第五十話 不自然な複製品
第五十話!
楽しんで!
二人の「科学の牙」によって右肩を完全に解体された刺客は、自らの血で汚れた砂漠の砂へと沈み、やがて粒子となって完全に消去された。
激しい化学反応の煙が夜風にさらわれていく中、僕(零)と誠は、お母さんにもらった厚手の毛布を再び羽織り、歩みを進めた。
目指すは、地平線の向こうに見える、僕の第二の故郷――『北の村』。
【再構築】という魔法を失った僕の身体は、砂丘を一つ越えるたびに鉛のように重くなっていったが、一度死の淵から完全に蘇った三歳の誠が、その小さな手で僕の服の裾をしっかりと握ってくれている。その確かな存在が、僕の足を前へと動かしていた。
「……着いたよ、誠。あそこが、僕たちが世界を再構成するための拠点だ」
砂嵐が止み、月明かりが穏やかに照らし出したのは、僕が過ごした、あの懐かしい北の村の景色だった。
ここに僕が前世の記憶を頼りに隠しておいた実験器具や資材――次の『牙』を精製するために誠に頼まれていた特殊な試薬や、高精度なガラス器具の類を回収すれば、すぐにでも量産体制に入れる。僕たちは村の裏手にある、誰にも見つからないように偽装しておいた僕たちの「研究室」へと急いだ。
「誠、僕が頼んでいたものはこの地下の――」
言いかけて、僕の言葉が凍りついた。隣を歩いていた三歳の誠も、息を呑んだ。
「……バカな。零、これ、はどういうことだ……?」
僕たちの目の前。僕が設計し、前世の工学知識のすべてを詰め込んで建てた、あの頑強で無機質な僕たちの「研究室」。そのすぐ隣に、まったく同じ形状、同じ材質、同じ構造をした『瓜二つの家』が、忽然と建っていたのだ。
建物の外壁に使われているコンクリートの配合比も、ドアの横に設置された機械式の鍵も、一ミクロンの狂いもなく完全にコピーされ、二棟並んで月明かりに照らされている。
驚愕する僕たちの前で、その『複製された家』の扉が、静かに開いた。 中から現れたのは、僕たちと年齢の変わらない、十歳ほどの見慣れない少女だった。
黒い、夜の闇を溶かしたような長い髪。この世界の住人特有の粗末な麻服を着た、どこからどう見ても「ただの普通の女の子」が、手元にあった古びた本を静かに閉じ、ゆっくりと顔を上げた。
「……君は、一体何者なんだ……?」
八歳の僕の問いかけに、十歳の少女は、感情の読めない底なしの黒い瞳で僕たちを見つめ返した。彼女はゆっくりと複製ラボから一歩を踏み出す。
そして、ポツリと、前世のあの懐かしい「口癖」を漏らしたのだ。
「……まったく、不条理な質量保存則ね」
その一言、そして引力に逆らうように彼女が髪をかき上げる指先の角度。
ドクン、と。
僕と誠の心臓が、同時に跳ね上がった。脳内メモリの最も深い場所にしまわれていた、前世の研究所の記憶が、一瞬で完璧にフラッシュバックする。
「お前……まさか、一ノ瀬(零)と……佐伯(誠)……!?」
少女の黒い瞳が驚愕に揺れ、持っていた本を地面に落とした。僕たちもまた、一瞬でその正体に気づき、名前を叫んでいた。
そう、自分たちの研究室を完全にコピーして佇む彼女は――かつて前世の研究所で、僕たちと一緒に机を並べ、世界の真理を追い求めていた、たった一人の『天才毒学者』の親友だったのだ。
「嘘だろ……なんでお前がここに……!」
「こっちのセリフよ! なんでそんな幼児の姿になってるのよ!」
八歳、三歳、そこで突如再会した十歳。 謎の複製ラボの真ん中で、僕たちは一瞬にして、あの頃の『共同研究者』へと戻っていた。
世界で最も危険な『科学者たちの三人旅』が、今、圧倒的なスピードで幕を開けた!
ご覧いただきありがとうございました。
名前どうしようかな、僕毒好きなんだよね毒の名前を由来にする?




