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第六一話 書庫のハッキング

第六一話!

楽しんで!

 ドゴォォォォォォォォォンッ!!!

 

 鉄門の向こう側から叩きつけられる、魔人バルドの狂暴な衝撃波。僕が物理的に噛ませた鉄パイプがひしゃげ、ボルトが一本、また一本と悲鳴を上げて弾け飛んでいく。門が破られるまでのタイムリミットは、持ってあと数分だ。

 リビルドのチート画面は、相変わらずノイズに塗れて立ち上がらない。


 「一ノ瀬君、焦るな。チートが動かないなら、前世の僕たちの脳細胞を使えばいいだけの話さ」


 3歳の誠が、血の滲む額を拭いもせず、薄暗い書庫の祭壇に置かれた『教会の魔導端末(結晶石)』へと僕のノートPCを直接、有線ケーブルで繋ぎ込んだ。

 超常の力ではなく、僕が前世から持ち込んだ、純粋なIT技術による物理ハッキング。


 「……よし、教会のセキュリティーログを突破したよ。一ノ瀬君、サラ、画面を見てごらん」


  僕のノートPCの液晶画面に、緑色の文字列――魔人バルドの生体術式データが、滝のようにスクロールしていく。

 それを見た誠の冷淡な瞳が、怪しく輝いた。


 「やっぱりね。奴の鉄以上の超硬度は、喰らった生体魔力を常に皮膚細胞へ循環させることで維持されている。……だが、どれだけ肉体を強化しようが、生物としての『急所』のログまでは書き換えられていない」


 「急所ってどこよ、誠。外側は全部バリバリに硬かったわよ?」


  サラがフラスコを握り締めながら尋ねると、誠はいつもの生意気な笑みを浮かべた。


 「延髄だよ。首の後ろの、脳と脊髄を繋ぐ神経の束だ。あの部位だけは、魔力を循環させるための中継データになっていて、肉体の硬化が一切効いていない」


 「なるほどね。……それなら、私の出番じゃない」


  サラが懐から、怪しく緑色に発光する一筋の結晶液を取り出した。


 「前世の私が愛した植物毒の女王――リシンすら凌駕する、即効性の超強力な神経毒『テトロドトキシン』よ。これをあの魔人の延髄に直接叩き込めば、脳からの電気信号がズタズタに引き裂かれて、指一本動かせずにシステムダウンするわ」


  バガァァァァァァァァァンッ!!!


  凄まじい破壊音とともに、ついに重厚な鉄門がへし折れ、砂塵と共に魔人バルドが書庫の中へと姿を現した。


 『……見つけたぞ、鼠ども。逃げ場のない書庫の中で、仲良く全消去されるがいい!』


 「バルド! 消去されるのは君の方だよ……っ!」


  僕はハッキング画面を閉じ、ノートPCの横に直結した『即席の高圧電磁スプレー(大破したビークルのバッテリーとノズルを組み替えた手作りのガラクタ)』を構えた。


 「サラ、誠! これが僕たちの、物理法則のゴリ押しだ!」


  バルドが拳を振り上げた瞬間、僕はトリガーを引いた。


 バチィィィィンッ!!!と、ビークルのバッテリーから放たれた高圧電流がノズルを弾き、サラの特製テトロドトキシン液が、音速を超える速度で一本の針のような液体レーザーとなって射出された。 

 狙いは完璧。魔人の振り上げた巨腕の隙間を縫い、首の後ろ――『延髄』の急所へと、緑色の液体が正確に突き刺さった。


 『……ガ、ハ……ッ!? な、に、が……っ』 


 バルドの動きが、完全にピタリとフリーズした。


 脳からの「殴れ」という電気信号が、サラの神経毒によって完全に遮断されたのだ。巨体がぐらりと揺れ、何が起きたのかすら理解できない絶望の表情のまま、ドガァァァァンと石畳の上へ崩れ落ち、二度と動かなくなった。


 「フン、神の加護も魔人の肉体も、私の化学反応の前にはただの有機物の塊よ」


 サラが黒い髪をかき上げ、勝利の笑みを浮かべる。


 「ふぅ……完璧なデバッグだね。一ノ瀬君、サラ、お疲れ様」


 誠がフラスコを指先で回す。

 チート能力が動かなくとも、僕たち3人の脳細胞が合わされば、どんな絶望だって全消去できる。

 僕は沈黙した魔人の死体を見下ろしながら、ハッキングに成功した教会の極秘データを、自作のノートPCへとすべて回収し始めた。

ご覧いただきありがとうございました。


(;゜Д゜) 【毒学サラの毒物大辞典 #08】 (○_○;)


毎度!第61話の本編では、チート能力(リビルド)が封じられた大ピンチを、私の最高傑作の毒で大逆転して全消去してあげたわ。今回、魔人の剥き出しの急所(延髄)に一ノ瀬の手作りスプレーで撃ち込んで、一瞬で完全フリーズさせたのが、現実世界の海に潜む最強クラスの神経毒【テトロドトキシン(Tetrodotoxin)】よ。


・代表的な物質の分子式:

テトロドトキシン:C11H17N3O8


・恐ろしい性質:前世の私を殺した『リシン』が細胞の工場を壊す毒なら、このテトロドトキシンは細胞のナトリウムチャネルっていう電気信号のゲートを外側からガッチリと「塞いでロック」しちゃう毒よ。どうなると思う? 脳からの「動け」っていう命令(電気信号)が一切伝わらなくなるから、指一本、舌一枚すら物理的に動かせなくなるわ。恐ろしいのは、脳の意識だけは最後まで完全にハッキリしたまま、呼吸に必要な筋肉が麻痺して、静かに大窒息(デバッグ)へ至るのよ。


・サラの一言:現実世界だとフグの毒として有名ね。どれだけ魔人化して鉄以上の肉体になろうが、神経を伝わる電気信号のロジックが生物である以上、この毒(C11H17N3O8)を中枢神経(延髄)に直接流し込まれたら、絶対に抗えないのよ。チートに頼らず、一ノ瀬のIT知識と誠の医学データ、長生き私の毒のコンボで勝つなんて、私たち最高にキレ味抜群の3人組じゃない?スベスベマンジュウガニ!


次回もお楽しみに!

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