表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/45

第三十四話 全属性の特異点

第三十四話!

後からだけ章をつけてみようかな?

 背後にいたはずの三千の軍勢は、もういない。

 燃え盛る村の入り口。熱風に青い髪をなびかせ、壊れた機械のように笑い続ける親友と、泥にまみれた二歳の僕だけが取り残されていた。

 数秒前までそこにいたはずの兵たちが、カイの放つ「魔圧」だけで精神を破壊され敗走したのか、あるいは未知の広域干渉で消し飛ばされたのか。今の僕にはそれを確かめる余裕さえない。

「ふはっ……ハハハハハッ!!」

 零が両手を広げる。その掌の間で、火、氷、雷、風、土……この世界の理である全属性が狂ったように渦巻き、一つの「特異点」へと集束していく。

 あいつは魔法が大嫌いだった。だからこそ、そのバグを、自らの工学的知性で最も効率的かつ凄惨な「兵器」へと再構築リビルドしていた。

 

 医学者である僕の瞳には、零の周囲で起きている『物理現象』がスローモーションのように見えていた。

 まず、土属性が砂漠の砂(二酸化ケイ素)を凝縮させ、極小の弾丸を生成する。そこへ火属性と重力魔法が同時に干渉し、数万気圧の超高圧をかける。

 

(……相変わらず、無茶苦茶な計算デバッグをする。砂を瞬時に人造ダイヤモンドへ変質させているのか!)

 だが、それは序の口だった。生成された硬質のつぶてを、雷属性が生み出した強大な磁場が『レールガン』のように加速させる。さらに風属性がその弾道の真空を作り出し、空気抵抗をゼロへと削ぎ落とす。摩擦熱で弾丸が蒸発するのを防ぐため、水属性の冷却膜がそれを包んでいた。

 魔法ではない。それは魔法という非論理的なエネルギーを燃料にした、『熱力学を無視した質量兵器』だ。

「ハハハッ、アハハハハッ!!」

 放たれた衝撃波が、僕の鼓膜を激しく震わせる。

 音速を超えたダイヤモンドの弾丸が、液体窒素の死の霧を伴って僕を襲った。

 

 ドォォォォォォォォォン!!

 僕がいた場所のすぐ真後ろにあった石造りの家屋が、爆弾を直撃させたかのように粉砕され、砂の粒子へと戻っていく。僕は間一髪、二歳の小さな身体を泥の中に投げ出して直撃を避けたが、衝撃波だけで皮膚が裂け、鮮血が滲んだ。

 泥と血の匂いが鼻を突く。

「……っ、零! やめろ……そんな不条理な計算、君の脳だって保つはずがない!」

 レンズ越しに見える零の顔は、あまりの魔力負荷に鼻から血を流し、毛細血管が浮き出ている。それでもなお、吊り上がった口角を緩めようとしない。

 全属性という「万能のバッテリー」を手に入れた代償に、あいつの精神は、出力されるすべての信号を『笑い声』というエラーコードに変換し続けているのだ。

 

「ハハッ、ヒヒヒヒヒッ!!」

 二撃目がチャージされる。

 次は、大気中の酸素を凝縮させた『高濃度酸素爆弾』か、あるいは――。

 

 僕は震える手で、腰のポーチに忍ばせた、この一年の孤独なサバイバルで作り上げた『医学の結晶』を握りしめた。

 魔法も、軍隊もない。

 あるのは、前世から積み上げてきた医学の知識と、あいつを救い出すという執念だけだ。

「……待ってろよ、零。その壊れた演算回路、僕が今すぐ解体デバッグしてやる」

 二歳の医学者は、死の光が渦巻く砂漠の戦場へと、猛然と駆け出した。

 

 友情という名の変数を、この地獄のような物理法則の中に、無理やりねじ込むために。

ご覧いただきありがとうございます。

決戦五部作の第一幕です。

全属性を使いこなす零と、知恵だけで挑む誠。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ