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第十五話 地獄の炎

第十五話!

楽しんでください!

 北の廃鉱山。冷たい風が吹き抜ける坑道の入り口に、僕たちは立っていた。

 奥からは、街の自警団が束になっても勝てないという、オーガ・メイジの禍々しい魔力が漂ってくる。

「……零、見えたよ。喉仏の三センチ下。岩の皮膚が重なり合って、一番薄くなっている場所」

 僕の肩に担がれた一歳のシンが、暗闇を凝視して囁く。医学者の目には、オーガの強固な肉体さえも、単なる「脆弱なパーツの集合体」にしか見えないらしい。

「了解。……物理法則デバッグ開始だね」

 僕はクロスボウを構え、特製の『TEAトリエチルアルミニウム火玉』を装填した。

 奥から、岩の巨体が姿を現す。オーガ・メイジがこちらの存在に気づき、不敵に笑って魔法を唱えた。

「グオォォッ!」

 瞬間、僕たちの前に巨大な岩の壁が隆起する。並の攻撃なら弾き返される鉄壁の防御だ。だが、僕は迷わずその岩壁の『隙間』――魔袋へと繋がる直線上へ、引き金を引いた。

 プシュッ。

 無音で放たれたガラス瓶が、オーガの胸元で砕け散る。その瞬間、世界が白熱した。

「ガ、アアアァァッ!?」

 岩壁に触れた瞬間、TEAが自然発火し、3000度の白炎がオーガの胸を包み込む。

 慌てたオーガが防御のために『氷の魔法』を放ったが、それは致命的な判断ミスだった。水に触れたTEAは消えるどころか爆発的に反応し、そのエネルギーを魔導器官――『魔袋またい』へと叩き込む。

 ドォォォォォォン!!

 内部の魔素と共振し、魔袋が内側から破裂する。魔法という不条理の源を失った巨体は、ただの肉塊となって崩れ落ちた。

「……処方箋通りだね。お疲れ様、零」

 シンが満足げに僕の青い髪を叩く。だが、その手が、ぴたりと止まった。

「……零。まだだ。後ろに『何か』いる」

 シンの警告と同時に、背後の闇がどろりと蠢いた。

 倒したオーガの影から這い出してきたのは、実体を持たない影のような魔物だ。物理攻撃も、さっきの火炎も通りそうにない、正体不明の生命体。

「……計算外だね。オーガを寄生主にしていた別個体か」

 TEAは使い切り、クロスボウの矢もこの『影』には意味を成さない。六歳の僕の肉体は、すでに疲労で悲鳴を上げている。

 目の前の『影』が、音もなく鎌のような腕を振り上げた。

 絶体絶命。

 だが、僕の隣で、一歳のシンが鋭い視線をその魔物に固定した。

「零。……怯える必要はないよ。医学的に見て、エネルギー体だけで存在できる生物なんてこの世にいない」

「……そうだね。何らかの『媒体』が必ずあるはずだ。……見つけられるかい、シン?」

「もちろんだよ。……僕たち二人の目を、舐めないでほしいな」

 僕は残されたわずかな体力を振り絞り、腰のナイフを逆手に構え直した。

 魔法が通用しないのなら、理屈でこじ開けるまでだ。

 

 六歳の化学者と、一歳の医学者。

 二人の科学者の、本当の死闘がここから始まる。

ご覧いただきありがとうございます。


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