第四十九話 論理の逆襲
第四十九話!
「……バカな。心臓を貫かれ、魔素の循環も止まったはずの人間が、なぜ……」
暗闇の中から現れた人外の刺客
――漆黒の法衣を纏った魔王の眷属が、初めてその冷酷な声を震わせた。そいつの手にある魔力の槍は、確かに誠の胸を貫通していた。この世界のあらゆる『回復魔法』でも、魔袋と心臓を同時に破壊された幼児を救う術など存在しない。
それがこの世界の絶対的なルール(バグ)だからだ。
「この世界の奇跡じゃ、僕たちを消去することはできないよ」
三歳になったばかりの誠が、お母さんにもらった毛布の血を小さな手で払いながら、不敵に笑う。細胞レベルの超高速新生によって、その小さな肉体はすでに完全な全快状態へと引き戻されていた。
「零、相手の構造解析は?」
「終わってるよ。……あいつ、足元から砂漠の熱源を吸い上げて、魔力の槍の『内圧』を高めている。……さっきの機械サソリと同じ、単純なエネルギー伝導システム(熱力学)だ」
八歳の僕は、重たい『第一の牙――超高圧水速射砲』の銃身を、刺客の胸元へと真っ直ぐに照準した。リビルドというチートはもう僕の手にはない。だが、僕の指先には、サソリの超硬合金を自分で叩き直した、確かな『鉄の感触』が宿っていた。
「死ね、欠陥品の子供らが!」
刺客が右手を振り上げると、再び大気が静止し、無数の黒紫色の魔力槍が虚空に生成される。 だが、僕と誠の脳内メモリには、すでにその攻撃の「初速」も「軌道」も計算され尽くしていた。
「誠、『第二の牙』の試薬をノズルに注入して!」
「了解……ッ!」 誠が三歳の短い腕を伸ばし、フラスコに残っていた怪しげな緑色の液体
――魔法のエネルギー結合を物理的に溶かす
『魔力腐食薬』を、水速射砲の給水タンクへと一気に流し込んだ。
――キィィィィィィィィィン!!
ノズル径0.1ミリから放たれたのは、ただの高圧水流ではない。
『物理の牙(数千気圧の切断力)』と、魔法そのものを化学的に解体する『化学の牙』が融合した、究極のアンチ・マジック溶液の刃だ。
ズバァァァァァァァァンッ!!!
刺客が放った魔力の槍の大群は、僕たちの放った音速の水の刃に触れた瞬間、爆発することさえ許されず、まるで塩の塊のように虚しく、ドロドロに溶けて砂へと還っていった。
「な、に……!? 私の術式が、消滅して――」
「術式じゃない。ただのエネルギーの結合エラーだよ。……次、圧力のデバッグ、完了」
僕はポンプのレバーを引き、サソリの耐圧シリンダーの中の蒸気圧を瞬間的に最大値まで引き上げた。水の体積は千六百倍。逃げ場を失った超高圧の分子の塊が、今度は刺客の『本体』へと一直線に射出される。
ドォォォォォォォォォン!!
水の刃は、刺客が慌てて展開した高密度の魔力障壁を、お湯で氷を溶かすように一瞬で切り裂き、その漆黒の法衣ごと、右肩の肉を滑らかに「切断」した。
「グ、ガ、アアアァァァッ!?」
砂漠に、人外の黒い血が飛び散る。
魔法を信奉し、自分たちを神の使いだと傲慢に信じていた刺客が、ただの『水と薬品の混合物』によって、その肉体を物理的に解体されていく。
「……医学的に見て、その右肩の損傷は止血魔法でも塞げないよ。僕の酸が、君の細胞の凝固因子をすべて破壊(中和)しているからね」
三歳の医学者が、冷徹な瞳でレンズを覗き込みながら、トドメの宣告を下す。
魔法を失い、ただの八歳と三歳に戻った僕たち。
けれど、その小さな二人の影は、燃え盛る村の焼け跡で、世界を恐怖させる『科学の巨人』のように佇んでいた。
ご覧いただきありがとうございました。
僕は、よく『進撃の巨人』を見ます。
好きです。(5週目)




