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愛の理由  作者: 桜井雛乃
快楽に溺れ
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快楽に溺れ 源頼朝

 覚悟していたのに、私が決めたことなのに、涙が溢れてきた。

 もう嫌だ。義経なんて、……そうだ、義経のせいで……。

 どうしてここまで、義経は私の邪魔をするのだろうか。


 活躍してくれた。彼のおかげで私がここまでこれた、そういっても過言でないくらいだろう。

 それなのに彼は少しも傲慢になったり、自惚れたりすることはなかった。それどころか、他人を褒めることができるほど、強く優しい人だった。

 私だって、義経の優秀さはわかっていた。

 でもだからこそ、私は義経の力を恐れていたんだろう。

 最後の戦いのときだって、そうである。

 私は義経が怖かった。だから敵と一緒に、消し去ってしまおうとした。平和な世を作る中に、彼の力は必要ないと、消そうとしたんだ。

 そんなことはあんまりだって、私も十分、理解している。

 理解はしているけれど、戦から帰ったところだというのに、彼を追い詰めたはずなのに、笑顔で帰ってくるものだから。

 そう。いつだって、そう。

 苦しめても悲しませても、笑顔を浮かべてくれる人だから。

 平気なはずがないのにっ。

 怪しいじゃないか、そんなやつ。普通じゃないよ。

 実際に義経が悪いことをしたわけじゃない。

 それじゃあ何? 私は、嫉妬心から義経を殺そうとしているんだって、そういうの?

 私が平家の男に躰を弄ばれ、必死に生きている間に、彼は楽しそうに日々を過ごしてきた。大好きな秀衡殿と、暮らしていたんだろう。

 そしてやっと私が抜け出し自由を手にした頃には、もう義経と弁慶は共にあった。

 私より強くて、私より性格が良くて、私とは違って……清らかで。

 私よりも義経を選びたいと思うその気持ちには、私自身だって共感する。

 それでもこんなのって、ひどいと思う。

 源家を守るために耐え忍んできたのは私だというのに、少しも報われないんだから。

 権力は手にした。今や私は、この国で一番とも言えるだろう。

 それは私が望んでいた席だし、父上の子として相応しい、誇ることのできる立場だ。

 そうではあるのだが、私はその席を得るために、好きな人を捨てたつもりなんてない。

 弁慶。私は弁慶のことが、やっぱり好きなの。他のだれでもない、弁慶と一夜を共にしたい。

「ごめん、ごめ……ん……ね」

 考えれば考えるほどに私は汚れていくようだった。

 涙を流して謝る。だれに? 弁慶に、義経に、私を信じてくれた人に。謝っても許されないとしても、謝らないと私は、また悪役になってしまうよ。私によって、悪役にされてしまうよ。

 だから、ごめんね。みんなに、そして私に。


 弁慶が討ち取られた。

 その報告を私が受けたのは、義経討伐の命令を出してから、どれくらい経ってからだったんだろう。

 力を手に入れたはずの私が命令を下したのに、義経が討ち取られたという報告は、一向にやってこなかった。

 しかし弁慶が死んだということは、義経も相当追い込まれているということだろう。

 本当にもう終わりなんだよ。

 それなのに、変だな。

 弁慶がこの世からいなくなったのだと、それを知った今でも、私は彼の躰を求めてしまっている。

 いいや、弁慶がだれのものでもなくなった今だからこそ、手にしたいと再び願っているのかもしれない。

 もう四十の男だというのに、私は何をしているのだろうか。

 そう思いはするのだが、欲望に抗うことなどできなかった。

 もし弁慶が私を愛してくれたなら、彼はどのようにして、私を抱いてくれたんだろう。

 愛おしい彼の姿を思い浮かべながら、自分の手で自分の躰を撫でた。

 正直に言ってしまえば、かなり惨めである。

 私でなくても、だれもがそう思うことだろう。こんな私は、一番上に立つべき存在ではないと思う。

 男に抱かれる快楽など、知りたくなかった。初めては無理矢理だったし、痛くて苦しくて、生きるためとしても耐えがたいものだった。

 それを快楽に変えたのは、景時と躰を重ねたときであろう。

 徐々に行為を特別なものとせず、乱暴に抱かれることにさえ慣れ悦びを感じていた。

 しかしその悦びを確かなものにしたのは、あまりに優しく抱いた景時なのである。

 そして弁慶に恋をしたことで、男同士の情事を、私の中で当然のことにしてしまった。

 こんな私って、変だよね……。いっそのこと、売春でも始めようか。そうでもしないと、躰が疼いてしまうようだった。

 それとも私のことなんて、だれも抱いてくれないかな。

 私ももう若くないし、そもそも私は女じゃない。その上、身分だって高いのだ。

 怪我をさせないようにと気を付けながら抱いたとしても、楽しくないものね。

 今の私にはもう、脅威となる存在などいない。

 だけどそれと同時に、死にそうになるくらい、激しく抱いて私を乱れさせてくれる存在もいないのだ。

 泣いて喚いて終わりを望んでも、関係なく乱してくれる人がほしい。そうして私を、気持ち良くしてほしい。

 いつから私は、こんな風になってしまったんだろう。

 これじゃあ物足りない。もっと、もっと、気持ち良くなりたい。だれか私を愛してよ。

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