星の海、もしくは商店街
西暦4001年。
地球とロイデを結ぶ線の中間ほど、銀河の腕と腕の合間にある、とある小さな恒星系。
その第三惑星、アルファ。第三なんだからガンマじゃないの? とは誰もが突っ込む所だが、命名はこの惑星の女王の名前から来ていた。一つの星系にアルファ星二つとか紛らわしい、と宇宙船乗りの間では大変不評である。
その第三惑星はハビタブルゾーン内ではあったものの、星が若すぎて生物の生息には適さない環境だったため人類手つかず。それをリィンとチビの力で無理矢理テラフォーム。エネルギー源として塔を移設。海あり山河あり大気あり。動植物相も一通り地球を再現。快適な環境が実現されてしまっていた。
そんな惑星アルファは、別名お菓子の星と呼ばれていた。地球の菓子・嗜好品全てを長寿に任せてくまなく食べまくり、リィンの力も借りてこっそりデータ化したサーシャだったが、それらに飽き足らず自分の好みの味覚を野放図に追求し世界中にばらまいた結果、製菓業界の猛反発を食らって地球に居づらくなり移住してきたのがここだった。
望まずして一国の主となったサーシャ。その頃にはお絹も分離できて自分の体を貰っていた。〈静かな波〉も居着いている。人口三人と一匹と一力場、銀河系の中で人口最小、戦闘力最大の惑星国家である。喧嘩を売ろうなんて星は存在しない。
一つの惑星にそれっぽっちの人口だが、人類協同機構改め汎銀河人類協同機構の対リィン窓口もあり、それ以上に観光客はとても多く、国民?全員が全く寂しいとは思っていなかった。健二とチビは、サーシャとお絹とは別の部署として海産物の遺伝子改良と養殖などをしている。でっかいが味が濃厚なウチワエビとか、でっかいが身の詰まったノコギリガザミとか、でっかいがクリーミーなエゾバフンウニとか。地球ではもう余り獲れない、もしくは絶滅したものを中心にしていた。勿論、超高級煮干にも力を入れている。煮干ソムリエとして、その辺は抜かりない猫だった。深層海洋水で煮たトビウオの煮干し、とかテラフォームした海で何言ってんだか、という若干胡散臭い製品もあったが。
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そんなお菓子(と海産物)の星、宇宙港からすぐの所にショッピングモールがある。モール、と言ってもお菓子と海産物しか置いていない、ただしその種類は膨大、と色々極まった場所だ。しかしその潔さが逆に評判となり、今や銀河系でも有数の観光地となっている。
生菓子も、チビ新開発のマイクロステイシスフィールドでいつでも作りたて。今やアルファ星のお土産需要は莫大で、只でさえ資産持ちのサーシャをより金持ちにしていた。本人はそれを商品開発と惑星の施設整備にしか使っていなかったが。サーシャは贅沢に興味が無い、というよりお菓子に囲まれた現状が何よりの贅沢、という事なのだろう。
そんなモール、女王自らが売り子をしている事でも有名だ。「会えるアイドル」ならぬ「会える女王」。ようやく170cmくらいまで身長が伸びたサーシャには、毎日客が途切れない。勿論着ているのは英国風メイド服。女王なのにメイド。
たまに、健二も一緒に売り子としてサーシャの横に立つ。王配、という事になるのだが、しょせん人口5人。身分なんて存在していない。
そんなある日、売り場の来客が一段落ついた時に二人の目の前に現れた、見覚えのある紺色ブレザーの制服を着た中学生くらいの男女。どこかで見た事のある顔。
「面白い事してるわね」
ブレザーに白のワイシャツ、エンジ色のネクタイを付けた、ボブカットの女性が口を開く。それは健二にとって既に遠い記憶だったが、それでも忘れようのない声と姿だった。一瞬で記憶が蘇る。最後に大泉中島公園で別れた時のままの姿だった。
「百合子なのか?」
「やっほー、健ちゃんオルタ。久しぶりね。元気そうじゃない。そっちの子は見た事無かったけどどなた?」
百合子の情報収集能力なら、簡単に分かるだろうに。人間として振る舞おうとしてくれているのだろう。
「ああ、こちらはサーシャ。俺の配偶者だ」
驚いた顔で、両手の平を合わせる百合子。
「あらー、まあまあ、健ちゃんのお嫁さん! 銀髪だなんて、可愛いわねー!」
そこへ、店の奥から暖簾をくぐってお絹も出てきた。
「健二さん、お知り合いですか?」
「ああ、お絹、ほら、例の百合子だよ」
絹、びっくりした表情になるが、すぐに気を取り直して
「これはこれは、初めまして。元欠片、お絹と申します。お噂はかねがね」
両手を前に揃えて、深々と礼をする。
「おお? 元欠片? って事は死んでた時の私のデータ保持者かい」
「そうだよ。で、お絹も配偶者。こっちのサーシャも元欠片だよ」
百合子、目を見開く。
「なんだとう……」
わなわな震え出す百合子。
「重婚だとー! こんな可愛い奥さんが二人とか、犯罪じゃないのかー!」
と言われても、この星の法律はサーシャだし。
「なんてこった。まさかこっちの健ちゃんにそんな甲斐性があったとは。ねえ、どう思いますかオリジナルの健ちゃんや」
それまで黙っていた、隣の中学生健二。苦渋の表情で口を開く。
「その問いに俺は何と答えれば良いのだ」
ぴーん、と来る健二。あ、なんか理解した。このオリジナルの俺とは仲良くなれそうな気がする、これは苦労人の顔だ。健二はオリジナルに話しかける。
「あー分かるよ、本当にそうだよね。ねえオリジナル、仕事引けたら飲みに行きましょう。まだしばらく滞在してるよね?」
こちらをじっと見つめるオリジナル。向こうも何か通じ合うものを感じてくれたようだ。
「そうだな。一通り銀河系も見物し終わって特にやることも無い。つきあおう」
百合子が慌てている。
「え、え、なに健ちゃん同士でわかり合ってるの? 私も行っていいのよね?」
「ダメだ。これは男同士の飲み会だ」 百合子を拒否するオリジナル。
「何事にゃ?」 騒ぎを聞きつけて奥から更にチビが出てきた。
「うおっ! チビちゃん! おひさ! 千年ぶり!」
大声を出す百合子にビクっとなり毛を逆立て、半分飛び上がったチビ。ごく稀に猫っぽい。
「え? 百合子ちゃん? あと隣はご主人?」
「チビも男だもんな。後で付き合え」 とコピー健二改め健二オルタ。
「へ? 何? 何に付き合えって?」 混乱するチビ。
「なんでよー。私も入れてよー」 と言い張る百合子だが、サーシャは
「いやいや、こっちはこっちで女性陣だけで宴会しましょう! 百合子さんには聞きたい事が沢山ありますにゃ!」
サーシャが百合子の肩を叩いて引き込む。
「今日は店じまいにゃー!」
サーシャが宣言する。女王様に逆らえる人間はこの星にはいない。
その後。〈静かな波〉も交えた、惑星の軌道がずれてしまうほど盛り上がった波乱の飲み会については語らぬが花。
健二たちの歴史は、斜めの方向にまだまだ続くのだった。
<完>
当初の予定では、最後までシリアスで終わるはずでした。キャラ設計を緻密にしないとこうなっちゃうんだな、と教訓になりました。




