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死んだ魚のような目をしているオレは、盲目なあの子に恋をする。  作者: しましまましま
第2章 空騒ぎ(Much Ado About Nothing)

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第29話 仕組まれたデート

 週末の話が持ち上がったのは、木曜日の昼休みだった。

 安藤美咲が教室のど真ん中で声を上げた。


「ねえみんな、今度の日曜日、ショッピングモール行かない? 新しいフードコート、すっごいおいしいらしいよ!」


 安藤の提案に、何人かが反応した。でもオレは関係ないと思って弁当を食べ続けていた。

 そしたら安藤がこっちに歩いてきた。まっすぐに。確信犯の足取りで。


「鈴木くんも行こうよ。鮎川さんも一緒に。ね?」


 鮎川が反応した。


「ショッピングモール? 行きたい! わたし、フードコート好きなの。音が面白いから」

「え、音?」

「うん。天井が高い場所って、反響がすごく独特で面白いの」

「へー、そういう楽しみ方もあるんだね! じゃあ決まり。メンバーは、わたしと鮎川さんと鈴木くんと、桐谷くんと、凛ちゃん。五人ね」


 五人。

 翔太と安藤と凛と、オレと鮎川。

 嫌な予感がした。翔太と安藤は前科がある。『空騒ぎ』作戦の共犯者だ。この二人が絡むイベントは、何かしらの企みが隠れている。

 案の定、翔太がニヤニヤしながらオレの肩を叩いた。


「日曜日、楽しみだな」

「……お前、何か企んでるだろ」

「失礼な。純粋にショッピングモールに行きたいだけだ」

「純粋の『じ』の字もないだろ。目が泳いでるぞ」

「泳いでない。お前と違ってオレの目は生きてるから、ちゃんとまっすぐ見てる」

「……」


 日曜日が来た。

 待ち合わせはショッピングモールの正面入り口、午前一一時。

 オレは一〇分前に到着した。鮎川はすでにいた。母親に車で送ってもらったらしい。白杖を持って、入り口の柱のそばに立っている。

 私服の鮎川を見るのは初めてだった。

 白いブラウスに、淡い水色のスカート。髪はいつもと同じだけど、小さなヘアピンがついている。星の形をした銀色のヘアピン。

 ――かわいい。

 死んだ目のくせに、そう思った。素直に。率直に。

 かわいいという感想を持つ自分に、もう驚かなくなった。慣れとは恐ろしいものだ。


「鈴木くん、おはよう」

「おはよ。早いな」

「うん。お母さんが早く着いちゃって。鈴木くんも早いね、まだ一一時前でしょ」

「一〇分前。時間通りに来るのが嫌いなんだ」

「律儀だね」

「律儀っていうか、時間ギリギリに走るのが面倒なだけだ」


 二人で柱の横に並んで、残りの三人を待った。

 一一時になった。翔太が来ない。安藤も来ない。凛も来ない。

 一一時五分。スマホが震えた。翔太からのメッセージ。


『ごめん! 急用ができた。今日行けない! ほんとごめん!!』


 絵文字が三つ。泣き顔、ごめんなさい、汗。

 嘘くさい。

 続いて安藤から。


『体調悪くて寝込んでます……ごめんなさい……』


 嘘くさい。一昨日の放課後、元気に踊ってただろ。

 最後に凛から。テキストじゃなくてたった一文。


『付き合ってられない。二人で行きなさい』


 凛だけは正直だった。正直すぎて怖い。

 三人全員ドタキャン。残されたのはオレと鮎川の二人。

 完全に仕組まれている。

 翔太と安藤が共犯なのは間違いない。凛は共犯というより、巻き込まれて面倒になって離脱した感じだろう。あるいは、二人きりにしてやるという凛なりの援護射撃か。

 鮎川にも同じメッセージが届いたらしい。凛からの音声メッセージを聞いて、苦笑している。


「みんな来られないって。桐谷くんは急用、安藤さんは体調不良、凛ちゃんは……なんか一言だけ」

「凛は察してるんだろうな」

「察してる? 何を?」

「……何でもない」


 二人きりになった。

 帰るか、という選択肢が頭をよぎった。当然の判断だ。メンバーが揃わないなら、解散すればいい。

 口を開きかけたとき、鮎川が先に言った。


「せっかく来たんだから、ちょっと回ろうよ」


 鮎川が笑っている。私服姿で、白杖を持って、閉じた目のまま。

 断れるわけがなかった。


「……まあ、せっかく来たし」

「やった。じゃあ行こう!」


 ショッピングモールに入った瞬間、鮎川が「わあ」と声を上げた。


「すごい。天井がすごく高い。音の反響が全然違う」

「わかるのか」

「わかるよ。わたしの声が上に飛んでいって、遠くから返ってくるの。学校の廊下とは全然違う反響。ドーム型の天井?」

「ああ、吹き抜けになってる。三階分の高さがある」

「三階分! すごい。じゃあ、ここで手を叩いたら、上のほうから返ってくるかな」


 鮎川がぱんっと手を叩いた。

 乾いた音が、吹き抜けの天井に飛んでいって、わずかに遅れて返ってきた。

 鮎川が嬉しそうに笑った。

 

「聞こえた! 〇・三秒くらいで返ってきた。ってことは、天井まで約五〇メートルくらいかな。音速から計算すると」

「……計算するのか」

「うん。音は秒速三四〇メートルだから、往復〇・三秒なら片道〇・一五秒。三四〇掛ける〇・一五で……五一メートル。だいたい合ってるでしょ?」

「……さっき三階分って言ったけど、一階が約四メートルとして三階で一二メートルだから、五一メートルは高すぎるな。反響の計算、ちょっとズレてないか」

「あ、そっか。じゃあ壁からの反響も混ざってるのかも。斜めに跳ね返ってきてるから、距離が長くなるんだ」


 音速で天井の高さを計算する女子高生。

 この子、やっぱり普通じゃない。面白すぎる。

 

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