第六二話 果実
第六二話!
楽しんで!
魔人バルドの死体が灰となって崩れ去り、静寂が戻った極秘魔導書庫。
僕は自作のノートPCの画面に、教会の結晶端末からダウンロードされた膨大なシステムデータが緑色の文字となって流れ落ちるのを、食い入るように見つめていた。
「ハァ……ハァ……。一ノ瀬君、データの回収の進捗はどうだい?」
3歳の誠が、頭の包帯を小さな手で押さえながら、僕の画面を覗き込んできた。
「完璧だよ、誠。……いや、これは本当に凄まじいな。教会の魔導書はただのオカルトじゃない。前世のプログラミング言語に極めて近い、世界の理を書き換えるための『物理干渉コード』だ。これだけのログがあれば、僕たちの次のロジックは一気に跳ね上がる」
「それより一ノ瀬、見て。この書庫の奥の宝物庫、信じられない金属のインゴットが眠っているわよ」
サラが白衣の裾を揺らしながら、書庫の隠し扉の奥から一つの奇妙な鉱石を抱えて戻ってきた。
それは、周囲の光を吸収するように鈍く漆黒に輝く、見たこともない結晶金属だった。
「これ……教皇庁が極秘に精錬していた『対魔超硬合金』か!魔法のエネルギーを元素レベルで分散、吸収する物理特性を持っている。……最高じゃないか、サラ! 大破した装甲車のフロント装甲をこれに叩き直せば、教会のどんな高出力レーザーだって無効化できる!」
リビルドのチート能力がノイズで動かない今、このレア素材と手持ちの工具、そしてハッキングした術式コードの構造データこそが、僕たちの新しい武器になる。
「でも、問題はこれからだよ、一ノ瀬君。そのノートPCの解析ログ……一番最下層にある、この重号化された秘匿データ(ファイル)を見てごらん」
誠が小さな指先で、画面の最深部を指差した。
そこに表示されていたのは、教会の総本山である『中央教皇庁』がひた隠しにする、背筋が凍るような神の計画書だった。
「……『聖臨のプロトコル』? 何だ、このデータは……」
「人間の生体魔力を電池にして集め、世界のシステムそのものを根底から上書きする『超巨大魔導兵器』の起動計画データだよ。この北の砦の生体実験は、そのための単なる小規模なテスト(デバッグ)に過ぎなかったんだ」
誠の冷淡な言葉に、礼拝堂の空気が一気に凍りつく。
この世界をバグらせ、不条理なルールで支配している大元のバグ――『中央教皇庁』。彼らの目的は、僕たちの想像を遥かに超える、最悪のシステムエラー(世界の消去と再構築)だったのだ。
「……上等じゃない。世界の理をわがままに書き換えようとするバグ(教皇庁)なんて、私たちのロジックで根こそぎ全消去してあげるわ」
サラが不敵にフラスコを弄び、黒い髪をかき上げる。
「ああ。まずはこの書庫にあるデータと超硬合金を使って、大破したビークルを『第2形態』へ緊急修復する。魔法を物理で窒息させる、最高の重装甲車(移動要塞)にね」
チート能力が使えなくとも、僕たちの脳細胞は止まらない。 迫りくる世界規模の不条理を前に、最強の科学者トリオは、次なる戦場へと向けて、手に入れたデータの果実を貪欲に喰らい尽くし始めていた。
ご覧いただきありがとうございました。
(;゜Д゜) 【毒学サラの毒物大辞典 #09】 (○_○;)
毎度!第62話の本編では、魔人を全消去して教会の最高機密データと、信じられないレア素材を手に入れたわ。一ノ瀬のビークルをさらにヤバい移動要塞へアップデートする準備も万端ね。今回は、教皇庁の陰謀データにドン引きしているみんなのために、現実世界の歴史でも『世界のシステムを上書きしかけた』最悪の合成ガス【サリン(Sarin)】を紹介してあげるわ。
・代表的な物質の分子式:
サリン:C4H10FO2P(有機リン系神経ガス)
・恐ろしい性質:現実世界でも、戦争やテロの歴史に最悪の爪痕を残した究極の大量破壊兵器よ。揮発性がものすごく高くて、無色無臭だから、吸い込んだことすら気づかないうちに体内に入り込むの。人体に入ると、神経のスイッチを「ON」のまま固定させて暴走させるから、全身の筋肉が激しく痙攣して、わずか数分で確実に呼吸停止へ至るわ。目に見えない塵ほどの量で、何千人ものバイタルデータを一瞬で全消去できる悪魔の煙よ。
・サラの一言:中央教皇庁の連中がやろうとしている『聖臨のプロトコル』とやらは、まさに世界規模でこのサリンを撒き散らすような、狂気的なシステムエラー(上書き)ね。私たちの前世の知識をそんな不条理な大量虐殺のために使うなんて、毒学者の私に対する最大の侮辱だわ。次、中央の軍勢が私たちの前に現れたら、このC4H10FO2Pのキレ味を、彼らの脳細胞に直接デバッグして教えてあげるわ!
次回もお楽しみに!




