第三十四話 全属性の特異点
第三十四話!
後からだけ章をつけてみようかな?
背後にいたはずの三千の軍勢は、もういない。
燃え盛る村の入り口。熱風に青い髪をなびかせ、壊れた機械のように笑い続ける親友と、泥にまみれた二歳の僕だけが取り残されていた。
数秒前までそこにいたはずの兵たちが、零の放つ「魔圧」だけで精神を破壊され敗走したのか、あるいは未知の広域干渉で消し飛ばされたのか。今の僕にはそれを確かめる余裕さえない。
「ふはっ……ハハハハハッ!!」
零が両手を広げる。その掌の間で、火、氷、雷、風、土……この世界の理である全属性が狂ったように渦巻き、一つの「特異点」へと集束していく。
あいつは魔法が大嫌いだった。だからこそ、その力を、自らの工学的知性で最も効率的かつ凄惨な「兵器」へと再構築していた。
医学者である僕の瞳には、零の周囲で起きている『物理現象』がスローモーションのように見えていた。
まず、土属性が砂漠の砂(二酸化ケイ素)を凝縮させ、極小の弾丸を生成する。そこへ火属性と重力魔法が同時に干渉し、数万気圧の超高圧をかける。
(……相変わらず、無茶苦茶な計算をする。砂を瞬時に人造ダイヤモンドへ変質させているのか!)
だが、それは序の口だった。生成された硬質の礫を、雷属性が生み出した強大な磁場が『レールガン』のように加速させる。さらに風属性がその弾道の真空を作り出し、空気抵抗をゼロへと削ぎ落とす。摩擦熱で弾丸が蒸発するのを防ぐため、水属性の冷却膜がそれを包んでいた。
魔法ではない。それは魔法という非論理的なエネルギーを燃料にした、『熱力学を無視した質量兵器』だ。
「ハハハッ、アハハハハッ!!」
放たれた衝撃波が、僕の鼓膜を激しく震わせる。
音速を超えたダイヤモンドの弾丸が、液体窒素の死の霧を伴って僕を襲った。
ドォォォォォォォォォン!!
僕がいた場所のすぐ真後ろにあった石造りの家屋が、爆弾を直撃させたかのように粉砕され、砂の粒子へと戻っていく。僕は間一髪、二歳の小さな身体を泥の中に投げ出して直撃を避けたが、衝撃波だけで皮膚が裂け、鮮血が滲んだ。
泥と血の匂いが鼻を突く。
「……っ、零! やめろ……そんな不条理な計算、君の脳だって保つはずがない!」
レンズ越しに見える零の顔は、あまりの魔力負荷に鼻から血を流し、毛細血管が浮き出ている。それでもなお、吊り上がった口角を緩めようとしない。
全属性という「万能のバッテリー」を手に入れた代償に、あいつの精神は、出力されるすべての信号を『笑い声』というエラーコードに変換し続けているのだ。
「ハハッ、ヒヒヒヒヒッ!!」
二撃目がチャージされる。
次は、大気中の酸素を凝縮させた『高濃度酸素爆弾』か、あるいは――。
僕は震える手で、腰のポーチに忍ばせた、この一年の孤独なサバイバルで作り上げた『医学の結晶』を握りしめた。
魔法も、軍隊もない。
あるのは、前世から積み上げてきた医学の知識と、あいつを救い出すという執念だけだ。
「……待ってろよ、零。その壊れた演算回路、僕が今すぐ解体してやる」
二歳の医学者は、死の光が渦巻く砂漠の戦場へと、猛然と駆け出した。
友情という名の変数を、この地獄のような物理法則の中に、無理やりねじ込むために。
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決戦五部作の第一幕です。
全属性を使いこなす零と、知恵だけで挑む誠。




