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はじめましてを何度でも  作者: ぽんた7
第五章 移民船団
33/33

接舷


 警戒アンテナの一機が、いきなりヒノデに近接した船籍未確認のシャトルを捉えた。

 近すぎる位置に出現した小型シャトル。光学モニターに表示されたそれはグレーに塗装されており、ヒノデのものと異なり外壁が平面で構成されている。軍用のステルス艇だ。


 旗艦のブリッジでは怒号が飛び交う。副団長のチェンが叫ぶ。


「何故こんなに接近を許したんだ!」


 レーダー手が答える。


「機影、突然現れました! 理由は不明です!」


 チェンは、AE-35アンテナの破壊のせい、と気づく。これにより探知に小さな間隙が出来ていたが、ごく狭い範囲でしかない。知らなければ絶対にくぐる事は不可能だ。


「つまり、探知の穴の情報が漏れていたって事かよ」


 あんな薄い密度の暗号で、そこまで詳細な情報を送れるとは誰も考えてもみなかった。失態だ。


「ヒノデに通達! 至急回避!」


 通信士が答える。


「間に合いません! 既に右舷に接舷しています! 発着デッキのシールドが破られています!」


「なんてこった」


 艦長席のヘンリーが命令する。


「ヒノデに連絡、防火隔壁を閉じて浸透を阻め」


 指令がヒノデに伝達され、各部の隔壁が閉じられる。これで乗客区画はとりあえず保護された。しかし船体後部にあるシャトルの発着デッキ周りは船の動力系統が集中している。機関室との間には通常の扉があるだけで強固な隔壁はない。


「接舷したシャトルから敵と思われる人影5! 機関室に向かっています!」


「戦艦…母艦は?」


「それが...10kmほど先で停止、接近してきていません」


 どうなってるのか、こちらを制圧・拿捕するつもりなら戦艦で接近してきそうなものだが。チェンは首をひねる。



---


 ヒノデの機関室では、健二の他にノア、その他数名がシフト勤務中だった。警報を聞いてヨルゲンがすぐに現れる。


「状況は」


「発着デッキに敵シャトル接舷。5名ほどがこちらに向かってきます。デッキもここも閉鎖してはありますが、突破は時間の問題でしょう」


「それだけ? たった5人?」


 ヨルゲンが疑問の声を出す。たしかにこの規模の船を制圧するには少なすぎる。


「制圧じゃない別の目的がある?」


 そう考えるのが合理的だろう。ただ、5人とは言え武装した海賊が侵入して危険なのには変わりない。

 船内各部のカメラが海賊を捉えている。連中は機関室にたどり着き、入り口ドアの破壊を始めた。プラズマトーチのような道具でヒンジに穴を開けようとしている。


 機関室入り口にバリケードを築く。部屋の反対側には作業デスクを横に置いて盾にして後ろに隠れた。もともと作業デスクやらツールラックやらで雑然としている。掩護物には事欠かない。


 健二の横にはノアがいた。目で見えるほど震えている彼に声を掛ける。


「ノア。ここで隠れていろ。動くんじゃないぞ」


「……はい」


 少し離れたデスクの後ろで、ヨルゲンがこちらを見ている。


「海斗、お前その年で妙に落ち着いてるよなあ。どこかの兵役経験者か?」


「いいえ、これでも結構ビビってますよ」


 それでもヨルゲンはうさんくさそうに疑いの目を向けていたが、追求しても仕方ないと思ったのか今はそのタイミングじゃないと思ったのか、諦めてドアの方に向き直る。


 落ち着いてるように見えるのは、京都で真剣を目の前にした時の威圧感に比べれば大して恐怖には感じないからだ。って、そういえば俺自衛官だったな、忘れてた。一応は兵役経験みたいなもんか、と健二は改めて思う。


 そうこうしているうちにドアヒンジが破壊されてドアが外側から倒された。

 海賊はすぐには突入してこない。ミラーで部屋を観察。武装してる人間がいないと見てとるやなだれ込んできた。

 その中の一人、見慣れない銃を構えた男が大声を上げた。


「俺は海賊団『鉄鯨』首領のイワンだ。申し訳ないが、この船のエンジンは破壊させてもらう。抵抗しないなら危害を加えるつもりはないから大人しくしとけ」


 内容にかっとしたのか、ヨルゲンが立ち上がり叫ぶ。


「ふざけんな! そんな事させる訳に」


 イワンは表情も変えずに発砲した。ビームではない何かがヨルゲンの右肩に命中して火花を散らす。放電? ヨルゲンは即座に崩れ落ちる。意識はまだあるようだが動く事はできないようだった。どうも進化したテーザー銃っぽいな。


「俺は優しいから電撃だけだが、部下は実弾だぞ。もう抵抗するなよ?」


 にや、っと笑うイワン。


「ま、船内の虫を恨むんだな。前金の分は働かせて貰うぜ」


 虫。手引きしたものがいるのは確定か。てか口軽いな? 利用させて貰おうか。デスクの裏から声を上げる。


「おい。お前らの目的は何だ。略奪じゃないのか?」


 イワンはニヤニヤ笑いを崩さない。


「おお、まだ生きのいいのがいるねえ。おじさんは嬉しいよ。目的はなあ、なんて言う訳ないだろ」


 そりゃそうか。


『チビ、見てるか』


『にゃ』


『奴の部下の位置を視界にオーバーレイしてくれ、病院の時みたいに』


『ほい』


 デスクを透過して緑色の人型が浮かび上がる。首領入れて5人。あまり散開していない。これなら銃は使いにくいはず、刀で撃破できるかもしれない。


 しかし、イワンは続ける。


「……と言いたいところだが」


「?」


「俺たちは虫さんに依頼を受けただけだ。どれでもいいから一隻航行不能にしろ、なるべく人死には出さないように、ってな。理由なんか知らん。金さえ貰えればいいのさ」


 なるべく人死にを出さない、つまり殺す事自体は否定しない、と。

 ならばこちらも遠慮は要らないな。まずは散開している部下4人をなんとかしよう。


『チビ、実弾を発射されても配管に被害が出ない射線エリアを、海賊の周りに出してくれ』


『面倒な事言うなあ。貸し1にゃ』


 緑の人型の周りに、ピンク色の扇型が広がった。この範囲なら射撃しても重要な配管にはヒットしない。つまりこの範囲からなら接近して攻撃できる。


 インベントリから忍者刀を取り出す。隣のノアが空間にいきなり出現した物体に目を剥く。後で誤魔化せると良いんだが。刀を抜いて鞘は足下に静かに置く。一発しか撃てない棒手裏剣は、この人数だと逆効果になりそうだ。


 一番端にいた海賊に、背中をかがめてデスクや棚に隠れて近づく。いつも散らかってる機関室だが、こういう時には頼もしい。扇型を通って数メートルまで来たところで飛び出して突きを一閃。刀の先を腿に突き刺す、って全く抵抗なく貫通した!? 切れ味良すぎないか?


『究極の一品でございます』


 とチビから念話。マジかよ、こんなんビームソードとタイマン張れるじゃんか。


 海賊が呻いた所を切り上げる。まるで暖まったバターでも切ったようなわずかな抵抗を残して、銃を持った右手が宙を舞う。隣の海賊が発砲してきたが、回頭が遅く狙いが荒い。これも難なく切り伏せる。

 剣道4級、って小学生の級で大した事無さそうに聞こえるけど、実態は初心者を脱した高学年最初のクラス、少なくとも大泉の剣道教室では。結構早く動けて、何の心得も無い大人なら竹刀の軌道は目に見えないだろう。ブランクがあっても、この位はできるんだぜ。


 そして、こちらが強いもう一つの理由は、刀は当然として靴だ。

 海賊どもは、コンバットブーツのような靴を履いている。機関室のようなうっすら油が染みた床ではグリップに欠け素早く動く事なんてできないが、こちらは耐油の作業靴でほぼ滑らない。接近戦は圧倒的に有利だった。海賊は銃を向ける事すら時間がかかっている。


 首領のイワンは、銃が使いにくい環境の不利を即座に悟ったようだ。


「お前ら、そいつを止めとけ!」


と命令すると、自分は機関室の奥へ走る。懐から何か棒状のものを取り出した。


『爆弾にゃ』


 追いかけて走り出す。しかし、くそ、あれは追いつけない。奥はもうエンジンルームに通じる配管だ。あれを壊されたら、最悪で航行不能になる。


「ダメ!」


 そこに、叫んでノアが飛び出した。首領の足に飛びつきしがみつく。イワンは堪らず転倒してしまう。


「こんの、クソガキが!」


 片足を抜いてノアを蹴り飛ばす。小さな体のノアはあっけなく吹っ飛んでしまうが、距離を詰めるには十分な時間だった!


 イワンの立ち上がりに間に合う。刀の突きを爆弾を持つイワンの手元に放つ。手の甲にかするだけで当てる事はできなかったが、爆弾は手元を離れて転がって行く。その間に立ち塞がろうとするが、しかし残った海賊の銃がこちらを捉え、発砲を開始する。


 一転して海賊側が有利になった。健二は機関室の奥に隠れる事になり、正面を海賊3人に塞がれた。


「くそ、引き時だな! そこで転がってるバカ二人を運んで撤退するぞ!」


 意外な事に、イワンはこれ以上の侵攻を諦めたようだ。例えばノアを人質に取るとかすればまだエンジンの破壊は可能だろうに、何故?


 最後にイワンと目が合った。首領はニヤリ、と口をゆがめて笑う。


「お前、やるな。ウチに来ないか?」


 まさかのスカウト。


「ここ失業したら頼むわ」


「あっはっは。気に入ったぜ、若いのに度胸あるなあ。また会おうぜ!」


 いや、本気な訳ないだろ。変な海賊もいたもんだ。


 海賊たちが機関室を去った。健二は倒れたノアに駆け寄る。


「ノア! 大丈夫か?!」


 仰向けに倒れたままのノアが顔をこちらに向ける。苦しそうではあるが、話はできるらしい。


「はい、ちょっと肩を蹴られて痛いですが、折れたりはしてないみたいです」


 少しほっとする。


「無茶しやがって。打撲くらいで済んで良かったが、もうやるなよ? でも時間が稼げて爆弾は防げた。ありがとう」


「えへへ」


 力なく笑うノア。今のところ、宙から刀を出した事は頭から吹き飛んでるようだ。


ヨルゲンもだいぶ電撃から復活したようで、ふらふらしながらも近づいてきた。


「ノア、よくやった。治ったら好きな物おごってやるぞ」


「やった、褒められました」


「だが。後で説教だ。結果は偶然良かったが、死んでてもおかしくなかった」


 ノアは、「がーん」って顔をしている。ご愁傷様、たっぷり絞られとけ。


 船内の警報が消えた。船内にいつもの喧噪が戻って来る。

 健二は海賊が去った方を見やる……結局あいつら何しに来たんだ?




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