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愛の理由  作者: 桜井雛乃
辿り着いた場所
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辿り着いた場所 終

 氷に包まれ、瞳を閉じている美しい少年。

 何時迄も何処か幼さを残す、愛らしい少年。

 間違える筈も無い。某が求め続けた、源義経、其の人である。

 守りの氷が、某を拒んでいるのが知れ、酷く悲しくなった。

 義経を氷が包んでいるのは、某から身を守る為なのだろうか。

 此程迄に近くに居るのに、触れることすら、許されぬと言うのか。


 炎に包まれ、涙を流している美しい青年。

 老いを感じさせない、若々しく、美の象徴とも呼べる程に、一種の芸術品とも呼べる程に、美しく輝く青年。

 間違える筈も無い。某に愛を植え付けた、源頼朝、其の人である。

 攻撃の炎が、某を受け入れる様に、道を開いたのが、某を酷く苛んだ。

 頼朝様を炎が包んでいるのは、某と二人で歩む道を、他の誰にも邪魔させぬと言う意思の現れだろうか。

 最初から頼朝様は、某だけを同じ道で包み、共に歩もうとしてくれていた。

 炎は二人の距離を遠ざけるのに、手を伸ばすだけで、其の体を抱き締める事すら出来てしまうのか。


 水に包まれ、鬼の様な形相をしている醜い男。

 幼き頃より歳上に見られて来た其の姿は、もう数千年を生きた鬼としか思えぬものであろう。

 間違える筈も無い。目の前で睨み付けているのは、武蔵坊弁慶、某なのだから。

 癒しの水が、某を包み込む事により、再び某を甘えの道へと逃げそうとしている様であった。

 某を水が包んでいるのは、頼朝様を傷付け、彼の炎を消してしまう為だったのでは、無いだろうか……。

 結局は、義経にも頼朝様にも、触れる事は出来ぬのだろう。

 人を傷付けるのみの此の手では、誰を抱き締める事も、出来ぬに決まって居ったのだ。


 最終的に某は、何を守らんとしていたか。其れすらも見失った儘で、某は全てを求めようとする。

 全てを守りたかった。

 初めてだった。

 そうだ。初めて求めて貰い、初めて愛して貰い、初めて必要として貰い、某は嬉しかったのだ。

 嬉しくて、某の力を必要とする全ての人を、守りたいと願ったのだ。

 義経の力に憧れ、義経を守り義経に守られんとし、義経へ恋心を抱き、其の心に嘘を吐いて義経の恋を応援した。

 自分の恋と秀衡殿の優しさ、そして義経の忠義の上に、彼の恋心を乗せようとした。

 然し其の恋心が、却って破滅を招いてしまったのだろう。

 悪戯に応援する等と言い、義経の抱える忠義を見えなくさせた。

 義経と頼朝様は、某の所為で道を見失い対立と言う最悪の道を歩んでしまった。

 ……全てを守らんとする余り、全てを傷付け失ってしまったのか。


 今度こそ、守れるだろうか。

 義経の事も、頼朝様の事も、某自身の事も、秀衡殿や他の皆の事も、守れるだろうか。

 もう一度やり直す事が出来たなら、全てを救えただろうか。

 誰も傷付かずに済む、幸せな未来を描けたのだろうか。

 反省と後悔の色に染まり行く某を、自らの手で希望の色へと塗り替える。もう二度と、傷付いて欲しくないから。

 勝手な某の自己犠牲でも、傷付いてくれる人が居る。

 其れならば、某は自分自身さえも、守り行かねばならぬ。

 大切な人を悲しませぬ為。

 悲しい氷の中に閉じ込められた、愛しい人を救い出す為。悲しい炎の渦に飲み込まれた、儚い彼を救い出す為に。

 もう、間違えぬ、決して――。















 強くなりたい。そう願う彼らは、形もない”強さ”というものを、求めるがあまり、どこかで強さを履き違えてしまっていたのかもしれない。

 自分が強くなることにより、平和へを作り出し、それぞれの大切を守れると思っていたのだろう。

 本当に愛しいと思える人と出会い、強さへの執着心はより膨らんでいってしまう。

 不器用な彼らは、力でしか守る方法を知らなかったのだろう。力でしか守ることはできないのだと、そう思ってしまったのだろう。

 戦の果てさえ見据え、乱世が齎すものもわかっていた。

 そのはずなのに、力を求めてしまっていた。

 愛に狂い出していた、とすら言えるのかもしれない。

 強さを履き違えるほどに、戦を巻き起こすほどに、彼らを狂わせたものこそが愛なのだろう。

 それぞれがそれぞれの大切を抱き、愛しているから、大好きだから、やがて狂愛へと変わってしまっていた。

 異常なほどの愛に、本人たちは気が付いていたのだろうか。

 気が付いていたとしても、それは消えない想いだったのかもしれない。

 本人たちですら、もう止められないほどに、その想いは歯車を狂わせていたのかもしれない。

 狂いに狂ってその想いは、大切な人を殺したいほどに、そこまで思ってしまうほどに、膨らんでしまっていたのだろう。

 強く、強くと、彼らが願ったものは、手に入れるとともに大切な気持ちさえも見えなくしてしまうものだったらしい。

 強さを手にしていった彼らは、同時に信じるものさえも手放してしまっていたのだ。

 そして欲望のままに、快楽に溺れ、人を傷付けながら下卑た笑みを浮かべているのだろう。


 愛の理由さえも知らないままに、いつしか探し求める手を止めてしまっていた。

 理由などないものに、理由を求め怯えていた頃の影はもうなく、理由などなく思うままに行動を続けた。

 それが、強い力を持ったがゆえの変化などとは、気付くはずもなくて――。

 全てを失ったそのときに、大切なものや、思い描いていた理想を、欲望の中に見付け出したのだろう。

 もう取り戻せないことを知り、後悔という感情に包まれていたのだろう。

 強い彼らは英雄として、平和を手に取った救世主として、後世までも讃えられた。

 求めた愛も恋も手に入らず、狂った心の中に平和を抱いていたことなど、知る由もないのだろう。だれにも知られずに、愛の花は散る。

 武という幻想で、愛という幻夢は、散っていってしまったのだろう。

 絡み合った運命の糸が結び付く場所などなく、絡みに絡んで、お互いに足元を危うくするばかりであった。

 それでも切らずに運命の糸を信じていたのは、愛の心が少しは残っていたためなのかもしれない。

 しかしそれすらも報われず、糸は足に絡まり転ばせて、遂には首を絞めてしまっていたのだろう。

 力を手にし、戦に勝利し、望みどおりに天下を手にした。

 幸せはあるのに、手に入れたい愛だけがすれ違っていってしまう。

 それが求めたものにしろ、求めていないものにしろ、真実は変わらない。


 ――辿り着いた場所。

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