう考えても俺は助からない。痛みで立っているのが不思議なくらいだ。歩くこともままならない俺が、ヤツから逃れながらここから脱出することなんて不可能だろう。だったら俺がヤツの足止めをして、先輩だけでも逃がした方がはるかにましだ。


『フンッ、何を相談したところで、お前たちはここで俺の糧になるだけだ。クハハハハハハ……死ね!』


 ヤツは声高らかに嗤うと、(とど)めとばかりに鋭く尖らせた触手を伸ばしてきた。


「くっ!?」

『勇人!』


 先輩は俺の背を強く抱きしめ離れないでいる。これでは二人とも串刺しだ。

 俺は腕をクロスさせ身構えた。

 これでどうにか先輩にまで届かなければいいんだけど……。

 触手が迫る。

 死が近づいて来る。

 これで俺は……。

 死を覚悟した瞬間、ブォンと突風が目の前を横切って行った。

 すると、それと同時にヤツは悲鳴を上げ、迫って来ていた触手は切断され霧散した。


「そこまでだ」


 凛とした声がトンネル内に響き渡った。

 振り返ると、刀を手にした人物が立っていた。


『この気配、あの人が言っていた祓い屋はキサマか!』


 ヤツは刀を持つ人物に言い放った。


「そうだ。見当違いな人間をそうだと思い込んでいたとは、滑稽だな」

『キサマ……』


 確かに、気配でわかるくせにどうして間違えたんだ? 頭に血が上ってたのか?

 それよりもこの人は何者なんだ? 祓い屋と言われ肯定していた。まさか、そんな職種の人が実際にいたとは。でも祓い屋という割にそんな感じはしない。刀を持っているからそれっぽく見えなくもないが、外見的には普通の人だ。パーカーでキャップを深くかぶり、そこらへんにいそうな若者風の格好をしている。……ん? パーカーにキャップ? それって……。


『あの人、Sトンネルにいた人だ』

「ああ」


 先輩も覚えていたようだ。あの出で立ちはSトンネルを見ていた人物に間違いない。

 あの時トンネルを見ていたのは、祓う対象を捜していたってことか。確かにSトンネルには【黒い靄】が漂っていた。視えていたのか? いや、視えていなくても、祓い屋なら気配でわかるのかもしれない。

 どうやって祓うのかはわからないけど、あまり近くにいると危険だろう。逃げたいところだが、ヤツを刺激してもマズイ。少し離れて様子を見た方がよさそうだ。

 俺はこそっと先輩に声を掛け、距離を取った。

 祓い屋がヤツに告げる。


「あの人、というのが何者なのかはわからない、何を言われたのかもわからないが、お前は確実にそいつに騙されている」

『何を意味のわからない事を、あの人が俺を騙す理由はない』

「ある。お前にこの地を穢させるためだ。その為にお前に近づき、言葉巧みに騙した。絶望していたお前はまんまと騙され、体の良い駒として利用された」

『そんな話……』

「信じるさ。彼女の話を聞けばな」

『彼女、だと?』


 祓い屋の背後からスッと女性が姿を現した。その透明感から双葉と同じ幽霊だとわかる。


『あなた……よかった無事で』


 悪霊と化した者を無事と言っていいのかはわからないが、一応祓われずにいるという点では無事なのだろう。


千代(ちよ)……よくも俺の前に顔が出せたな!』

『え?』


 千代さんはヤツの奥さんのようだ。つまりヤツにとっては裏切られた相手、復讐を果たしたい相手の一人だ。今にも襲い掛からんとする勢いで怒声を発している。しかし、祓い屋が間に立ち、それをさせないでいる。


『黙って彼女の話を聞け!』


 祓い屋の一喝で、ヤツは口を噤んだ。何か圧のようなものでも受けているのだろうか? ヤツは彼女を睨みつけ『さっさと話せ』と目で言っている。目と言っても頭骸骨の目があった箇所で不気味に光るそれなんだけど。

 千代さんはおずおずと語り出した。

 話の内容はこんなだった。


 彼女は夫からの連絡が途絶えたことを心配し、様子を見にやって来た。そこで夫の死を聞かされ絶望した。しかし、遺体を確認するまでは諦めきれず、崩落した炭鉱を掘り返してくれるように夫の雇い主に直談判した。しかし、それは聞き届けられなかった。不審に思った彼女は、夫と同じ仕事をしていた者に話を聞こうとしたが、その全員が所在不明だった。そして、彼らを捜している際に関係者と思われる者たちの話を聞いてしまった。雇い主は夫たちに賃金を払う気がなかったのだ。炭鉱に何もないことがわかり、金を払いたくなくなったのだ。そこで、炭鉱を崩落させ、全員生き埋めにすることを思い付き実行した。難を逃れた者たちも、おそらくこの世にはいないのだろう。それを知った彼女は雇い主に詰め寄ったが、彼女も殺されこの山に捨てられてしまった。

 死しても夫を捜し彷徨っていた彼女に、ある人物が接触した。

 その人物は、彼女の夫が悪霊となってしまい、祓い屋に祓われるかもしれないと告げた。そして、それを防ぐ方法を教えた。それは、この山一帯に結界を張り、夫の気配を漏らさないことだった。それには夫を護りたいという強い意志の力が必要だった。そして、それは彼女が最も強く持っていた。彼女が了承すると、その人物は彼女を触媒にして結界を張った。

 しかしそれは、夫をここに縛るための嘘で、彼女は騙されていたのだ。

 そうとは知らず、彼女は祓い屋が現れるまでずっと結界を張り夫を護り続けていた。

 そして、彼女を騙した人物こそが、夫、権助を騙したあの人と呼ばれる人物だった。


「つまり、お前たち夫婦はその人物の目的のために利用されていたというわけだ。ヤツが現れなければ、お前たちは再会を果たし成仏出来ていたかもしれない」

『そ、そんな……じゃあ、俺のしたことは……』

「すべてヤツの手の内だったということだ。しかし、幸いにもお前はまだ何も奪ってはいない。ここに囚われていた者たちは皆無事だ。多少衰弱はしているがな」


(吹き飛ばされた俺の事はスルーですか? かなり痛いんですけど)


 と、心の中で不満を漏らしていると、南の出口方面からコツコツという靴音が聞こえて来た。そしてその音はこちらに近づいて来ていた。


『この靴音って』

「ああ、Sトンネルで俺たちの後をつけていた音だ」


 音のする方を凝視していると、スーツ姿にハットを被った男性が現れた。


『お嬢、彼ら処置は済みました。後は救急隊員に任せれば大丈夫でしょう』


 男性は祓い屋にそう告げた。

 お嬢? あの祓い屋は女なのか? 確かに聞きようによっては女性のような声だったな。


「だそうだ。どうする? お前が大人しく我々に協力するというのなら穏便に済ますが?」


 祓い屋は権助にそう提案した。

 刀を向けているという事は、断ればこの場で祓うという事だろう。脅しだな。

 権助は千代さんを見つめたまま黙り込んだ。


『あなた、この人たちに協力しましょう。そして、一緒に成仏しましょう』

『しかし俺は、俺だけでなく千代までも手に掛けたヤツを許すことはできない』

『あなた……』


 あの人とやらに騙されていたにしても、雇い主がしたことは紛れもない事実。許すことなどできないだろう。しかし、その雇い主はもうこの世にはいない。復讐はその子孫に向けられてしまう。それを祓い屋がさせるとも思えない。

 二人の話を聞いていた祓い屋が告げる。


「そのお前の雇い主だが、もうこの世にはいない。いや、寿命とかではないぞ。当時、お前たちに手を掛けたすぐ後に殺された」

『え?』


 驚いたのは彼らだけでなく、俺や先輩もだった。


「崩落の難を逃れた者たちの内の一人が、ヤツの手の者に殺されかけたが、かろうじて生きていたのだ。そして、自分を殺そうとした者への恨み、殺された皆の恨みを晴らそうと雇い主を殺した。お前の復讐はその者の手によってなされたんだ。跡取りのいないヤツの家はそこで(つい)えた。お前が復讐できる者は、もうこの世に存在しない」


 権助は黙って聞いている。身体を覆っていた闇のような【黒い靄】は次第に薄くなっていった。


「よかったな。お前の代わりに復讐を果たし、供養のための石碑まで立ててくれた者の子孫を殺さずに済んで」


 祓い屋は補足するようにボソリと呟いた。

 石碑なんて勝手に立てていいものなのか? その雇い主を殺した者が、この山の所有権を奪ったという事か? そんなことが許されるのか? 時代によってはありかもしれないけど、どうなんだ?


『わかった。協力する。俺は何をすればいい?』

「話のわかる男で助かる。お前たちを騙した者の情報を聞かせてもらいたい。それが済めばお前の怨念を祓い成仏させてやる。まあ、祓うまでもなく直に消えそうだがな」


 祓い屋は刀を鞘に納めるとフッと笑った。

 確かに【黒い靄】は消えかかっている。怨念が消えるのも時間の問題のようだ。


『では、我々について来てください』


 スーツの男がそう告げると、佐々木夫妻を連れ出口に向かおうとした。そこではたと立ち止まり、チラリと俺を見た。


『彼の処置は?』


 スーツの男が祓い屋に訊ねると、二人の視線がこちらに向けられた。

 キャップのツバで顔が半分も見えないが、綺麗な顔立ちがのぞき見えた。

 一瞬いろいろな意味でドキリとし警戒したが、それは杞憂だった。

 祓い屋はしばし考え込むと、スーツの男に告げた。


「いや、いい」


 スーツの男は『わかりました』と言い、佐々木夫妻を連れ出口へと向かった。

 残された俺に、祓い屋が近づいて来る。


「直に救急車が来るわ。あなたも出口で待っていなさい」

「え?」


 俺だけに言っているようだ。先輩の事は視えていないのか?

 しかしなんだ? 口調が変わった? 仕事とプライベートの使い分けのようだが、この優し気な声音は間違いなく女性のそれだった。


「あ、ああ、わかりました。助けてくれてありがとうございます」

「いいのよ。それよりも、こんなことを続けているといつか命を落とすことになるわよ。もう変なことに首を突っ込んではダメよ」

「え?」


 祓い屋はそう告げると、出口へ向け歩き出した。

 今のはどういう意味だ?

 俺はその背を目で追っていた。

 その後、出口へ向かい、気を失っている三郎たちと合流した。

 遠くから救急車のサイレンが聞こえ、緊張の糸が切れてしまった俺はそのまま意識を失ってしまった。


少し違和感があったので、微妙に改稿しました。

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