第五十二話 三位一体の牙
第五十二話!
楽しんで!
「一ノ瀬(零)、佐伯(誠)。ぼさっとしないで、手を動かしなさい!」
サラの鋭い叱咤が、複製された研究室の中に響き渡る。
地平線の向こうから教会の『聖騎士団』の本隊が近づいているというタイムリミットの中、僕たちの製造ライン(プラント)は、前世の研究所さながらの熱気に包まれていた。
【再構築】という魔法を失った僕の八歳の細い腕では、鉄を叩く速度にも、ボルトを締める精度にも限界がある。だが、サラがどこからかパッと持ってきてくれた高純度の試薬と、誠の精密な作業、そしてサラの毒学の知恵が合わさることで、兵器の製造効率は計算上、三倍以上に跳ね上がっていた。
「誠、そっちの抽出液の調合はどうだい」
「完璧だよ、零。……でも、ここから先は僕の医学知識だけじゃ安定性が足りない。揮発性が高すぎて、ノズルに詰まる危険性がある」
三歳の誠が、不気味に沸騰する緑色の液体
――魔法のエネルギー結合を物理的に解除する『魔力腐食薬』のフラスコを見つめて眉をひそめる。
そこに、十歳のサラがトングで怪しげな鉱物を放り込みながら、不敵に笑った。
「だったら、そこへ有機リン系の化合物をブレンドして、分子の構造をあえてルーズにさせなさい。そうすれば揮発性が抑えられて、相手の魔法障壁に触れた瞬間にだけ『爆発的な化学分解』を起こす、最高な気化毒に進化するわよ」
「……いいね、サラ。医学(僕)と毒学(君)の融合だ。これならどんな高密度のバリアも一瞬で溶かせる」
誠の瞳に、冷徹な知性の光が灯る。
これが『第二の牙(魔力腐食薬)』の完全なる完成形態だ。
僕はその間に、機械サソリの耐圧シリンダーを組み換え、広範囲に可燃性粉塵を効率よく噴霧するためのスプレーガンを物理的に叩き出していた。
「サラ、この散布用の燃料に、瞬間的な燃焼速度を上げるための触媒が欲しいんだけど」
「はい、奥の棚にあったこれを使って。燃焼速度を十六倍に跳ね上げる触媒よ」
サラは迷いのない足取りでラボの奥から、僕が求めていた通りの最高品質の燃料瓶を抱えて戻ってきた。
「完璧だよ、サラ。……誠、これであの『大嫌いな魔法』を窒息させる準備が整った」
砂漠の特定の微細砂と、サラの触媒燃料を混ぜ合わせる。
障壁を展開した敵の周囲にこれを散布して点火すれば、数千度の超高熱とともに周囲の酸素をすべて奪い去り、真空状態で敵の肺胞を内側から破裂させる――『第三の牙・粉塵爆焼弾』。
リビルドという省略がなくても、工学、医学、毒学のロジックを積み上げれば、神の奇跡(魔法)すら上書きできる。
僕たちが泥と油にまみれ、夜を徹して三つの牙をすべて完成させた、まさにその時だった。
――ズゥゥゥゥゥゥン……、ズゥゥゥゥゥゥン……。
ラボの外から、砂漠の地鳴りのような、重々しい金属の足音が響き渡った。
教会の聖騎士団・本隊。 前回の五十人を遥かに超える、重装歩兵や魔導師を含む数百の軍勢が、ついにこの北の村へと牙を剥いて押し寄せてきたのだ。
「……チート(魔法)を失った僕たちを、ただの子供だと侮った報いだ」
僕は超高圧水速射砲を構え、冷たい青い瞳を外へと向けた。
「ふふ、デバッグの実験台としては、これ以上ないサンプル数ね」
サラが不敵にフラスコを弄ぶ。
「最高の処方箋を、たっぷり味あわせてあげようか」
三歳の誠が、静かに笑った。
ご覧いただきありがとうございました。
第一の牙は、一酸化水素(水です)。
第二の牙は、発煙硫酸(H₂S₂O₇)+サリン系の有機リン化合物。
第三の牙は、微細化二酸化ケイ素(SiO₂)+高揮発性炭化水素燃料 + 過塩素酸アンモニウム(燃焼触媒)です。
全部名前かっこいいよね!




