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死んだ魚のような目をしているオレは、盲目なあの子に恋をする。  作者: しましまましま
第3章 恋の骨折り損(Love's Labour's Lost)

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第57話 「もう少し」には期限をつけよう

 翔太の目が真っ直ぐオレを見た。


「……お前、馬鹿だな」

「馬鹿はわかってる」

「馬鹿って言ったのはそこじゃない。好きになっていいかなんて、そんなの許可制じゃねえよ。好きになったら好きなんだ。死んだ目だろうが生きた目だろうが関係ねえ。鮎川さんだってそうだろ。目が見えないことで誰かを好きになる資格がないなんて、そんなわけないだろ。同じだよ。お前も同じ」


 翔太の声が熱かった。いつもふざけている翔太が、本気で怒っている。オレのためじゃなくて、オレの自己卑下に対して怒っている。


「……」

「お前さ、前に言ってた『恋の骨折り損』の話、覚えてるか。鮎川さんに教えてもらったやつ」

「ああ」

「王女が『一年待て』って言ったやつ。お前、あの話に影響されすぎだよ」

「影響なんて……」

「されてるだろ。『すぐに手に入る恋は本物じゃない』って鮎川さんが言ったの、真に受けすぎだ。待つことは大事かもしれないけど、待ちすぎたら手遅れになることもある」


 翔太の言葉が、鋭く刺さった。

 待ちすぎたら、手遅れになる。

 蓮がいる。蓮は待ってくれない。蓮は「諦めない」と言った。オレが待っている間に、蓮が鮎川の心を掴むかもしれない。

 でも。


「……王女たちは正しかったのかもしれない」

「は?」

「すぐに手に入る恋は本物じゃない。ならオレはもう少し待つ。この気持ちが本物だと、自分自身で確かめるまで」

「……」

「手紙は引き出しにある。いつでも渡せる。でも、今じゃない」

「いつなんだよ」

「……わかんない。でも、わかるときが来ると思う。ここだ、って瞬間が」


 翔太が天井を見上げた。


「お前、ほんとに変わったな」

「変わった?」

「四月のお前は、何にも興味なさそうな顔してた。何を聞いても『別に』『特に』『どうでもいい』。死んだ魚が本体で、人間の体はおまけみたいだった」

「……」

「でも今は違う。怖がってるけど、ちゃんと向き合ってる。逃げてないだろ。手紙も書いた。雨の日には傘差してやってる。それって全部、鮎川さんのためだろ」

「……」

「お前の恋は本物だよ、湊。オレが保証する」


 翔太がにっと笑った。

 オレは何も言えなかった。唐揚げを口に入れて、噛んだ。味がよくわからない。塩辛い気がしたけど、それは唐揚げの味じゃなくて、たぶん、目の奥が熱いせいだ。

 泣いてない。泣いてない。死んだ魚は泣かない。

 でも、翔太の「お前の恋は本物だよ」が、胸の奥に沁みている。

 自分では確信が持てなかったことを、翔太が保証してくれた。翔太は四月からずっとオレの隣にいて、オレの変化を見てきた。死んだ目が少しずつ生き返っていくのを。感情が薄かった人間に色がついていくのを。

 それを見てきた翔太が「本物だ」と言うなら、きっと本物なんだろう。

 ……ありがとう。翔太。

 声には出さなかったけど。

 引き出しの中の手紙。約四二〇点の告白。

 いつか。必ず。もう少しだけ。

 でも、「もう少し」には期限をつけよう。いつまでも「もう少し」では、翔太の言う通り手遅れになる。

 夏休み。鮎川と過ごす夏。

 その夏の間に、答えを出そう。

 待つことと、先延ばしにすることは違う。

 王女が「一年待て」と言ったのは、待つ間にも恋が育つと信じたからだ。ただ時間をやり過ごすための「待ち」じゃない。

 オレも、ただ待つんじゃない。夏の間に、鮎川のことをもっと知る。もっと一緒にいる。もっと景色を伝える。

 そして、「ここだ」という瞬間が来たら。

 迷わない。

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