31話 肩が触れただけで殴り掛かるヤンキーと黒鎧はマジ勘弁
お久しぶりです
何が起きた???
全身を襲う衝撃。どっちが上でどっちが下か、身体が激しく揺さぶられて自分がどんな体勢になっているかもわからない。
終わったか、何秒続いた、いや、ほんの一瞬、すごい衝撃だった、何がどうなった、いや、うん、今何考えてる
――なんだろね、呆然として自分が遠い。
あぁクソ。
ぼうっとする頭を振って正常な意識を手繰り寄せる。
見慣れない場所。さっきまで酒場にいたけど、でも別の場所に召喚されたわけじゃない。
木材やレンガの破片が辺り一面に散乱してる。前方は一直線に建物の壁が壊れて風通しがよくなってる。これ、俺がやったのか?俺が飛ばされたって事か?突き抜けてここまで飛んできたって事?こんなに飛ばされたって事か?
こりゃまぁ、普通に考えてただ事じゃないわな。
倒れてる俺の周囲には人が集まってきているが、皆一定の距離を保って俺のことを見ている。
「なんの騒ぎだ!」
声のした方に目を動かすと、ワニの獣人のような人がガチャガチャと鎧を鳴らしてこちらに駆けてきていた。手には槍を持っている。
「これは…なんだ。人間!大丈夫か?なにがあった!?」
一直線に家屋を何軒も貫いて空いた穴と抉れた地面を見れば俺がここまで吹き飛ばされた事は容易に想像がつくだろう。
大丈夫かって、こんなことになって普通大丈夫なわけないだろ。俺は大丈夫だけど。
何があったって?こっちが聞きたいわ!
体を起こして、改めて俺の身体が作った瓦礫の花道を見る。乱暴に貫通されたトンネルの最奥からこちらを覗く人の姿が見えた。あれがさっきの酒場か、家何件分ぶっ飛ばされたんだ俺。
普通に考えたら入口でぶつかった黒い鎧の奴だよな。
その張本人の姿は見当たらない。
ちょっと肩がぶつかっただけで暴力を振るうとか田舎のヤンキーかっつーの。
都会の通勤ラッシュでそんな事気にしてたら生きていけない。拳に訴えてまでパーソナルスペースを大事にしたい人は一生田舎に引っ込んどいて、どうぞ。
くそ、それにしてもどうしたもんか。というか、どうにかするもんなのか。
普通、漫画とかだとなんかかんだそのままそいつと戦う流れになるけど。普通は漫画ならって、こんな異常な状況の「普通なら」ってなんだ。俺は今、現実としてこの異世界にいるわけだけど、同時にそんな自分の状況を漫画なんかとダブらせて考えてる部分があるんだろうな。
そんなくだらないことに思考を割いてるうちに、鐘の音が響いて慌ただしい雰囲気が街を包む。酒場の方からは重厚な笛の音が聞こえた。
それを合図に、俺を心配してくれていたワニと同じ格好のワニ達が集まり、周囲が一気に慌ただしくなる。
「救護班からひとり、この人についてやってくれ。他の者は続け!」
鎧のワニ達は隊列を組み、壊れた家屋を突っ切って酒場へと駆けていった。
「君、大丈夫かい?」
続いて声を駆けてきたのもやっぱり鎧のワニ。一人、隊を抜けて俺に寄り添ってくれている。みんな同じに見えるけどこうして間近でよくみるとやっぱり一人ひとり違う顔してるんだな。さっきの人はちょっときりっとした顔をしてたけど、この人は少し柔らかい顔をしているように感じる。
鎧ワニは慣れた手つきで俺の身体を調べる。
「うん、ケガはないようだね」
「ありがとうございます。丈夫だけが取り柄なもんで。何が起きてるんです?」
「わからない。大丈夫なようなら私はいくよ。後で話を聞くからここでおとなしくしていてくれ」
そう言って俺を診てくれた鎧ワニも隊の後を追った。
なんだかデジャブだな。フューゲルの街でも似たようなことがあった。
俺は街に入ると悪党にぶつかられる呪いにでもかかってるのか?
あの時はただのひったくりだったけど、今回の相手は只者じゃない感じだ。
俺がぶち破ってきた壁を改めて見てみてそう思ってみるけど、もしかして実は魔族ってみんなこんだけのパワー持ってたり?
この後の事で厄介な事になったら魔王に相談しよう。賓客として迎えてくれてるし大丈夫だよね。なんたって魔王だし。
とりあえず今はここでおとなしくしておこう。
これ以上面倒なことにならないためにも、間違ってもさっきの黒鎧のいる現場には戻ってはいけない。
――って思うじゃん?
思った次の瞬間にはそいつが目の前にいるじゃん?
なんでじゃん?
「ぁ…っ……ふっ…ふっ…へ、ヘータロー…おまえまたっ……股っ……どっから」
今日も今日とて俺の頭突きで股間を強打されたモーガンが独特な呼吸法で痛みを逃しながら問うてくる。
状況を確認しよう。真後ろに転がり悶えるモーガン、さらに数歩後ろにウェンディとポポさん。目の前にはマルスの背中、それに対峙するように例の黒鎧が立っている。さらにその後方と周囲は鎧ワニの一団が固めている。
「ふっふっふぅ~~~~…………そうか、お前だったのか。昨日、俺の召喚の邪魔したのは。おかしいと思ったんだよ不発なんて」
「あ…なるほど。すみません、故意じゃないんです。俺が人の召喚に干渉しちゃうのは事故みたいなもんで」
俺を魔界に呼び出したのはモーガンってことか。ってかモーガンって召喚術師だったのか。昨日の戦いでは何も呼び出してる様子はなかったけど。
「それよりこの状況、戦ってるってことですよね。あの黒い鎧と」
「それよりっておま………。あぁそうだよ。常闇のドラゴンバスター、クロノ」
「常闇の…ドラゴンバスター」
常闇のドラゴンバスター、超かっこいい二つ名だ。漆黒でありながら存在感際立つ刺々しい甲冑に身を包んだ姿、故に相対的に主張するマントの内布の赤が映える。そしてその赤に負けない殺意に満ちた鋭く紅い眼光は、立ちはだかるものすべてを睨み切り裂くようだ。
「ヘータロー、次は邪魔すんじゃねーぞ。ワイバーンインストール!」
そう唱えたモーガンの身体は一回り肥大し、その皮膚を鱗で覆った。昨日見た姿とはまた違うようだ。
「モーガン、悪いが手を出さないでくれないか。奴とは1対1で――」
「わかってるって言われなくても。危うくなったらすぐ入らせてもらうぜ」
「……わかった。クロノ!剣を抜け!」
モーガンとの会話のくぎりで、自分がすでに構えていた剣を相手に向けるように構え直してクロノを煽るマルス。しかしその言葉にクロノと呼ばれた黒鎧は腰の剣に手をかける素振りは見せない。
「どうした、早く抜け」
「必要ない。どうしてもと言うなら抜かせてみせろ」
その言葉を皮切りにマルスとクロノの戦いが始まった。クロノに容赦なく剣を振りつけるマルス。クロノはその剣をすべて腕を当ててで防いでいる。剣と鎧、鋼と鋼が激しくぶつかりあう音が響く。
マルスが責め続けて、クロノが防戦一方の様に見えるけど、俺にはクロノに大きな余裕があるように感じた。そして―
「ぐあっ!」
マルスは呻き声をあげて、戦いを観戦していた俺とモーガン間を高速で飛んでいった。
その軌道を追うよいに舞い上がった土煙が裂け、光の刃が飛んできた。それは、クロノに直撃するも、クロノはそれすら片手で薙いでみせた。
「うぉおおおおおお!!!!」
いつの間にか相手の頭上に飛んでいたマルスがクロノの頭にその剣を振りかぶる。しかしその剣もクロノの黒剣によって防がれてしまう。
すごい…一瞬にも思える激しい攻防に俺は呆気にとられていた。正直言うと俺の中にはマルス達の事をちょっとナメてた部分があった。だって魔王の部下に情けなく負ける部分と酒場で騒いでる姿しか見てなかったし。
「抜いたな」
「………」
悪態をつくようにそうつぶやいたマルスは飛び退いてパーティーの元に戻ってきた。
兜の奥のクロノの表情は相変わらずわからない。
「行くぞ」
マルスが再びクロノに飛び込む。マルスは剣を構えてそれに備える。




