第三夜 白鳥座の少年(2)
屑屋と呼ばれた男の物語は、襲来するミサイルから怯える悲劇から始まる・・・。
《住民の皆様にお知らせします。只今、日本政府から、つくば市に対し、緊急避難命令が発令されました。別都市の地下シェルターへ向かうバスを順次発車しますので、住民の皆様は、あらかじめ指定された最小限の荷物をお持ちの上、各ブロックのバス乗り場にお急ぎください。繰り返します・・・》
自宅のマンションの前の公園で遊んでいた俺たちは、公園内に設置されたホログラム投影機からの緊急放送を聞いた。
それと同時に市内の空にサイレンが鳴り響き、俺たちを含むツクバの市民を恐れさせた。
「兄ちゃん、なんか怖いよ。どうしよう。」
「ちょっと待ってろ。母さんに電話してみる。」
僕は、左手の腕電輪(電話機能があるリストバンド)に向かって喋った。
「コール、母さん。」
⦅レオ?いまどこ?⦆
母は、すぐに電話に出た。
「うん、今、公園にいる。ユウも一緒にいるよ。」
⦅よかった・・・。じゃあ、すぐにウチに帰って、防災リュックを出しておいて。お母さんもすぐに戻るから。すぐよ。⦆
「うん、わかった。」
「母さん、早く帰ってきてよ!絶対だよ!」
弟のユウが、事態の異常さに敏感に反応して怯えている。
しかし、今は、それにかまけている余裕はない。
⦅ユウ、大丈夫よ、母さんもすぐに戻るから。慌てて転ばないようにね。レイ、しっかりお願いね。⦆
「うん、わかった、僕とユウは大丈夫だから。」
⦅じゃあ、頼むわね。⦆
母さんは、そういうと電話を切った。
直後、
《ビーッ!ビーッ!ビーッ!ミサイル警報!本市に向かってくる複数ミサイルを確認。ここから、東2km、北3km、着弾予想。あと7分で到達します。付近の皆さんは、衝撃波に備えてシェルターや、頑丈な建物や塀に隠れてください!》
と、公園に備えられているスピーカーから警告が発せられた。
「うわぁ、兄ちゃん怖いよー!」
「大丈夫だって、あそこに隠れてやり過ごそう!」
もちろん自分に自信があるわけではなかったが、弟を守って母さんと会うまでの責任感を子供なりに感じて、僕は必死だった。
戦争が始まりそうになった頃から、こういった時の対処法をいろいろと訓練されていた。
市内には、戦争が始まってから設置されたシェルターがあり、攻撃された時の一時的に避難場所として認知されていた。
「あそこのシェルターに隠れるぞ!」
幸い、公園内にシェルターが設置されており、近くの人達が我先にと逃げ込んでいる。
「みんな急げ―!はやくー!はやくー!」
大人達が口々に叫んで、近くの人達を必死に招き入れている。
僕は、ユウの手を引き、コンクリートと金属で覆われた楕円形のシェルターに向かって走り出した。
動きの鈍いお年寄りの手を引いたり、背負っている人もいた。
《ビーッ!ビーッ!ビーッ!ミサイル警報!複数ミサイル、ここから、東2km、北3km、着弾予想。あと6分で到達します。付近の皆さんは、衝撃波に備えてシェルターや、頑丈な建物や塀に隠れてください!》
警告は、鳴り続けている。
東の方から、オレンジ色の光の玉が、西に向かって10発くらい飛んでいくのが見える。
と、同時にロケットの推進音が、地上にも届いた。
迎撃するためのミサイルなのだろうか、幼い僕達にそれを理解する能力は無かった。
ただ、必死に恐怖と戦いつつ、走り続けるだけである。
「君達!早く入って!」
シェルターの入り口に立っている知らない男の人が必死に叫んでいる。
《衝撃波到達まで、あと5分。シャッター閉めますので、急いでお入りください。》
シェルターの入り口のスピーカーから、非情なアナウンスが流れる。
間に合わない人は、どうなるのだろうか・・・。
もちろん、もしこれが核弾頭だったり、戦略兵器であれば、シェルターの意味もないのかもしれない。
だが、今は、それにすがるしかない。
僕らは、転がり込むようにしてシェルターに飛び込んで座り込んだ。
弟は、息を切らし、苦痛で顔をゆがめている。
僕だって必死だ。
繰り返し激しく吐く息が、僕らの心臓を叩き続ける。
僕は、ユウの手を握りしめて、不安に怯える大人たちと、閉まっていくシャッターを見続けていた。
やがて、シャッターが閉まりきると、
《着弾予想まで、あと一分。》
と、アナウンスが流れ、怯え声を出していた大人たちは息をひそめた。
薄暗い非常照明の中で、じっと重たい空気に耐えていると、突然、
「バシャーーン!」
と、低いとも高いとも思えない、衝撃音がシェルター内に響いた。
シェルター内の大人達は身を縮こませ、一斉に悲鳴を上げた。
「うあーーーん!」
弟は、恐怖と周囲の大人達の悲鳴に驚いて泣き始めた。
「泣くなよ!大丈夫だって!」
泣いている大人もいたが、自分は泣かなかった。
「お、タチバナさんとこのレイ君じゃないか。レイ君は強いな。」
知らない大きな男の人が話しかけてきた。
その人は自分のことを知っているようだったが、僕は知らなかった。
「僕は、君のお母さんと一緒に働いている友貞というものだ。君の写真を何度か見せてもらったことがあるよ。」
そのトモサダという人は、そう言って親しげに笑った。
僕は言い返す言葉もなく、ただ黙って聞いていた。
「お母さんとは連絡が取れたかい?」
親し気にするこの大人に警戒感を抱いていたが、僕は黙って頷いた。
「そっか・・・、それは良かった・・・。君は、しっかりと君のお母さんと、弟君を守るんだぞ。しっかりな。運がよかったら、また会おうな。」
トモサダさんは、そう言って僕の肩を叩くと、皮の厚そうな顔で、ぐっと笑顔を作った。
僕は、父親以外の男の大人の強さというものを見た気がした。
だけど、その時の僕はにはまだ、その人の強さに応える言葉を吐き出すほど強くなかった。
今回は、初めてプロットを作りながら構想を練っています。
(まだできてないんかい!)
戦略的に小説を書くのもありですね。
(当たり前だっちゃ!)※うる星やつらリメイク記念。




