32話 運命の対峙!勇者と絆の仲間たち。あと自分
再び始まるマルスとクロノの剣戟。
激しく打ちつけるマルス、それを薙ぎながら要所要所で的確な一閃を放つクロノ。クロノの斬撃は余波を持ち、剣が振るわれる度に射線上の建物が崩れ落ちる。
周囲は逃げ惑う人々や避難を誘導する兵達の怒号で慌ただしいが、そんなものはまるで視界に入らないかのように2人は剣を交わす。
こっちに飛んできた斬撃はモーガンが受けてくれているので今のところ俺とマルスパーティーにケガはない。
「そんなものか…」
そう呟いたクロノの左手が闇の炎を纏い、その手がマルスの腹を襲った。拳を受けたマルスは、戦いを見守る俺達の方向へ飛ばされ、それをモーガンが受け止めた。
「逝ね」
クロノが左手を振るうと黒き炎は龍のような姿を模してこちらに向かってくる。モーガンは抱えていたマルスを払うと両手を顔の前にクロスさせ、黒炎を受ける構えを取る。
「くっ、オーガインストール!」
「よせ、無理だ!」
防御の姿勢のまま呪文を唱えたモーガンにマルスは制止をかけるも、それに構わないようにモーガンの足元に魔法陣が浮かび上がる。
そして黒炎が俺達に迫った瞬間、横から飛んできた何かがモーガンを吹き飛ばし、その代わりに俺達を庇うように黒炎を防いだ。
黒炎の脅威が過ぎ、周囲が静まる。
最初に口を開いたのは俺達の前に割り込んだ者だった。
「若いうちの無茶も結構、じゃが命を落としちゃ何にもならんぞい」
亀の甲羅のような盾を地面に突き立てて俺達を庇ってくれたその人物は、こちらに振り向いてそう声をかける。立派なあごひげを生やし、目を覆うほどに長い白髪眉の小柄な老人だった。
「まったくですよ。これだからあたしゃ勇者だなんだって夢見てる若造は嫌いなんですまったく」
後ろから声が聞こえて振り向くと、厳つい角度のメガネ、そのメガネに負けないくらい厳つい角度の目つきをした細身の女性が立っていた。
「鶴亀堂の先生方、どうしてここに」
「ふぉふぉふぉ、ちと気になる事があっての。どうやら当たりだったようじゃわい」
「ってえなクソジジイ!何しやがる!」
飛ばされたモーガンが戻ってきておじいさんに文句を言うが、すぐにまた突き飛ばされてしまう。
「助けてもらって謝辞のひとつも言えんのか。まったく、馴染まんうちからランクアップしようとしても何の解決にもならんと、何度教えれば覚えるんじゃお主は」
亀の老人はモーガンに説教しながら地面に突き立てていた甲羅を取って背中に背負う。
「鶴亀堂の死に損ない共か」
「そう言ってくれるな、わしゃ生涯現役じゃぞ」
変わらず感情の篭もらない口調で亀の老人に嫌味を飛ばすクロノに何かが飛来し爆発。マルス達を囲うようにどこからともなく複数の人影が飛んできた。
「キッキッキ、あたいらもいるよ」
「エンエン!それに干支セトラ達も」
独特な笑い声を上げるエンエンと呼ばれた少女、しゃがみ込むポーズで無邪気な笑顔を見せる彼女はどこか猿っぽかった。他にもその周りに何人か立っているがどの人物も動物をモチーフにしたような出で立ちだ。
「キキッ、言ったでしょ、必ず駆けつけるって。黒の軍団が動いてるって情報があったんでね。助太刀するよ」
「街の至る所で不穏な行動をしているようだ」
猿の女性に続いて隣に立つ猪の毛皮を被ったよう出で立ちで立派な牙を携えた大男が言葉を続ける。雰囲気から察するに全員マルスの仲間って事だよな。
「これだけの数を相手取るのはお主でも厳しかろうて、観念したらどうかのぅ」
マルス達、鶴と亀の年配コンビ、猿や猪といった獣人と思われる軍団と多くの敵に囲まれ、クロノが圧倒的に不利なのは確定的明らかだ。しかしそれでもクロノは堂々とした態度を崩すことなく、何を考えているのかわからない妖炎な目を兜の奥に光らせている。
「いつまでその涼し顔が続くかね!」
エンエンが手にした火の玉をクロノに投げる。クロノに直撃した火の玉がさっきと同じように爆発を起こした。かのように見えたが、火の玉はクロノには当たっていないようだ。爆煙が収まるとそこにはクロノを庇うようにゴブリンをさらに小型にしたような紫色の肌をした魔物が立っていた。その魔物はエンエンの方へ手をかざしており、バリアのような障壁を形成していた。
「へっへっへ。旦那、予定より合図が早いんじゃないんですかい?」
「………」
魔物は何がおかしいのか、ケラケラと卑しい笑みを浮かべてクロノに声をかけるが、クロノからの返事はない。
「各員ポイントについて作業に入ってやす。うるさいゴミどもが集まってるようですが問題はないかと。こいつらはどうしやすか?あっしが相手してやりやすよ」
「正面の男は俺が相手をする」
「へっへっ、わかりやした」
クロノの言葉を聞いて、紫の魔物は下卑た笑いを挟んで了承。それを合図にするかのように、クロノ側にいくつかの影が現れる。
「あたしらの出番はないかと思ってたんだけど、少しは楽しめそうだねぇ」
「めんどいなぁ。どうせ死ぬんだからおとなしくしててくれればいいのに」
「命に従い闘う。それのみ」
「黒胡将三将、やはり立ちはだかるか」
クロノを囲うように現れた3人を見てマルスが厳しい顔を伺わせる。
「キッキッキ、誰かと思えば蛇の姫様じゃないかい。顔の傷はもういいのかい?」
「黙れエテ公!あんたにつけられたこの傷が疼いてしかたないんだよ。あんたはあたしが血祭りに上げてあげるわ。ついてきな!」
「望むところよ!いくよ、犬丸!」
蛇のような魔族、そしてエンエンとその隣に控えていた犬獣人が姿を消した。
「それでは我も一汗かくとしよう。ぬぅりゃあああああ!!!」
猪の獣人がクロノへ向けて突進。クロノ側の隣に立っていた象のような獣人…魔物?魔族?もうなんか新キャラが一度にいっぱい出てきすぎて誰が何の種族なのかわからんが、象のような男が猪の角をガッチリと掴む。猪は象をそのまま押し出し、周囲を囲っていたワニの兵をボウリングのピンのように弾き飛ばしながら突っ切って行ってしまった。
「それじゃあ儂らは――」
「おやおやー、そこにいるのはマーールス君じゃあないか。いやいや奇遇だねぇ。ファーゼストエンドに着いた途端騒がしいと思って見に来てみればザッツベーストなタイミングなようじゃないか。そこの黒ずくめの男が魔王かい?」
おいおいまだ増えんのかよ。
三将の残った一人と鶴亀コンビが戦いに入ろうかというタイミングで声をかけてきたのはウザ爽やかさが全身から溢れた金髪の男を筆頭にしたパーティーだった。
「この真の勇者たるランスロット=アーサーを差し置いて魔王を討ち取ろうだなんて、君も食えない男だ」
「そうよそうよ!魔王を倒し、世界に平和をもたらすのはランスロット様なんだから!」
なんだろうか、この残念臭しかしないパーティーは。絵に描いたようなライバルポジションの噛ませ役じゃないか。
「おや、その男は……なるほど。この場は君に華を持たせるとしよう。そこの少年ボーイ。真の勇者たるこの僕、ランスロット=アーサーが直々に相手をしてやるからついてくるがいい」
「そんな!真の勇者であるランスロット様こそが魔王を討ち取るべきですわ」
「心配せずとも、その男は魔王ではないよ。それに、友に華を持たせてあげるのも男としての器さ」
「きゃー!さすがランスロット様、素敵ですわ」
「はぁ、君みたいなのは僕が一番嫌いなタイプなんだけど。跡形もなく消してあげるよ」
ランスロット一行と、残っていた三将最後の一人は戦場を求めてどこかへ飛び去っていった。
今、街の各所で戦闘が行われているんだろう。轟音が聞こえたり、建物越しに火柱なんかが見えたりした。
「どうやら他にも手の足りとらんところがあるようじゃのう。儂らはそちらにいくから、この場は任せたぞ」
「えぇ、この男は誰にも譲る気はありません」
「活気があっていいのう。儂も2000年前は――」
「お爺さん、いきますよ」
「ほっほっほ、歳を取ると話が長くなっていかんのう」
散歩にでも出掛けるかのような会話をしながら鶴亀の2人が姿を消す。
結局この場にいるのはマルスパーティーに俺、クロノに紫色の小柄な魔物。あんだけの人数が加勢に来たわりにほぼ最初にいたメンバーしか残らなかった。
「何を企んでいるか知らないが、今日こそ止めてみせる」
改めてクロノに剣を向けるクロノ。
その時、街全体が大きな振動に襲われた。




