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愛の理由  作者: 桜井雛乃
快楽に溺れ
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快楽に溺れ 弐

 だれかお願い。私を抱き締めてくれるだけでいい。

 どんなに乱暴にしてもいいから、私を抱いてよ。おかしくなるくらい、私を気持ちよくして?

 そうだ、たった一度だけ経験がある。薬を使われたとき、何がなんだかわからなくなるくらいの心地になった。何もかもが私を刺激し、気をおかしくさせた。

 今も薬に頼れば、弁慶のことを忘れて気持ちよくなることもできるのかな。

 あのときよりも強いものを使えば、本当に弁慶に抱かれているような、そんな錯覚に陥ることもできるのかもしれない。

 いけないことだとはわかっているけれど、ただの自慰行為では満足できなくて、私はあの快楽を求めてしまっているのであった。

「頼朝様、どうかなさいましたか?」

 服を着直して部屋を出ると、見張りをしていたらしい人に、そう声を掛けられた。

 どうしたかと尋ねられてしまうと、私もどう答えていいものかわからなくなる。

 だけどここでほしいものを答えれば、なんだってすぐに届けてくれるはず。そのことを考えたら、私が買いに行くよりも早く手に入れることができる。

 この欲望を、今すぐにでも発散することができる。

「気持ち悪いと思うかもしれないけど、お願いしても、……いいかな?」

 口が軽いような男が、私の部屋の見張りとして選ばれるはずがない。

 今の私の立場を考えるんだ。たった一人で私室の前を見張るとなれば、相当信頼を置かれている存在ということになるだろう。

 私は彼のことを知らないけれど、少なくとも私の秘密を漏らしたりする人ではないことだろう。

「……我慢できないんだ。私を抱いてはくれないか?」

 薬を用意してもらうのもいいと思ったけれど、それだと結局は一人でやることになってしまう。

 一人での惨めさを考えたら、配下に抱かれる惨めさの方がまだ興奮する。

 名前も知らない人に抱かれるという、そのことには最早なんの抵抗もない。彼は私に仕えてくれている人だから、きっと私のことを優しく抱いてくれることだろう。

 哀れみを浴びながら、敵に抱かれるよりはずっといい。

 私がそのことにすら、興奮を覚えてしまっていたことは、否定しきれないんだけどね。

「え、それは、どういうことでしょう?」

 一方の彼は、かなり動揺しているようだった。その言葉に対してもそうだが、極めて冷静なままである私に対しても、彼は動揺を抱いているのだろうと思われる。

 まあ、当然の反応だよね。

 いくらでも、望んだだけ女を抱くことができるだろう。性欲の処理ならば、それでいいはずなのだ。

 それなのにまさか、男に抱かれることを望むだなんてね。

「そのまんまだよ。一人で努力してみたんだけど、あんまり興奮しなくってね。やっぱり、相手がいないと、だからさ」

 不安がないわけではないのだが、もう全て終わったんだから好きにしたっていいじゃないか。

 権力を武器に、人を傷付けるつもりはない。けれど、これくらいはいいじゃないか。もちろん、嫌がられたらやめるから。

「本当に私なんかでよろしいのでしょうか? 頼朝様にはもっと相応しい方がいるはず」

 彼の袖を右手で軽く引いて、わざとらしい上目遣い。

 かなりあざといし、正直、愛らしい少女でもないと効果がないような仕草だろう。

 そうとは理解しているのだが、お願いするときはそうしてきたから、その癖が抜けていないのだと思う。

 だけど意外と効果あるんだよ?

「手加減をする自信がございません。頼朝様は前々から美しいお方だと思っておりましたし、失礼なこととは思いますが、頼朝様と過ごす夜を夢に見たこともあります。だから、自分を抑えられないと思うのです」

 こうして、簡単に引っ掛かってくれるんだ。

 主と過ごす夜を夢に見るだなんて、そこはどうかと思うんだけどね。私に仕えるみんなは、性別を気にしない派の人ばかりなのかな。

 私の影響とかだったり、しないよね? 大丈夫だよね。

「いらないよ、手加減なんて。私がやめてって言っても、苦しいって泣いたって、続けてくれていい。後で咎めたりはしないから」

 男性同士で行為に及ぼうとしているというのに、驚きこそしても違和感や拒絶は示していないようである。

 私の国のあり方に対して少し不安を覚えてしまうが、表沙汰にしていないのだから、私の死後数年でそれはなくなるだろうと思い直す。

 昔から、全く存在しない発想だったわけではないし、大丈夫だよね。

「一人だと不安だっていうのなら、仲間を呼んできてもいいよ? 口の固い人に限ってだけど、その条件さえ満たしていればどんな人でもいい」

 まだ迷っている様子だから、私は更にもう一押する。

「だれかいないかな? 私みたいなおじさんでも、抱きたいと思ってくれる人。性欲の捌け口だとしても、どんな扱いをされても、別に私は構わないから」

「頼朝様……、本当にそれで、よろしいのですか? そう仰られるのなら、連れて参ります。しかし、お願いがあります。どうしても相手が頼朝様であることを感じてしまいますので、予め着衣は乱しておいては頂けませんか?」

 そこまで言い、私が確かに頷いたことを見ると、彼は早歩きに去ってしまった。

 相手が私だと、他の人と同じようには抱けないよね。だけど服を乱しているだけで、抱いてくれるんなら簡単だよ。


「入ってもよろしいでしょうか?」

 戸を叩く音とともに、少し戸惑いの残る声。

 何人くらい呼んできてくれたんだろう。

 痛くされないといいな。性交に抵抗があったうちは、そう思っていたはずなのに、今は思いきり痛くしてほしい。

 恋なんて洗い流せるくらい、痛くきつく苦しくして、汚い私をもっと汚してほしい。

「早く、入ってきて」

 誘うように甘く吐いた私の声に、戸が開き数人の人が私に歩み寄ってきた。

 初めて入るであろう私の部屋に、興味を示しているようである。やがて言われたとおりに、服を乱し待っていた私の姿を捉えると、一気に部屋への興味はなくしたようで、まっすぐこちらにきて跪く。

 人数は、これで全部だとするならば、五人であろうか。

 もちろん、呼んでくるように頼んだ、見張りのあの人も含まれている。

「……お美しい」

 一人がそう呟くので、私も嬉しくなって彼の手を私の服の中に侵入させる。

 男らしいその手に私の手を重ね、彼の手が逆らえないようにする。そして焦らすように、胸の周りを撫でさせた。

 ふふっ、他の人も羨ましがっているようだね。こうして気を狂わせていくんだ。

「みんなも、見ているだけでいいの? 私をどうするために、この部屋にきたのか、忘れちゃったかな」

 本当はまだそこまで興奮していないけれど、わざと息を乱して私は誘う。

「失礼致します。ああ、頼朝様っ」

 断りを入れてからだったけれど、一人が遠慮なしに触れてくる。

 頬に唇を寄せてくると、顔中を舐め回し指は私の口を犯す。その人が口火を切ってくれたおかげか、次々と他の人たちも私の躰に触れ出した。

 そして一度触れてしまってからは、もう止まらずに私を撫でる。

「もっと、激しくしてっ。優しさなんて、いらないからぁ」

 言葉でも躰でも、どんどん私は快楽と刺激を求める。私が理性を失い本能で求め始める頃には、みんなも本能で私を求めていてくれた。

 ときどき、不器用な人が私の躰を引っ掻く。

 だけどその刺激が甘い快楽の中に丁度よく、更に私を気持ちよくさせてくれた。

 気持ちよかったのは本当なのだけれど、意識を失うほどの刺激はなく、弁慶のことを忘れきれずに私は笑った。

 元気は出たからこれからも生きていける。


 ――快楽に溺れ。

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