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第六十話 破滅のシステムログ

第六十話!

たまってきたしそろそろ解放しようかなぁ、

まぁ、楽しんで!

 みしり、とサソリの超硬合金で作られたルーフが歪み、悲鳴を上げる。

 大破して横転した防弾キャビンのフロントガラスの破片を踏み越えて、魔人バルドの巨大な影が、僕たちの視界を完全に遮った。


『……終わりだ、異端のバグども。神の秩序ログを乱した罰を受けよ』


「くそっ……動け、動いてくれ……っ!」


 僕は火花を散らすダッシュボードに必死に手を伸ばしたが、いつもなら目の前に現れるはずの電子工作のリビルド画面は、激しいノイズでかき消され、呼び出すことすらできない。チートと呼ばれた僕の科学の力が、魔人の物理的な暴力の前に完全に封じ込められていた。


「一ノ瀬君、無駄だ。……奴が拳を振り上げる。バイタルから計算して、直撃すれば僕たちの肉体は確実に消去(即死)されるよ」


 後部座席で額から血を流しながら、3歳の誠が冷淡に、だがどこか忌々しそうに告げる。

 バルドの黒い巨腕が、容赦なく僕たちを引き潰さんと振り下ろされた。


「させないわよ……っ!」


 その瞬間、助手席のサラが、割れたガラスの隙間から車外へ向けて、懐から取り出したフラスコを力任せに投げつけた。

 バルドの足元で砕け散ったフラスコから、一瞬にして視界をゼロにする凄まじい『白い濃霧』が、爆発的な勢いで吹き荒れる。


『な、に……!? ただの煙幕か……いや、これは……っ!?』


「ただの煙じゃないわ! 前世の私が開発した、網膜と粘膜を直接灼く、超高濃度の塩素ガスよ!」 サラが白衣の袖で僕と誠の鼻と口を覆いながら叫ぶ。

 塩素の激しい刺激に、さしもの魔人バルドも激しく咳き込み、その動きを一瞬だけ完全に停止させた。


「一ノ瀬、誠! 今よ、走りなさい!」


「うん……っ! 誠、捕まって!」


 僕は3歳の誠を抱き上げ、サラの腕を引いて、大破した装甲車から這い出た。

 視界を埋め尽くす白いガスの中を、誠の誘導に従って、大礼拝堂の最奥へと全力で疾走する。


『……ガハッ! 忌々しい小細工を……っ! 逃がすかぁぁぁ!!!』


 背後から、大気を引き裂くようなバルドの咆哮と、黒い翼が風を切る絶望的な音が近づいてくる。

 辿り着いたのは、砦の最深部に隠されていた、教会の『極秘魔導書庫』の巨大な鉄の扉だった。


「一ノ瀬君、早く中へ! その門を閉めるんだ!」


 3人を中に滑り込ませると同時に、僕は重厚な鉄門を力任せに引っ張って閉めた。

 リビルドの溶接チートは使えない。僕は背負っていた工具袋からむき出しの頑丈なボルトと、装甲車から引きちぎってきた鉄パイプを剥き出しの落としかんの隙間に力任せに叩き込み、物理的に扉をロックした。


 ドゴォォォォォォォォォンッ!!!


 直後、鉄門の向こう側から、空間が歪むほどの凄まじい衝撃波が叩きつけられた。バリバリと音を立てて歪む重厚な鉄。僕の手作りのパイプが激しく軋むが、何とかその一撃に耐え切った。


『……籠城のつもりか、鼠ども! その門が何分持つか、外で絶望しながら数えるがいい!』


 鉄門の向こうから響く、魔人の冷酷な声。 崩れ落ちるように床に座り込んだ僕たちは、激しく息を切らしながら、薄暗い魔導書庫の中を見渡した。


「ハァ……、ハァ……。何とか、ログは繋がったね。……一ノ瀬君、サラ、怪我は?」


「僕は大丈夫……。でも、リビルドは動かないし、完全に閉じ込められちゃった……」


「フン、私の前世の知識を舐めないで。……でも、私の塩素ガスじゃ、あの魔人を少し足止めするのが限界だったわね」


 サラが悔しそうに唇を噛む。

 外からの衝撃音が、ドシン、ドシンと死のカウントダウンのように書庫の中に響き渡る。

 鉄門が破られるまでのタイムリミットは、持ってあと数十分。僕たちは傷だらけの身体のまま、この絶望をひっくり返すための『反撃のデータ』を求めて、目の前に広がる膨大な魔導書の山へと視線を向けた。

ご覧いただきありがとうございました。


(;゜Д゜)【毒学サラの毒物大辞典 #07】 (○_○;)


毎度!第60話の本編では、魔人バルドに追いつめられて人生最大のピンチを迎えたけれど、私の機転で放った最強の足止めガス【塩素(Chlorine)】を紹介してあげるわ。


・代表的な物質の分子式:

塩素ガス:Cl2


・恐ろしい性質:現実世界でも、工業用に広く使われているけど、気体として吸い込むと超一級の「化学兵器」に化けるヤバい物質よ。水分に触れると強い酸(塩酸)に変化する性質があるから、吸い込んだ人間の目や喉、肺の粘膜を分子レベルで直接バリバリに灼き溶かすの。ほんのわずかでも吸い込んだら、激しい咳と呼吸困難を起こして、最悪の場合は肺水腫で窒息死へ至る恐ろしいガスよ。


・サラの一言:現実世界だと、お風呂の洗剤を「混ぜるな危険」って書いてあるのは、この塩素ガス(Cl2)が発生しちゃうからね。魔人のバルドは肉体が鉄以上の硬度だったけど、呼吸をするための『粘膜』だけは剥き出しの有機物だったから、このガスが完璧に効いてフリーズしてくれたわけ。一ノ瀬がチート(リビルド)を使えない中、手作業で必死にパイプを噛ませて門を閉めたのはちょっと見直したわ。外で門を叩く音がうるさいけれど、次の61話でこの書庫のデータをハッキングして、あのバグ魔人を内側から完全に消去する極上の反撃処方箋を作ってあげるから、首を洗って待っていなさい!


次回もお楽しみに!

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