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第五十五話 鋼鉄の巡航(スティール・クルーズ)

第五十五話

何話ぐらいで終わりにしようかな。

ま、楽しんで!

 ガタガタと激しく砂煙を上げる砂漠の荒野。

 だが、僕たちが乗り込んだ蒸気駆動式の『科学の装甲車(移動ビークル)』の車内は、驚くほど揺れていなかった。僕が夜を徹して叩き出した6輪独立懸架サスペンションと、サソリの耐圧弁を利用した油圧ショックアブソーバーが、路面の凹凸という『物理的なノイズ』を完璧に相殺しているからだ。


「……フン。重心の計算とストロークの調整だけは、1ミリの狂いもないね。一ノ瀬君の空っぽの脳みそも、徹夜すれば少しは実用的なトルクが出るみたいだ。僕のデリケートな3歳児の筋繊維に、乳酸の『に』の字も溜まりそうにないよ」


 後部座席で、シンが不満そうに腕を組みながら、深くシートに腰掛けていた。まだ僕の軽率な発言を「しばらく許してくれない」という冷淡な態度だが、僕が作ったハードウェアの完成度自体には文句のつけようがないらしい。


「だろ? 誠に頭を切除されたくないからね。これなら君が車内で薬品を調合していても、1滴もこぼさずに目的地まで巡航できるよ」


 僕がハンドルを握りながら苦笑いしていると、助手席に座る10歳のサラが、どこからかパッと鮮やかな紫色の花がついた植物を取り出して見せた。


「ねぇ一ノ瀬。これから向かう教会の『北の砦』だけど、重装歩兵の鎧はあなたの水速射砲で斬れるとして、中の魔導師たちを一網打尽にするための『新しい牙』の仕込みをしたいの。……これ、使えるかしら?」


 その特徴的な紫色の花、あるいはサラの口から出た明確な主成分の分子式に、僕は目を見開いた。


「それ……アコニチン(Aconitine)か! あ、サラも知ってたんだね、トリカブトがこっちの世界にもあるの。前世の研究所で嫌というほど精製した、あの『C34H47NO11』の化学式と全く同じ成分だ。まさかこの異世界で、あのキンポウゲ科の猛毒植物に再会できるなんて思わなかったよ」


「ええ、そうね。こっちの砂漠の裏手にも普通に生えていたわよ。前世のロジックがそのまま通用するんだから、最高に扱いやすくて面白いじゃない」


 サラはクスクスと、いつもの少し不敵な笑みを浮かべてフラスコを弄ぶ。


「よし、サラ。そのアコニチンをベースに、誠の医学知識で最も効果的な『神経毒ガス』の処方箋を組んでくれ。僕は装甲車の排気熱を利用した、広範囲噴霧ノズル(スプレーシステム)をダッシュボードの裏で直結させる!」


「フン、その短い3歳の指先をフル回転させてあげるよ。……零、ノズルの口径は0.2ミリ、気化圧力は3気圧に固定してよね」


 誠が冷たい声で、けれど完璧な数値を指定してくる。

 8歳、3歳、そして10歳。

 魔法のチートを捨て、純粋な科学のロジックだけで繋がった僕たちのビークルは、夕闇の砂漠の向こう、村人たちが囚われている強固な要塞――『北の砦』の巨大な影をその視界に捉えた。

ご覧いただきありがとうございました。


(;゜Д゜) 【毒学サラの毒物大辞典 #02】 (○_○;)


毎度、本編に登場した「毒や薬品」の恐ろしい性質を、私が科学的に解説するコーナーよ。

今回、次なる牙の仕込みとして私が車内で取り出したのは、みんなもよく知っている世界三大猛毒植物の一つ、【トリカブト(Aconitum)】ね。


アコニチン:C34H47NO11


恐ろしい性質:人体に入ると、細胞の「ナトリウムチャネル」という微細なゲートを物理的に『開きっぱなし』にするの。どうなると思う? ナトリウムイオンが細胞内に流入し続けて、心臓や神経の電気信号が完全にショートするわ。

その結果、呼吸困難、重度の不整脈、あるいは意識を保ったまま、数分から数時間で確実に心停止へ至るのよ。


・サラの一言:本編では、一ノ瀬(零)の作った装甲車の排気熱を利用して、砦の通気口からこのアコニチンをガス化して送り込む予定よ。どんな強力な魔導師でも、細胞のゲート(C34H47NO11)を内側から狂わされたら、術式を編む前にシステムダウン(絶命)するしかないからね。


それにしても、一ノ瀬ってば植物そのものを見せてるのに、開口一番で「アコニチンか!」なんて物質名で呼ぶんだから笑えちゃうわよね。相変わらず理系脳が頭打ちしてて可愛いじゃない。


次回もお楽しみに!

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