第四十二話 三つの牙
第四十二話!
楽しんで!
砂漠の夜が明けていく。
燃え盛っていた村の火は消え、後に残されたのは、真っ黒に焼けた大地と、静まり返った砂の海だけだった。かつて僕が率いていた三千の軍勢は、もうどこにもいない。数日前、暴走した零が放った全属性の特異点によって、彼らはその存在ごと、この世界からデバッグ(消去)されてしまったのだ。
「……ッ、パチン……ッ」
隣で、八歳になった零が、何度も指を鳴らしていた。
かつてなら、その音一つで周囲の物質は組み替えられ、豪勢な食事や強固な城壁が【再構築】されたはずだった。だが、今の零の指先からは、小さな火花一つさえ散ることはない。
「……そうか。……回路(魔袋)を物理的に破壊したんだ。当然の帰結だね」
零は、自分の泥にまみれた手のひらを見つめ、自嘲気味に笑った。
かつて世界を意のままに組み替えた神の指先は、今やただの、震える八歳の少年の手に戻っていた。
魔法を失い、武器を失い、そして僕たちが率いたすべての「命」さえも失った。
「、僕たちは。軍隊も、魔法も、全部なくなった」
零の声は、風にさらわれて消えそうなほど細い。僕は三歳の小さな身体で、八歳の親友の背中を、ありったけの力で叩いた。
「……いいよ、そんなもの。もともと君は、魔法なんていうブラックボックスは大嫌いだっただろ? 脳内メモリの中身までは奪われていない。……そうだろ、一ノ瀬君」
その呼びかけに、零がハッとしたように僕を見た。
僕たちは、魔法というチートに甘んじるためにこの世界に来たのではない。魔法という名の理不尽を、前世の『論理』で解体するために再会したのだ。
「……誠。……そうだね。リビルドという『省略』が使えないなら、一から物理現象を積み上げるだけだ。僕たちの手で、あの大嫌いな魔法を殺すための『牙』を、三つ作ろう」
零は焼け焦げた木の枝を拾い、ガラス化した砂の上に、迷いのない筆致で三つの図面を引き始めた。
「一つ目は、『物理の牙』。超高圧水速射砲。魔法の障壁がどれほど硬くとも、一点に集中した高圧の水分子の前では無意味だ。機械サソリの耐圧ポンプを流用すれば、岩をも斬るメスになる」
「二つ目は、『化学の牙』。魔力腐食薬。これは誠、君の出番だ。魔力というエネルギーの結合を化学的に中和し、霧散させる強酸を精製してくれ。バリアそのものを『溶かす』消しゴムだね」
「そして三つ目は、『摂理の牙』。粉塵爆焼弾。砂漠の砂と燃料を霧状に撒き、一気に点火する。魔法の障壁の中にいる連中から酸素を奪い、真空で肺を潰す。……魔法が神の奇跡なら、これは地獄の現実だ」
八歳の工学者と、三歳の医学者。
二人の瞳に、かつての、あの狂気にも似た知的な光が戻る。
「……リビルドがないなら、自分の手で回せばいい。……始めようか、シン。僕たちの、本当の意味での『共同研究』を」
「……ああ、喜んで。……最高の処方箋を、用意してやるよ」
軍隊も、魔法も、神の加護もない。
あるのは、前世から持ち越した二人の執念と、砂漠に転がるガラクタだけだ。
最悪の誕生日を越えた僕たちは、砂の上に描いた『三つの牙』を見つめ、不敵に笑った。
ご覧いただきありがとうございます。
次から視点は零に戻ります。
武器の名前を考えるのに一番時間を使ってるまである。




