旅立ち
彼女の手を取り逃げたかった。誰よりも好きで誰よりも大切に思っていた。ずっと一緒にいて私が守るんだって幼い頃から思っていた。
「レオンハルトすまない。不甲斐ない親で申し訳無い。」
ある日陛下に呼ばれ行くと、大国へ行って欲しいと。先日行って帰ってきたばかりなのに?不思議に思うと私宛に婿入りの話が来たからって。行った時に見初められたらしい。はぁ最悪。いつ見られた?会った中には居なかったはずだ。
「フローラ嬢がいるのはわかっているが我々には断れない。あの日行かせなければ良かった。本当にすまない。」
私に伝えてる両陛下が泣きそうだ。フローラの事は2人も家族のように接していたし、私達の行く末を考えてくれているのだろう。わかりましたと返事する。本当に申し訳無いと両親に頭を下げられた。
「フローラにはよろしくお願いします。とりあえずすぐ準備を始めます。仕方が無い事です。」
2週間後には迎えがきてしまう。もうフローラに会えない。もうすぐ婚姻だと思っていたのが延期になり解消されてしまった。あの子は優しい子だから、誰の事も責めず私を気遣ってくれるだろう。もう手が届かない慰めてあげられない。私には王族としての責務がある。手紙を書く事もプレゼントを送る事ももう2度と出来ない。もっと送っておけば良かった。会っておけばもっと色々してあげれば良かった。まさか2度と会えなくなるなんて考えた事も無かったんだ。
「もう朝か…。」
あの日からあまり眠れない。どうしても目が覚めてしまう。フローラが心配だ。今日父上が城にフローラを呼んでいると聞いている。会って抱きしめて嘘だよ、もうすぐ結婚式だよって言ってあげたい。幸せにするって約束したのに。
「あ、フローラ…」
部屋から廊下を見ているとフローラが歩いている。ふとフローラと目が合う。一緒に逃げようって言いたい。何もかも捨ててもいい。大好きなのはフローラだけだよって。彼女はいつも私を見ると綻ぶように微笑んでくれる。今も一瞬微笑みかけたが辞めた様に見える。フローラが決意したように微笑み歩き出す。きっと一緒に逃げようって言うと幻滅されてしまうね。
「レオンハルト準備出来たか?明日には着くらしい。全く時間が無いな。」
「はい。もう大丈夫です。色々調整出来ましたので。」
新しい婚約者を愛する努力をしよう。フローラを幸せに出来なかった分、彼女を幸せにしよう。どんな方か分からないが長い人生共に歩める様に話をしよう。今までフローラとしてきた様に。
「レオンハルト様あの子からです。お見送り出来ずすいません。」
「ありがとうございます。お二人に最後会えて良かったです。今までお世話になりました。」
見送りの時、彼女の両親から1輪の鈴蘭を貰った。幸せを願ってくれている。こんな結末になるとは思っていなかったが、一緒にいた時間はとても大切だった。フローラは元気だろうか?会いたい。
「レオンハルト身体に気をつけて。」
「はい。皆も大変な時に全てを任せてしまってすいません。」
「レオンハルトの幸せを祈っているよ。」
マリアベル様は婚約者がいる事を知らなかったみたいで、とても後悔しているとこっそり両親から伝えられた。大事にすると言ってくれていると。
「マリアベル様お待たせしました。皆と別れの時間を取って頂きありがとうございます。」
共に馬車に乗り込み何が好きですか?て聞いてくれる。良い子っぽいだけにツライ。フローラならって思うのは良くないよな。
「レオンハルト様お腹空いていませんか?色々用意してもらっているのです。」
「ありがとうございます。少し空きました。」
「食べましょう!」
嬉しそうに微笑む彼女はまだどこか幼く、大事に育てられてきたのだと感じる。あれもこれもとお皿に入れてくれ気を遣ってくれる。申し訳無い気持ちがあるのか、チラチラこちらをうかがう素振りが見える。普通にして欲しいな。
「レオンハルト様の事知りたいです。」
マリアベル様とは国へ向かう途中色々話をした。好きな物好きな事、普段どんな事をして過ごすかなど、私の事を知ろうと必死になってくれた。そして大国の話を色々教えてくれた。私は王族の責務としてどんな扱いが待っていようと向き合おうと思っていたのだが、意外と扱いは悪くないのかも知れない。
「はぁ…遠いな。」
「レオンハルト様何か言いました?」
「いえ。色々教えて頂き楽しみになりました。」
…てか、フローラと離された時点で割とどうでもいい。皆は私の事をとても素晴らし王子様だと思っていて、今回の事でさらに慈悲に満ちた王子様だーって。
なんで俺?本当イヤになる。
フローラに一目惚れで好かれたくて、一緒にいたくてずっと頑張ってたんだよね。フローラの理想の王子様をし続けた。それを…ありえないよね。でも敗戦国の王子様だから断れないよね。共に逃げたかったけどあの根っから真面目な彼女がそれを許すはずがない。フローラにだけは嫌われたく無くて行くしかなかった。最後までフローラの格好良い王子様でいたかったんだ。
はぁー私の人生終わった。フローラに会いたいよ。理想の王子様をし過ぎた事がこんな結果になるなら、もっと自由に生きとけばよかったな。戦争中もフローラにもっと会いに行けば良かった。最後になるなんて誰も思わないよ。
誰かと幸せになるのかな?私じゃない誰かと。ツライな。忘れて幸せになって欲しいけど、忘れられたく無い。身勝手だよね。私は戦争ふっかけてきた相手の娘と結婚するのに。私だけを想っていて欲しい。幸せになって欲しい。
「レオンハルト様ごめんなさい。」
「ん?何がですか?」
「いえ…よかったら使ってください。」
へ?ハンカチ?気づくと涙が出ていた。新しい婚約者を愛そうと思っているのに…大事にしようと頭ではわかっている。ツライな。
「レオンハルト様お出かけしましょう。」
この国に来てしばらく経つ。マリアベル様がいつものように誘いにきた。もちろんですって微笑む。長年張り付けてきた王子様は役に立っている。手を取り王宮を歩く。マリアベル様に取り入った負け犬国の王子様と陰口を叩かれる。正直呆れるよね。
「あのあちらから行きましょう。皆がすいません。」
「大丈夫ですよ。気になさらないでください。」
言われているのを聞いて落ち込むマリアベル様を慰めるのも正直面倒くさい。仕出かしたのは無くならないんだから開き直って欲しい。可哀想なお姫様に私はこんなんだから気にしなくていいよって言ってあげたい。口が裂けても言えないけど。




