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第四十四話 物理の牙

第四十四話!

 地平線の向こうから迫る砂煙。その中から現れたのは、教会の紋章を掲げた騎兵隊だった。

 三千の軍勢を消し飛ばした「魔王の化身」――カイを討伐しにきた教会の聖騎士団。その数、およそ50。対するこちらは、八歳の少年と、三歳の幼児、そしてガラクタの山。


「……ハ、ハハ。まさか子供が二人きりとはな。魔王にでも食われたか?」


 騎士団の先頭に立つ男が、大真面目に抜剣した。その剣には、強力な『火』の魔法が付与され、砂漠の熱風の中でさらに猛烈な陽炎を放っている。


「零、来るよ。……医学的に見て、あの鎧の形状は流線型に見えるけど、胸部への一点衝撃を逃がす構造になっていない。……いい的だね」


 三歳のシンが、踏み台の上で背伸びをしてレンズを覗き込みながら、冷徹に診断を下す。

「了解。……魔法なんていう不確かなものに頼るから、物理法則の『強制執行』に気づかないんだ」

 僕は、八歳の細い腕を震わせながら、サソリの残骸で組み上げた『超高圧水速射砲』を構えた。

 焚き火の熱で沸騰した水蒸気が、サソリの耐圧シリンダーの中で限界まで膨張し、僕の指先に重苦しい振動を伝えてくる。リビルドというチートはない。ここにあるのは、僕が自分の手で叩き、締めた、純粋な工学の結晶だ。

「死ね、魔物の子供め! 『焔の裁き(フレイム・バリア)』!」

 騎士が剣を振り下ろし、僕たちの視界を真っ赤な炎の壁が覆い尽くした。


「……甘いな。……バグ(魔法)で物理現象を無視できると思うなよ」


 僕はトリガーを引いた。

  ――キィィィィィィィィィン!!

 鼓膜をつんざくような、高周波の絶叫。

 ノズル径0.1ミリから放たれたのは、音速の三倍を超える「水の刃」だった。

  魔法の炎? そんなものは関係ない。

 一点に集中した数千気圧の物理的な衝撃。それは炎の壁を容易く突き抜け、騎士が誇る魔法付与の盾を、まるでお湯でバターを切るように、一瞬で、滑らかに「切断」した。

「……なっ、あ、あが……っ!?」

 水の刃は盾を貫き、騎士の厚い鉄の胸当てを貫通し、さらに背後の砂丘までをも一筋の線で斬り裂いた。

 魔法の防御は「エネルギー」を分散させ、衝撃をいなすものだ。だが、この極小の点に集中した「物質の衝突(物理)」の前には、分散させる隙など存在しない。

「……次。……圧力の再装填リロード、間に合ってるよ」

 僕はポンプを操作し、次なる標的をロックした。

 八歳の僕の手は、反動で痺れ、熱を帯びている。だが、自分の手で組み上げた歯車の感触が、今はどんなチート魔法よりも頼もしかった。

  一撃。また一撃。

 魔法を信奉する騎士たちが、次々と「ただの水」によって、その傲慢な装備ごと真っ二つにされていく。

  砂漠に、血と、蒸気の匂いが立ち込める。 三歳の誠が、その惨状を満足げに見つめながら、僕に次の合図を送った。

「……零、いい手応えだね。……でも、次はもっと『エグい』のを頼むよ。……僕の作った『化学の牙』の出番だ」

ご覧いただきありがとうございます。

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