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第五十八話 囚われのデータ

第五十八話!

楽しんで!


 アコニチンガスによって完全に静まり返った『北の砦』の第1層。

 僕たちは倒れ伏した聖騎士団の山を顧みず、科学の装甲車(移動ビークル)をさらに砦の地下深く

――頑強な鉄格子が並ぶ牢獄エリアへと爆進させた。


「一ノ瀬、あそこよ! 奥の巨大な牢の中に村人たちがいるわ!」


 助手席のサラが、フロントガラスの先を指差す。

 サソリの超硬合金で作られたバンパーで牢の鉄格子の鍵を強引にへし折り、キャビンから飛び出した僕たちは、ぐったりと床に倒れている村人たちへと駆け寄った。


「みんな、無事……っ、いや、これは普通に気絶しているわけじゃない!?」


 救い出した村人たちの身体を見て、僕は息を呑んだ。

 村人たちの首元や腕の皮膚の表面に、まるで精密機械の基盤(回路)のような、不気味に発光する青い術式が血管のようにびっしりと浮かび上がっていたのだ。


「触るな、一ノ瀬君。不用意に外部からエネルギーを加えるのは危険だ」


 後部座席から降りてきた3歳の誠が、冷淡な瞳で村人の一人を見つめ、小さな手でその手首の脈を測り始めた。 その瞬間、誠の脳内に前世の天才医師としての膨大なデータが駆け巡る。


「……なるほどね。心拍数は1分間に180を超えている。体温は41度以上の異常高熱。だが、不思議なことに呼吸は極めて穏やかで、細胞の破壊チアノーゼも起きていない」


「どういうこと、誠? どんなバグが起きてるのよ」


 サラが眉をひそめて尋ねると、誠はいつもの生意気な笑みを浮かべた。


「医学的に言えば、彼らの全身の細胞の代謝効率が、首元の術式によって強制的に数倍へと書き換えられている(オーバークロック)。おそらく、人間の肉体を電池の代わりにして、強大な魔力を抽出するための生体実験だ」


 生体電池。それが、教会が村人たちを攫った本当の目的だったのだ。


「教皇庁の連中め、人間のバイタルデータをなんだと思っているんだ……。このままだと数日以内に村人たちの肉体は限界を迎え、文字通り燃え尽きてシステムダウンする」


解毒薬アンチドートは効かないの?」


「これはエラーじゃない。純粋な過負荷オーバーロードだ。……僕が持っている医療知識で脳と心臓への負荷を強制的に抑え込みながら、一ノ瀬君のビークルの電力を使って、この術式回路のデータを一時的に妨害して眠らせる必要がある」


 誠はすぐさま僕の装甲車のバッテリーから配線を引き抜き、村人たちの首元の術式へと繋ぎ替えた。 バチバチと青い火花が散り、村人たちの表情から苦悶の血色が消え、深い昏睡状態へとバイタルが安定していく。


「ふぅ……。とりあえず、これで数時間は時間が稼げる。……だが、術式そのものを完全にデバッグ(消去)するには、この砦のさらに奥にある、大元の『制御データ』を叩くしかないね」


「待ちなさい。……上から、何か来るわよ」


 サラの言葉と同時に、地下牢の天井が凄まじい地鳴りを立てて震え始めた。

 毒ガスの届かなかった砦の最深部、玉座の間から、この生体実験を統括する『砦の主』が、僕たちの存在に気づいて動き出したのだ。


「上等だよ。……村人たちのデータを完全に救うために、一気に最深部までデバッグしに行こう!」


 僕たちは昏睡させた村人たちをビークルの後部座席へと慎重に収容し、再びアクセルレバーを強く握り直した。

ご覧いただきありがとうございました。


(;゜Д゜) 【毒学サラの毒物大辞典 #05】 (○_○;)


毎度!第58話の本編では誠が生意気にも「細胞の暴走オーバークロック」なんて医学解説をしていたけれど、今回は私の領分である毒学の観点から、人間の体温を異常暴走させてあの世に送る最凶の化学物質【ジニトロフェノール(DNP)】を紹介してあげるわ。


・代表的な物質の分子式:

2,4-ジニトロフェノール:C6H4N2O5


・恐ろしい性質:この化学物質の恐ろしいところは、細胞が生きるためのエネルギー(ATP)を作る仕組みを完全にバグらせちゃうところよ。通常、人間はご飯を食べてそれをエネルギーに変換するんだけど、このDNPが体内に入ると、変換されるはずのエネルギーがすべて「純粋な熱」として放出されちゃうの。

どうなると思う? 運動もしていないのに細胞が勝手にフル稼働して、自分の内側から43度を超える凄まじい高熱が発生して、文字通り内臓が焼け焦げてシステムダウン(即死)するわ。


・サラの一言:現実世界だと、大昔に海外で「飲むだけで痩せる究極のダイエット薬」として裏で流行って、何人も内臓を灼いて死なせたっていう最悪の歴史を持つ毒(C6H4N2O5)よ。教会の連中が村人たちにやっていた生体実験は、まさにこのDNPの毒性を魔術で再現したようなものね。もし私を怒らせたら、この結晶を直接口に放り込んで、自分の熱で自滅させてあげようかしら。


次回もお楽しみに!

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