第四十八話 人間の作り方
第四十八話!
もうすぐ50話ですね!
楽しんで!
生々しい肉の破壊音とともに、三歳のシンの身体が砂の上に崩れ落ちる。
胸から溢れ出す大量の鮮血が、お母さんにもらった厚手の毛布を瞬く間に汚していく。
(心停止まで、あと何秒だ? 脳への酸素供給が断たれる限界は、幼児の肉体なら3分――180秒が限界だ……!)
八歳の僕(零)の脳内で、工学者としての演算回路が狂ったように回転を始める。
リビルドというチートはもうない。奇跡を起こして肉体を丸ごと組み替えるような都合のいい魔法は走らない。
だとしたら、僕にあるのは何か。
前世で、僕たちが数え切れないほど暗唱した、あの『人体の構成レシピ』だ。
一度唱えるだけで気持ちが悪くなる、だが今はそんなこと言ってる暇はない。
「……水35L。炭素20Kg。アンモニア4L。石灰1.5Kg。リン800g。塩分250g。硝石100g。イオウ80g。フッ素7.5g。鉄5g。ケイ素3g。その他微量元素……」
それは、前世の大人の肉体を構成する物質の絶対量。
僕は目の前で血を流す、三歳の誠の体重と体積をレンズ越しに瞬時にスキャンし、その組成比を脳内で力任せに逆算していく。
(三歳児の平均体重は約14Kg。体水分率は約60%……。水は8.4L、炭素は4.8Kg、鉄は1.2mg、リンは190g……!)
完璧に弾き出された、三歳の誠を構成するための、純粋な物質のデータ(設計図)。
刺客は僕たちの目の前で、音もなく冷酷に佇んでいる。だが、今の僕にはそいつを睨みつける暇さえない。
僕は誠が落としたポーチから、砂にまみれた薬品の瓶をすべて引っ張り出した。東野村の物置から回収したばかりの、高純度の試薬や有機化合物の数々。
「機械で命を繋ぐんじゃない……。君の組成を完璧に再現し、細胞そのものを完全修復する!」
僕は三歳児の細胞分裂を極限まで活性化させるための『特殊触媒溶液』を、一秒の狂いもなく正確に混和させていく。
水と塩分で浸透圧を保ち、鉄とカルシウム(石灰)で壊れた血管の凝固系を刺激する。リンとアンモニアの化合物を骨格に、傷ついた幹細胞のDNAを物理的に高速修復させるための、科学による『超細胞新生薬』。
僕は、完成した薄緑色の試薬を、誠の胸の凄惨な傷口へと直接注ぎ込み、頸動脈へ注入した。
ジ、ジジジジッ……!!
誠の肉体に薬品が染み込んだ瞬間、魔法の光とは違う、激しい化学反応の熱(白煙)が砂漠に立ち上る。
逆算された完璧な物質の配列が、千切れた心筋、破壊された肺胞、破裂した血管の細胞一つ一つをドミノ倒しのように再生させていく。傷口が内側から急速に盛り上がり、新しいピンク色の皮膚が、元の形状をトレースするように塞がっていく。
「……っ、は、ぁっ……!!」
誠の小さな胸が、大きく跳ね上がった。
急速に体温が回復し、瞳にあの冷徹で、生意気な『知性の光』が鮮烈に灯る。
細胞レベルの完全修復、完了。
「……悪くないね、零。……レシピの逆算(計算)、一ミリグラムも狂ってないよ」
三歳の誠が不敵に笑い、砂の上に立ち上がる。
僕は、全快した親友と共に、目の前に立つ暗闇の刺客へと、初めてその冷たい青い瞳を向けた。
「待たせたね、バグさん。……僕たちのシステムは、今、完全に修復しちゃった。……さあ、僕たちの『共同研究』を邪魔した代償を、支払ってもらおうか」
八歳の工学者が『第一の牙(水速射砲)』を構え、三歳の医学者が新たな劇薬のフラスコを指先で弄ぶ。
魔法を、奇跡を、細胞レベルの科学で捩じ伏せた二人の天才児の、本当の反撃が幕を開けた。
ご覧いただきありがとうございました。
なかなか、人体の構造を覚えるのには時間がかかった記憶がある。でも若干調べちゃったw




