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初めての方術

 不思議なことに方術印の描かれた紙からは印が消えている。


「ヘイステイシア君、ありがとう」


 先生に促されると、光が小さくなってやがて消えた。


「さて、このように方術は一定の素養があれば誰でも使えるものです。そして発光の方術は基本中の基本で、方術を学んだ人ならばまず間違いなくこれを最初に試してみたのではないかと思います」


 冒険者の人は私に攻撃方術を教えてくれようとしたけど……だから失敗しても仕方がなかったんだね。


「発光の方術を行使したことによって紙に書かれていた方術印が消えてしまいました。これはどういう理由からでしょうか。わかる人」


 パラパラと手があがる。


「それでは、ケインズ君」


「方術印に組み込まれていた効果が発動して、それを消費したためです。

 基本的に方術は方術印に込められた力を発動させるのがセオリーなので、一度、方術印に込められた力を発動させるとこの世界から消えてしまいます」


「うん、素晴らしい。よく勉強をしているね。さすがはマジックユースといったところかな」


 パチパチと先生が拍手をしてケインズ君を褒める。


「方術印は方術の基本です。ここに方術の内容が記されています。

 ちなみにマジックユースは方術印が不要になる場合もありますが今の授業から外れた話になるのでここまでにしておくとして。

 では方術はどうすれば発動するかを説明できる人――ヨシリアム君」


「方術印、コマンドワード、方術の知識、触媒の四つを用意することです」


「端的な答えですね。でもそれだけではわかりにくいからもう少し説明を加えてもらいましょう。

 コマンドワードというのは何かな?」


「一般的には方術の名称です。方術印に記されている内容とコマンドワードが一致しなければ方術は発動しません」


「その通り。だからコマンドワードを方術名と言うこともあります。ちなみに魔法では方術と違って呪文の詠唱が必要ですが置いておくとして。

 じゃあ、次に方術の知識とはなんでしょう?」


「それは……どういう方術なのかということです。さっきの発光であれば光の性質を理解している必要があります。あとは光量とか色とか……光っているところを思い浮かべて、どのぐらい光らせるとか……」


 ふわふわした説明に首をかしげていると隣のイーサが手を挙げた。


「イーサティア君」


「光によってどういう結果が得られるかという確固たるイメージを持っていることです。

 太陽のように強い光が欲しいのか、月明りのような優しい光が欲しいのか。同じ月明りでも満月の明るさなのか、細い三日月の明るさなのか。

 結果を想定することで方術は術者のイメージを反映して発動します」


 要するに発動させる時にどういう結果が得たいのかを具体的に想像するってことでいいのかな?


「いい説明です。これから方術の知識を説明する時は先生も使わせてもらおうかな。

 付け加えておくと術者による方術のイメージを具現化する際に精神力を消費します。これが方術を使うことによる疲労です。二人とも座って」


 二人が腰かける。

 ヨシリアム君がイーサを睨みつけてるんだけど、いちいち気にするようなことはないんじゃないのかなぁ。


「最後の触媒についてですが、これはマジックユースが扱う武具のことだと思ってください。ここにある小さなスティックや人の背丈ほどあるスタッフといったところが有名ですね。他にも指輪やネックレスといった発動体もあります。これらは発動させる時の補助をしてくれるものだと思ってください」


 先生はぱんと両手を鳴らして注目させる。


「さて、ヘイステイシア君はマジックユースではありません。ではマジックユースが方術を使うとどうなるか。次はそれを見てみましょう。ツグース君。前へ」


 ツグース=ヴィリウム君はこのクラスに四人いるマジックユースの一人だ。


「さっきと同じ方術印を用意しておいたので発動させてください。維持はしなくて結構です」


「わかりました」


「サダーシュ。じっと見ない方がいいですよ。なるべく視線を逸らして。できれば目は閉じて」


「へ?」


 ツグース君は棒を持つとコマンドワードを発した。


「〈発光〉」


 その瞬間、教室中が真っ白になる。


「なななななに? なにが起きたの?」


 なにも見えない。目を開いているはずなのに視界全部が白い。


「だから言ったではないですか。マジックユースが使う方術なんですから同じ発光でも効果が違うんです」


 少しずつ視界が戻ってくる。

 でも中心のあたりはまだ白いままで全然見えない。

 あ、なんか変な模様が重なって見えてる気がする……これってもしかして私の瞳にある武印かな?


「さすがはマジックユースですね。これがなければ『うおっまぶしっ』ってなっているところでしたよ」


 視界の端っこで確認すると、先生は黒いメガネのようなものをかけていた。

 なんかズルい。結果がわかってるのならみんなの分も用意しておいてくれたらよかったのに。


「皆さんもユースのあるなしによる効果の違いは身をもって知っていると思います。方術の場合はこれだけ違うのだということをよく覚えておいてください。簡単な方術だからと思って油断をしていると手痛いダメージを受けたりしますから」


 うん、本当に手痛いダメージを受けました。

 まだ視界が白く霞んでてよく見えないです。

 こうなるのなら先に教えておいて欲しかったなぁ。


「現在の方術は素養さえあれば誰でも簡単に使えるものになっています。

 もっとも方術印がなければ、コマンドワードを知らなければ、方術の知識がなければ、触媒である発動体がなければ方術は使えませんが。

 この中で方術を使ったことがない人はいないかと思い――」


「はいっ」


 元気よく手をあげる。


「おや。サダーシュ君は本当に一度も方術を使ったことがないんですか?」


「私が暮らしていた場所には方術を使える人が住んでなかったので。何度か冒険者の人に教えてもらったことがありますけど、一度も成功してません」


 あの人たちもあまり方術が上手って感じはしなかったしね。


「サダーシュ君の暮らしていた場所はディープティールの森の近くでしたね。

 ふむ、魔獣の生息地が近い場所で暮らす人が方術を使えないというのは少し疑問がありますが、正式に習っていないのならそういう可能性もありますか。

 ……いいでしょう。前へ来てください」


 教壇の前に立つ。

 そこには方術印の描かれた紙と棒が置いてある。

 おおー、これが方術のための道具なんだ。なんだかワクワクするね!


「では方術を実際に試してみましょう。

 ここに発光の方術印があります。発動体としてこの棒を持ってください。これが発動の助けになってくれます。コマンドワードは『発光』。どのぐらいの光にしたいかイメージをまとめることができたら、その言葉を口にしてください。いいですね」


「はい!」


 方術の知識――イメージが大事なんだよね。

 光、ひかり……やっぱり派手な方がいいよね。

 ツグース君ぐらいビカーッって感じのイメージをして……。


「いきます。〈発光〉!」


 同じ轍を踏まないために目をぎゅっとつむってコマンドワードを声にした。


 ………………あれ?

 全然まぶしくないんだけど。


「発動しなかったみたいですね。もう一度やってみましょう」


「はい。――〈発光〉」


 ……むむ?

 やっぱりまぶしくない。


「光らないですね。もしかして発音が間違ってたりします?」


「いいえ、大丈夫です。発動体があってないのかもしれませんね。こちらのワンドを使ってみてください」


 先生から30センチぐらいの棒を渡された。

 先端にはきれいに磨かれた石みたいなものがついている。


「じゃあいきます。――〈発光〉」


 まぶしく……ない。


「クスクスクス……」


「あいつ、方術の初歩の初歩すらできないのかよ……」


「田舎者にはちびた剣を振り回すのがお似合いなのさ……」


 どうしてだろう。方術印がにじんできた。

 あれ? あれ? あれ?

 おかしいな。早起きしたからかな……。


「え、えーとですね、方術の素養がまったくない人もいますからそう落ち込まないでください」


「お、落ち込んでなんかない、です……ぐすっ」


「だからですね、大丈夫ですよ。これから一緒に訓練をしていきましょう! きっと君も使えるようになりますから。ねっ。

 一発で方術が成功する人の方が少ないんです。サダーシュ君も必ず使えるようになりますよ! だからお願いですから泣かないで……」


 結局、発光の方術は成功しなかった。

 悔しくて悔しくて、涙をこらえることができなかった。





「いつまでそうやって落ち込んでいるつもりですか?」


「……別に落ち込んでなんかないもん」


 ベッドに潜り込んでるだけだもん。


「先日はその剣の腕でクラスのみんなをあっと言わせたどころか、央国五剣に推薦された人とは同じには思えませんよ。

 ねえ、サダーシュ。貴方は方術を使いたいんですよね」


「……うん」


 だって方術を使えた方が就職に有利になるって聞いたから。

 いい仕事につけたらお給金がいっぱいもらえて、いい生活ができるようになるんだから。

 私はいい就職――第一志望である騎士になるために方術を使えるようになりたい。


「だったら落ち込んでいる暇はないと思いますよ。

 確かに先天的に方術が使えない人はいます。亜人種には多いみたいですね。だからといって簡単に諦められるような軽い気持ちではないのでしょう?」


「……うん」


 私のベッドにイーサが腰かけたのがわかる。


「では方術の練習をしましょう。わたくしでよければ付き合います」


「ほんと? 私に方術を使えるようになる?」


「それはサダーシュ次第です。努力をしなければ使えないままなのは間違いありません。

 でも練習をすれば使えるようになるかもしれませんよ?」


 被っていた布団から頭だけ出す。


「じゃあ、やる」


「ふふ。サダーシュのことですからそう言うと思っていました。

 では早速始めましょうか。わたくしが教えるのですから、中途半端なことは絶対にしませんからね」


 今日から寝る前はイーサに方術を教わる時間になった。


ブックマーク等、よろしくお願いします。


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