33話 英雄譚の最終章にポッと出はマジつらたん
地震か?
大きく大地が揺れる。体感だが震度6くらいはありそうだ。
俺は咄嗟にしゃがんで地面に手をついていた。ウェンディはバランスを保てずに尻をついていたが、マルスとモーガンはクロノと見合い、臨戦態勢を崩してはいない。ポポさんは……微動だにしていない。いや、微動だにしていないという表現は正しくない。地面と一体化しているかのように地震と一緒に振動している。ある意味もっとも安定しているといっていいのかもしれない。ほんとこの人はなんなんだ…。
地震が収まると街を囲うように光の壁が高く円形に浮かび上がっていくのが見えた。
「どうやら始まったみたいですねぇ」
地震が収まった所でクロノの隣にいる紫の魔物が呟いた。
「クロノ、何を企んでいる」
「魔王を復活させる」
そう答えたクロノは剣を地面に突き立てると両手を広く天に掲げて呪文を唱え始めた。
すると上空には街を覆うほどではないが、魔王城くらいならすっぽりと覆えそうなほど巨大な禍々しい色の渦が発生する。
その中心にはゆっくりと、そこから這い出ようとする何かの片鱗が見える。
「なんなんだよありゃ!」
「……赤き星の涙」
「赤き星の……スターダストか!おいおい嘘だろ、いくらなんでもでかすぎだろ!」
自分の答えに対するウェンディの答えに信じられないと言わんばかりの顔で声をあげるモーガン。答えたウェンディ自身も驚愕の表情を浮かべている。
「クロノ!この街を滅ぼすつもりか!」
「いいや、この街は助かるよ。先代魔王さえ復活すればな。お前たちが魔王復活を阻止すればその限りではないが」
「先代魔王?」
「200年前、人と魔族が争っていた時代。戦乱を好み、人の地を蹂躙し尽くした魔王ギルギア。それがこの地に封印されている」
「魔王ギルギア、倒されたはずでは!」
「違うな。人類は魔王の圧倒的な力の前に為す術がなかった。ギルギアは現魔王によって封印されたのだ。さぁ選べ、流星で街と共に滅ぶか。魔王を復活させて人族と共に滅ぶか」
「迷うなマルス!両方止めなければ人族に、この街にだって明日はない」
モーガンの訴え、それにマルスは振り返らず、返事もせずに変わらずクロノを見据えている。
「どうしてこんな事を…」
「俺は魔王に復讐する」
「その為に街の人を巻き込むことはないだろう」
「人族も、魔族も、セントラルも皆同罪だ。すべて滅ぼす」
「なんだってそんなに変わってしまったんだ。クロノ…いや、シェルム兄さん」
「……気づいていたのか」
「当たり前だよ。その太刀筋、一度剣を交えればわかる。僕に剣を教えてくれたのは兄さんじゃないか」
シェルムと呼ばれた黒の騎士、クロノは頭部を覆っていた兜を外す。紅い髪に紅い瞳、黒い角を持つ男の顔が露わになった。
「何故だ兄さん。何故この平和な世界を壊そうとする」
「マルス、忘れたわけではあるまい。ゲートが現れたあの日、俺達は大事なものをすべて失った。街の人々がもっと魔族を信じていれば、魔王が正しい対処をしていれば、あんな事にはならなかった。お前もここに辿り着いたのなら真実を知ったはずだ。何故この世界を許す事ができる。俺はすべてが憎い。お前だってそうだろう!」
「違う!僕はすべてを憎んだりはしていない。あの時、彼女を守れなかったのは僕が弱かったからだ。僕は僕の弱さを憎んだ。そして皆が、誰しもが弱い。街を守れなかったのは自分達の弱さだ。きっと何があろうと結果は変わらなかった。魔王の目論見は知ったし、それが許されるとは思っていない。だから今から変えるんだ!人は変わっていける、強くなれる、それが僕の見つけた強さだ」
「綺麗事を。だったらどうする、この状況を。今のお前なら救えるのか?それともまた弱さを嘆き、くだらぬ御託でただ結果を納得するのか?」
「いいや、止めるさ。教えてあげるよ。兄さんが教えてくれたこと。兄さんが無くしてしまったもの。僕は今、それを持っている」
「見せてみろ、あの日できなかった最後の稽古だ。俺を倒してみろ」
「あなたを必ず止めてみせます。私達5人の力で!」
マルス、モーガン、ウェンディ、ポポさん………はて、この場には勇者一行は4人しかいないはずだが………え、俺?5人目って俺じゃないよね?
盛り上がってるとこに水を指すのは悪いからずっとおとなしくしてたけど、何の話をしているかはさっぱりだ。
マルスの過去、ここまで積み重ねてきた冒険の数々、その先で出会った仲間たち、クロノとの因縁。様々なものが魔界最奥の地、ファーゼストエンドで終局を迎えようとしている。英雄譚のクライマックスだ。
そんな雰囲気に、自分の圧倒的な場違い感が半端ない。
正直言って早くこの場から抜け出したい、いつ落ちてくるかも分からない隕石から早く逃げたい。戦闘が始まったらどさくさに紛れてこの場から離れよう。
その場合どこに逃げるべきか。
魔王城?魔王には良くてもらってるし、テッペイもいる。だけどもしあの隕石、スターダストが落ちてきたら街ごと塵と化すだろう。魔法陣は街の空を覆っている。魔法陣と同等のサイズの岩が落ちてくるとしたら街の中じゃ何処にいても助からないだろう。
じゃあ街の外に出るか?現在、街の外は囲うように光の壁に覆われている。あれは抜ける事ができるんだろうか。もしあれが貫通不可能な壁で街に閉じ込められてるとしたら……やっぱり魔王に頼るのが一番可能性があるだろうか。
というか、よく考えたら俺って傷つかない体なんだから、無理して隕石から逃げることもないんじゃないか。
そうだよな、事態が落ち着くまでどこか隅の方に隠れて厄介に巻き込まれないようにしてればいいだけじゃん。実に簡単な事だ。よし、そうしよう。
とはいっても、なによりまずはこの一団から抜け出さないと。前方にはマルス、横にはモーガン、後ろにはウェンディとポポさん。完全に囲まれてる。前門の虎、後門の狼状態だ。
なにか、全員の気が逸れるようなきっかけがあれば……
そう思った時だった。街の上空を何かが高速で通り過ぎ、それは魔王城に激突。城の上部が瓦解する。
しめた!全員の気が逸れた!逃げるなら今しかねぇ!
と思った次の瞬間、その場に響いた声に誰よりも俺の気が引かれた。
「ヘーーーーーーーーータローーーー!!!!」
親方!空から女の子が!なんて某映画のようなロマンチックさを感じてる余裕なんかない。少女は激突を躊躇することなく、落下速度そのままに俺に向かってくる。
幼く柔和な顔立ちに薄く桃色を返す白い髪。白いローブをはためかせながら一直線に俺の胸へダイブしてきた。
俺はその勢いを受けきれずに地面に押し倒される。押し倒されるなんて可愛い表現じゃないな、叩き伏せられたと言った方が正しい。
思わず目を食いしばって体を硬直させる。ダメージがあるわけじゃないけど、咄嗟に身構えてしまうのは本能的に仕方がない。
「いててて」
痛くないのにそう言ってしまうのも本能的に仕方がない。
目を開けると、倒れた俺の胸の上にまたがる少女が俺の顔を覗いていた。




