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再会?と遭遇6

はい、続きです。

『ねぇ勇人君、本当にこれで外に出られるの?』


 俺の袖を掴み横をついて来る先輩が訝し気に訊ねて来た。


「たぶん。それを確認するためにこうやって二人で来てるんじゃないですか」

『そうだけど、見えないのは不安というか……』


 三郎から聞いた話をヒントに、外へ出られるか試している。しかし、全く説明していないものだから不安に感じているのだろう。

 三郎の話、無限トンネルから脱出できた者がどうやって脱出したのかと言うものだが、三郎はこう言っていた。


「目に見えるモノを信じるな」


 文字通りの意味なら、今見えている出口は出口ではなく、壁となっている壁面にはちゃんと扉があるかもしれないという事になる。しかし、それを確認する術はない。もしかしたら今見えているモノの位置も実際とは異なっているのかもしれないからな。

 つまり、今見えているモノは一切信じられないという事だ。だったら、見えるモノを排除すればいいだけの話だ。


『ちょっと勇人君! 私の話聞いてるの?』


 少し考え込んでいると、先輩が不機嫌そうに袖を強く引っ張って来た。何かを言っていたようだが、全く聞いていなかった。


「なんでしたっけ?」

『やっぱり聞いてない! だから三郎君の話よ! 「目に見えるモノを信じるな」ってどういう意味? あれがヒントになったの?』

「まあ、はい」

『嘘、あれが? どんなヒントなの?』


 先輩は信じられないように、疑わし気な声で訊ねて来た。

 

「えっとですね、今見えているモノはすべて幻、幻覚の可能性があります」

『幻覚? どうしてそう思うの?』

「どうしてって、あったはずの扉が無くなっているし、見えている出口に辿り着けないなんてありえないでしょう?」

『うん。でもどうして幻覚なんて……』

「たぶんこの臭いでしょう」

『臭い?』


 俺は空中に漂っているであろうガスを指差し、クルクルと回す。滞っていた臭いが掻き混ぜられ臭いが鼻を衝いた。

 先輩も臭さで『うっ』と苦悶の声を漏らした。


「はい。この臭いは、吸った者に幻覚を見せる有毒なガスかもしれません。この山に自生する植物か何かが腐り、発酵して発生したものだと思いますが、それを吸ったから俺たちは幻覚に囚われてしまった」

『なるほど、毒キノコ的な何かかな? でも、だとしたらどうやって抜け出せばいいの?』

「迷路と同じですよ」

『迷路?』

「迷路の脱出方法はわかりますか?」

『え? 確か、左手か右手を壁に触れたまま進んで行けばいいのよね? あ、それで勇人君壁に手を付けてたんだ?』


 先輩は出発前の事を思い出したようだ。

 先輩の言う通り、俺は壁に手をつき、ただひたすら真っ直ぐに歩いている。


「はい、壁に手をつけて進んで行けば出口、あるいは扉へ辿り着き脱出できる、はずです」

『はず、なんだね……』


 若干呆れられている感をヒシヒシと感じるが、まあいいか。


「でも、問題はこの幻覚です」

『幻覚?』

「情報の大半は目による視覚情報ですよね? だから見たものをそのまま錯覚し、そこにあるにも関わらず無いと認識してしまう。そして、それが手に伝わる感触にまで及ぶかもしれない。だから、このトンネルではその方法に加え目を閉じる必要があります」

『だから私目を瞑らされてるのね』

「はい」

『てっきり、そういう嗜好なのかと……』

「はい?」

『う、ううん、何でもない……』


 今、嗜好とか言わなかったか? 先輩はそういうことに興味があるのだろうか? 意外と女性の方が性に敏感と聞くが、先輩もそうなのか? いや、三郎情報を鵜呑みにするのは危険だな。かもしれない、程度に留めておこう。しかし、違うにしても無条件で俺を信じて目を閉じてしまうのはどうなのだろう? はじめに疑問を晴らすべきだと思うが、やっぱり幽霊だから身の危険は心配していないのだろうか?


ひゅ~~~う


 風が頬を撫でひんやりとした空気が肌に伝わってきた。そして、あの臭いもすでに消えていた。

 俺はゆっくり目を開いた。

 目の前には満天の星空、生い茂る木々、夜の風景が広がっていた。間違いなく外に出られたようだ。


「先輩、もう目を開いてもいいですよ」

『え? う、うん』


 先輩は恐る恐る瞼を開いた。


『……わぁ、綺麗……』


 先輩は出られた喜びよりも星の煌きに感動している。三葉を見つけられ、後はみんなでトンネルを脱出するだけとなり、少しは余裕が出てきたようだ。

 その無邪気な、楽天的なところが俺の不安を和らげてくれているみたいで少しホッとする。

 とはいえ、のんびりしている暇はない。三人を外に連れ出さなければ。


「先輩、三人を連れてきますよ」

『あ、うん! 急ごっか』


 この後、特に問題なく、スムーズに三人を外へ連れ出すことができた。



◇◇◇



 119番に連絡した後、俺は、いや俺たちは、再びトンネル内に戻って来た。


『せっかく出られたのに、どうしてまた戻ってきてるの? みんな助かったのに戻って来る必要ないじゃない』

「……」


 どうして、か。確かにみんな助かり、後は救急車の到着を待つだけだったんだけど、さすがにこの【黒い靄】を放置しておくわけにもいかない。


『ちょっと、どうして黙るのよ』

「えっとですね、このガスの発生源を見つけて潰しておかないと、また誰かが迷い込むかもしれないじゃないですか」


 先輩に【黒い靄】が原因だと言っても信じては貰えないだろうから、仕方なくガス説で誤魔化しておいた。


『なるほどね。でも、それだったら役所に連絡すればいいんじゃないの?』


 うまい具合に信じてくれたけど、なかなか鋭い所を突いて来るな。さすがは年の功。って二つしか違わないか。


「じゃあ、先輩は外に出てそうしてください。俺は発生源を探しますから」

『うぐっ……そういうわけにはいかないわよ。私電話できないし』


 幽霊である先輩が電話なんてしたら、相手にどんな風に聞こえるかわかったものではない。心霊現象として騒がれて、先輩が傷付いてしまうかもしれない。悪いことを言ってしまった。言葉には気を付けよう。


『そ、それに、勇人君一人じゃ心配だもん』

「心配ですか。俺ってそんなに頼りないですかね?」

『え? あ、ううん、そういうわけじゃないんだけど……』


 先輩は言葉を探してしどろもどろになっている。少し意地悪な事を言ってしまったかもしれない。先輩が俺の事を心配してくれていることは本当だろう。先輩の成仏の件も掛かってるんだから当然だ。

 でも、だからこそ外で待っていてほしいんだけどな。


「一人でも大丈夫ですよ(慣れてるから……)」


 とはいえ、今回のケースははじめてだ。詳しく知っておいた方が後々の為になるだろう。


『え? 今なんて?』

「なんでもありませんよ」


 俺はそう言って話を打ち切った。

 目的地はもう目の前に来ている。三郎たちの居た位置と北側の出口から丁度中間地点、【黒い靄】はそこに集中していた。

 俺は更に近づいて行く。


『ちょっと待ってよ』


 先輩も後ろからついて来る。本当は外で待っていてほしいけど、また黙ってついて来られても困るから仕方がない。

 先輩を気にしつつ、【黒い靄】を払い除けながら奥へ進んで行く。

 【黒い靄】の中、トンネルの壁があるはずのところに、ポッカリと穴が開いていた。靄はそこから流れ出ているようだ。


『壁が崩れ落ちたみたいだね』

「そうですね。地震で崩れたのかも」


 最近頻発している地震によって、脆くなっていた壁が崩れ落ちたのかもしれない。トンネル自体は崩れないだろうか。そんな不安が頭を過った。

 壁と天井を確認していると、同じことを考えていたのか先輩も同じように天井を見上げていた。

 天井には、特に亀裂や崩れたような箇所はなかった。


「大丈夫そうですね」

『うん』


 先輩の同意を得て、俺は壁の穴の中に入って行く。

 背後から『中に入るの?』という先輩の声が聞こえてきたが、俺はそのまま奥に入って行った。

 奥と言ったが、さほど奥行きはなく、すぐに空洞に出た。ここは小さな部屋のようだ。壁際には箱が並べられ、その上に布や衣類が置かれている。中央には木製のテーブルが置かれ、そのテーブルを囲むように同じく木製の椅子が並べられていた。そして、そのテーブルには……。


『うわ、何この部屋』

「わかりませんが、見ない方がいいですよ」


 俺はそう言い、手で先輩の目を覆った。

 しかし、


『ん? なんで?』


 と言って、先輩は俺の手をスッとすり抜け、目撃してしまった。


『ひっ!?』


 先輩は可愛らしい悲鳴を上げた。

 やっぱり幽霊でも怖いものは怖いようだ。先輩も女の子だから仕方がないか。


「あ~見ちゃいましたか。折角隠してあげたのにすり抜けるからですよ」

『だ、だって……そんなものがあるなんて思わなかったから』


 先輩はそれを見ないよう俺の背に隠れている。肩越しにも震えているのが見てとれた。

 先輩が見たもの、それはテーブルに突っ伏している白骨化した死体だった。どのくらいで人が白骨化するのかはわからないが、服の風化具合からもわかるように、かなり昔に亡くなった人みたいだ。

 そして、その白骨死体から【黒い靄】が漏れ出ていた。

 おそらく最近まで壁は壊れていなかったのだろう。この人は部屋の中に閉じ込められ死んでしまった。そして、人知れず放置されていた。この靄の正体は、「怨念」なのかもしれない。

 俺はその白骨死体に手を伸ばした。

 すると、焦ったように先輩が声を上げた。


『ゆ、勇人君! 何をするつもりなの?』

「何って……」

『今、明らかにそれに触れようとしてたよね? なんでそんなことするの?』

「なんでって、そうしないとわからないからですよ」

『わからないって、何が?』


 先輩は困惑しているようだ。当たり前か。いきなり発見した身元不明の白骨死体を見つけ、なんの躊躇いもなくそれに触れようとしているんだからな。

 しかし、触れることで、法子さんの時のようにこの人の記憶が流れ込んでくるかもしれない。怨念の正体がわかれば、ここを正常に戻せるかもしれない。そう思ったから試そうとしてるんだけど、そんなことは言えない。だから先輩の問いかけには答えず、「まあまあ、大丈夫ですから」と言ってそっと頭蓋骨に触れた。

 すると、触れた指先に【黒い靄】が這いあがり、それと同時にこの人の記憶が流れ込んできた。



 彼の名前は佐々木権助(ささきごんすけ)、少し離れ村から出稼ぎに来ていた炭鉱夫だった。なかなか家に帰れず過酷な仕事だったが、時々差し入れに来てくれた妻のおかげで頑張れていた。

 その日も、この山で石炭の採掘に勤しんでいたが、どんなに掘っても石炭は出て来なかった。もっと深い場所ならあるかもしれないと、更に掘り進めた。しかし、そこで悲劇が起こった。突如地震が起こり、脆くなっていた地盤が崩れて入り口が塞がってしまった。他の皆は難を逃れ外に出られたが、深い所まで掘り進めていた彼は逃げ遅れ閉じ込められてしまった。彼は助けが来るのを休憩所となっていた部屋で待つことにした。しかし、いつになっても助けは来ず、自ら脱出を試みるがそれも叶わず、いつしか彼は死んでしまった。

 妻の事を思い無念の内に亡くなった彼は、成仏することも出来ず、ずっとこの部屋に縛られていた。

 どのくらい縛られていたのかもわからなくなったある日、地震が起こり壁の一部が崩れ落ちた。

 彼は妻の下へ帰ろうと、外へ出ようとした。

 そこへ……



「くっ!?」


 なんだかどす黒い感情が噴き出してくるような感覚を覚えた。


『勇人君! 勇人君ってば! どうしちゃったの! 勇人君!』


 先輩の声で、俺の意識は現実に引き戻された。

 視界に黒いモノが広がり、手元を見ると、指先から這い上がって来ていた【黒い靄】が俺を覆いつくそうとしていた。

 俺は慌てて頭蓋骨から手を離し靄を振り払った。


『勇人君! よかったぁ。それに触れた途端動かなくなるから、(たた)られちゃったのかと思ったよ』


 先輩は心底ホッとしているようだ。心配を掛けてしまったな。これでは俺を心配してついて来たことに文句は言えないな。


「心配をおかけしました。でも、もう大丈夫です」


 さて、状況は理解できたけど、これをどうするべきか。記憶を見た限りだと、現状俺には打開策はない。彼の未練を晴らすには少し遅すぎた。彼の未練の対象はもうこの時代には存在しない。となると、後は説得しかないんだけど……。


『ねぇ、勇人君。勇人君ってば!』

「え? なんです?」


 考え込んでいた為、先輩が呼んでいることに気がつかなった。


『さっき、わからないから触れるって言ってたじゃない? 何かわかったの?』

「そうですね……彼は無念の内に未練を残して亡くなったようです。そして……」


 その感情を捻じ曲げられ、怨念のような負の感情となり悪霊と化してしまった。そして、この変な空間を作り出した。このトンネルに入った者を捕らえ逃がさないようトンネルの出口を封鎖し、少しずつ生気を吸い取っているようだ。とはさすがに言えない。


『そして、何?』

「いえ、何でもありません」

『そう……』


 先輩は彼をチラリと見て俯いてしまった。

 先輩は頭が良い、俺の言葉で察したのだろう。彼が悪霊、何か悪いモノになったのではないかと考えているのかもしれない。そして、自分もいつかそうなるんじゃないかと不安を感じているのかもしれない。


「きっと先輩は大丈夫ですよ」

『え?』

「先輩は一人じゃないじゃないですか」

『どういうこと?』

「彼はこの暗い部屋でずっと一人でいた。そんな状況じゃネガティブな思考に陥りやすい。だから……」


 悪魔の囁きに耳を傾けてしまった。一人じゃなければそうはならなかったはずだ。


『だから、なに?』

「先輩には俺がいます。俺が先輩をネガティブにはさせないですよ。未練があったとしても怨念にはさせません。未練なんてすぐに晴らしてみせますよ」


 先輩は驚いたように目を見開いている。

 殺された恨みはなかなか晴れないだろう。けれど、それでも今日一日話して、視て、彼のように【黒い靄】が出るような兆候はなかった。だから、きっと大丈夫だと思う。先輩ならすぐに成仏できると俺は思う。


『……年下のくせに、生意気なんだから』


 先輩はそう呟くと、俺から視線を逸らすようにそっぽを向いた。

 少し生意気だったかもしれないが、知り合った以上投げ出すことはできない。

 とはいえ、ここの問題を解決することが先だ。


「さてと、まずは彼からだな」

『そうね。でも、どうするの?』

「ん~お祈りして鎮まってもらうしかない、かな」

『かなって、勇人君、たまにカッコいい事言うのに、大体適当だね』

「……ですかね?」

『うん』


 適当かぁ、少し凹むな。

 まあ、実際はズルイ方法なんだけど、そんな事先輩には言えないしな。


「じゃあ、先輩も彼が成仏できるように祈ってください」

『うん、わかった。私が成仏できないのに、人を成仏させられるかわかんないけどね』

「まあまあ、それがヒントになるかもしれないでしょ?」

『ホントに適当だなぁ。まあ、やるけどね』


 若干呆れたような表情の先輩だったが、手を合わせ、彼の為に祈りはじめた。

 正直、この行為に意味はない。ただ、何が出てくるかわからないから見せない方がいいと思っただけだ。【黒い靄】が視えないから大丈夫だとは思うけれど。

 俺は左手を彼の頭にそっと乗せた。そして、【黒い靄】を散らすように念じる。

 負の感情の塊である【黒い靄】を吐き出しはじめた霊は悪霊となる。そして、悪霊となると理性は無くなり対話が難しくなる。唯一例外はあるが、今ここにそれは存在しない。だから【黒い靄】を散らし、少しでも対話ができる状態にしようとしているんだけど……。


「……これは、キツイ」


 【黒い靄】は後から後から噴き出してくるためなかなか散らすことができない。


『勇人君!? どうしたの? 大丈夫?』

「だ、大丈夫ですから、先輩は祈っててください」

『でも……』


 先輩が心配そうにしているが、少しずつでも散っている以上止めるわけにはいかない。

 俺は靄を散らすことに集中する。

 【黒い靄】は少しづつではあるけれど、確実に散らすことができていた。

 すると、地の底から響くような低く野太い声が聞こえて来た。


『俺の邪魔をするのは誰だ』

『え!? 何? 今の声……』


 先輩にも聞こえるのか? 【黒い靄】は視えなかったのにどうして? 何か理由があるのか?

 いや、今はそこを気にしてる場合じゃないな。


「邪魔をするつもりはない。ただ、あんたを外に出してやりたいだけだ」

『何?』

「あんたは家に帰るべきだ」

『俺に帰る場所など……』

「あんたが考えているようなことが真実とは限らないだろう? こんなところに籠って不確かな真実に憎悪して苦しむより真実を知った方がいいだろう?」

『お前に何がわかる! 何も知らないヤツが口を挟むな!』

「わかる! あんたの記憶を見たからわかる! あんたが信じていることは出鱈目かもしれないだろ!」

『そんなこと……』

「確かめるべきだ!」

『……しかし、俺はもうここから出ることは……』

「いや、このトンネルの状況はあんたが心を閉ざした結果だろう? 真実を知る覚悟ができれば出られるはずだ」

『……』


 彼は黙り込んでしまった。俺の考えは間違っていたのだろうか? いや、どうもあの真実は胡散臭い。裏がありそうでならない。まあ、勘なんだけど。

 ここまでのやり取りを黙って聞いていた先輩が、小声で訊ねて来た。


『これ、どういうこと? 今の声って、あの……』

「はい、彼の声です。このガス(【黒い靄】)の原因は彼でしょう。彼が外に出ることができれば幻覚も解消されるはずです」」

『つまり、説得してるってこと?』

「まあ、そう言う事です」


 正確にはハッタリで言い包めているんだけど。彼の真実は俺にもわからない。彼の思い込んでいることが本当に真実なのかもしれない。でも今は、このトンネルを正常に戻すことが先決だ。

 しかし、問題は彼が俺の言葉を聞き入れるかどうかだけど、【黒い靄】が薄まっている今なら可能性は高いかもしれない。


『お前の目的はなんだ?』

「目的? それは……」


 彼が試すようなことを訊ねて来た。

 人間不信になっている彼には下手な誤魔化しは逆効果だろう。ここは嘘偽りなく話すべきだ。


「もちろんここの状態を元に戻すことだけど、あんたにも自由になってもらいたいんだ。できることなら成仏もしてもらいたい」

『なぜだ?』

「なぜって、憎悪に囚われたままなんて悲しすぎるだろ」


 成仏できずに悩んでいる先輩を見ているからな。どうにか成仏させてやりたいと思っているのは本当だ。ついでに成仏のヒントとか掴めたらいいんだけど。


『……そうか』


 彼は再び黙り込んだ。

 視線? のようなものを感じる。俺の言葉の真意を探っているようだ。

 少しの間の後、彼は答えを返した。


『いいだろう。お前の口車に乗ってやる』


 そう聞こえると、彼の気配【黒い靄】がこの部屋から消えた。


「……」

『……行っちゃったの?』

「たぶん」


 先輩がホッと肩の力を抜いた。不可思議な現象、悪霊と化した彼の声が聞こえていたのだ、緊張してもおかしくない。それが居なくなり、緊張の糸が切れたのだろう。

 しかし次の瞬間、ドズンッズズンッと重い振動が大地を、トンネルを揺り動かした。地震かとも思ったが、これは揺れではなく衝撃のようだ。


『な、何? 今度は何なのよ!』

「……わからない。けど……」


 彼がここからいなくなった影響か? なんだか嫌な予感がする。一度外に出た方がいいかもしれない。

 先輩に声を掛けようとした瞬間、目の前に闇が広がった。


ねじ曲がったのは何が原因だったのでしょうね。

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