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第五十六話(番外編) サラの最期

第五十六話!

久しぶりに更新、さぼってごめんなさい。

楽しんで!

 薄暗い研究室のなかに、カチカチと狂ったように響く秒針の音。


 前世の私――天才化学者と呼ばれた二十七歳の私は、真っ白な白衣の胸元を狂おしく掻きむしりながら、冷たい床へと崩れ落ちていた。


「ハッ、ガハッ……!嘘、でしょ……。防護服の隙間から、入ったの……っ」


 視界が激しく歪み、目の前が真っ赤に染まっていく。


 目の前の実験机の上には、私が人生のすべてを賭けて海外の秘境から取り寄せ、ついに単離・精製に成功した、血のように赤い結晶――植物性の猛毒『リシン』が、息をのむほど美しく輝いている。


 完璧に対策をしていたはずだった。


 ほんの一粒、目に見えないほどの粉末が空気中に舞い、私の目か、あるいは小さな傷口から体内に入り込んでしまったのだ。


「身体が、熱い……。内臓が、灼けるように……っ」


 肺と胃の腑がズタズタに破壊されていくような、凄まじい激痛。

 自分の持つ専門知識が、今の私の体内で起きている絶望的な状況を、冷酷なまでに秒単位で教えてくる。

 細胞のなかのタンパク質合成が、この毒によって今、完全に止められているのだ。身体の全細胞が、一斉に機能を失って壊死していく。あと数分で、私は確実に心停止を迎える。


「嫌よ……。私は、まだ、誰も到達していない、毒の深淵を……」


 必死に手を伸ばし、デスクの上の解毒薬のボトルを掴もうとした。

 だが、脳からの命令は、すでに破壊されかけた神経を伝わらない。


 ガシャァン!と、虚しく音を立ててフラスコが床で砕け散る。


 皮肉なものね。

 世界を驚かせるはずの私の最高傑作が、最初に奪ったのが、制作者である私自身の命だなんて。


「……あはは、最高に、恐ろしくて、綺麗じゃない……」


 薄れていく意識のなかで、私は自嘲気味に笑った。

 冷え切っていく身体とは裏腹に、私の脳細胞だけは、最期までその圧倒的な毒の破壊力に狂喜していた。

 次に生まれ変わるチャンスがあるなら――今度こそ、私は完璧に毒を支配して、世界をひれ伏させてやる。



 視界が完全に真っ暗になり、私の前世の意識は、そこで深い闇へと沈んでいった。

ご覧いただきありがとうございました。


(;゜Д゜) 【毒学サラの毒物大辞典 #03】 (○_○;)


毎度!今回は私の「前世の死因」について、特別に解説してあげるわ。


私が前世で命を落とす原因になったのが、トウゴマという植物の種から抽出される超強力な植物毒『リシン(Ricin)』よ。


・代表的な物質の分子式:リシン:分子量が約6万5000の巨大なタンパク質・恐ろしい性質:この毒の恐ろしいところは、細胞のなかにある「リボソーム」っていう、生きるために必要なタンパク質を作る工場をピンポイントで徹底的に破壊しちゃうところよ。

たった一分子が細胞に入り込んだだけで、その細胞の工場を完全に停止させて、細胞ごと死滅させるの。ほんの数ミリグラム、それこそ目に見えない塵ほどの量を吸い込んだり傷口に入れたりするだけで、人間なんて簡単に数日で内臓出血を起こして逝っちゃうわ。


・サラの一言:前世の私は、この結晶を精製している最中に、ほんの微量を体内に取り込んじゃったの。医学担当の誠なら「初歩的なミスだ」って呆れるでしょうね。でも、あの時の細胞が破壊されていく圧倒的な絶望感と、毒が持つ完璧な美しさを知っているからこそ、今の私はこの異世界で、誰よりも恐ろしい「毒使い」として君臨できるのよ。


次回もお楽しみに!

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