お別れ
「王家がついに降伏を受け入れたようだ。」
「もうこの国に戦う余力などありませんから、仕方ありません。」
「被害が大きすぎる。どのような条件を飲まされるか…」
「そうですね。」
「フローラも結婚はまだ無理だろう。あちらから連絡があるまで待とう。」
お母様は少し前から寝込んでしまっている。息子を亡くした悲しみからまだ抜け出せていない。お父様も気丈に振る舞っているが、日に日に老け込んでいる様に見える。戦争はある日向こうからの急な開戦だった。本当に急過ぎて対応が遅れた為各所に甚大な被害が出た。我が公爵家も長兄を失ってしまい、被害を受けていない家は無いだろう。
「え?婚約が無くなる?私達のですか?」
「あぁ…詳しい話は後日陛下からとなったが、向こうがレオンハルト殿下を欲しいと。」
「…それは断る事など出来ませんね。かしこまりました。」
「フローラすまない。」
敗戦処理の1つとして第二王子があちらの国へ婿入りすることになった。第四皇女様からのご指名との事だ。見目麗しい事が仇となった。本来ならもうとっくに結婚式をしていた筈だったのに。
「フローラ嬢すまない。散々婚姻を待たせた挙句こんな事になってしまって。向こうがレオンハルトを指名してくるだなんて…。」
「いえ。祖国のことを考えると仕方が無い事だと思います。」
あの日から数日後王宮に呼ばれ陛下が謝罪をしてくれるが誰も悪くない。陛下もこれ以上戦争を引き延ばすわけにはいかないので受け入れるしかない。敗戦国である以上この先陛下と王太子殿下もどうなるかわからない。
「レオンハルトは2週間後に出発することとなった。あちらが2週間もあれば準備など出来るだろうと。我が国の第二王子をなんだと思っているのか…。」
陛下が悔しそうに頭を抱えている。陛下は昔から家族思いで王子達をとても大事にしていて、幼い頃より婚約者だった私の事も家族のように接してくれていた。
「レオンハルト様のご様子はいかがですか?」
「王子としての責務を立派にやり遂げようとしているよ。周りの皆を気を使わさないよう準備に取りかかっていて。優しい子だから…心配だ。何よりもフローラ嬢の今後を気にしていたよ。少しでも憂いを取り除ける様、私が何とか出来ればよかったのだが…すまない。」
そう言って陛下が目頭を押さえる。親心としては1人旅立つ息子が心配だろうに、私の事も心配してくれ申し訳が無い。優しい人達と家族になれる事をずっと楽しみにしていて、婚約が無くなるなんて想像をしたこともなかった。
「私は大丈夫です。長兄の事もありますし両親に寄り添いたいと思っております。私の事は気にせずレオンハルト様には、旅立つまで少しでも穏やかに過ごして頂きたいです。」
「あれ以降会ってないのではないか?」
「はい。しかしもう会わない方が良いと思います。皇女様の婚約者になられましたし、不義を疑われる様な行為はしない方が良いと思いますので。」
敗戦が決まった時から会ってない。戦争中も月1回会えれば良いほうで、婚約して以来こんなに会わなかったのは初めてだった。婚約期間中よく一緒に街へ出かけたり他愛もない話をしたり、私達はずっとずっと一緒に居た。悲しい。本当は寂しくて仕方ない。しかしレオンハルト様は近々単身国を出る。私の比にならないくらいの気持ちを抱えているだろう。
「こんな事になってしまったが、フローラ嬢の事は娘だと思っている。何かあれば頼ってくれ。」
「ありがとうございます。今まで良くしていただき本当に感謝しております。」
あまり会うことがなくなるだろう陛下に挨拶をし退室する。王妃様はレオンハルト様の事で体調を崩し寝込んでいると聞いた。あの日以来日常が全て崩れてしまったがどうする事もできない。
「懐かしいな。よくこの辺で遊んだな。」
2度と歩くことがないであろう王宮の廊下を歩いて想いを馳せる。レオンハルト様の部屋近くを通りかかったので窓の方を見上げた。
「あ…」
外を見ていたであろうレオンハルト様と目が合う。来ていることを知っているから、きっと通りがかるのを待っていてくれたのだろう。いつも通り手を振り笑って答えようとしてしまう。あんなに近くに居たのに、こんなに遠い。一緒に逃げてほしいと願えば逃げてくれたかな?会えば絶対離れられなくなると思った。
レオンハルト様からしばらく目が離せなかった。いつもの様に抱きしめて欲しい。そんな思いをグッと堪え私はニコッと微笑み頭を下げて歩き出す。ずっと大好きだった。優しくて私の事を誰よりも想ってくれ、一生一緒に居ると思っていた人。涙は流さない。優しいあの人がきっと気にしてしまうから。
2週間後の旅立ちの時がきても私は出発に立ち会えない。幸せが再び訪れるよう鈴蘭の花を1輪だけ両親に託した。立ち会った両親からは皇女様が迎えに来たと聞いた。皇女様が優しい人だと良いな。優しいあの人の憂いを取り除き、愛し合って歩んで欲しい。大事にされ幸せになって欲しい。




