第二夜 白鳥座の少年(1)
世界戦争は、平和に暮らしていた少年たちに災禍をもたらした。
西暦2056年 ドーム型都市 ツクバ
「レイ、ユウ、寒くない?二人でくっついていれば、ちょっとは温かくなるよ。」
「兄ちゃん殴るからやだよー。」
「ユウ、母さんの言うことを聞けよ。」
俺の名前は、タチバナ・スワン・レイという。
当時、俺たちの家族は、ツクバというドーム型都市に住んでいた。
西暦2047年。
乾燥化、異常気象によって、食料と水の奪い合いが地球上のあらゆる場所に拡がった。国家間、部族間、地域間など、それぞれ都合のよい組織の間で戦闘が始まり、そして収集がつかなくなる。
次第に戦闘は激化。やがて世界戦争となった。
核ミサイルの使用や細菌兵器の投入で人類は滅亡に向かうだろうと予見されたが、それを止められる者よりも、その有効な手段を選ぶ人間のほうが強かった。
西暦2048年。
終末兵器とは、核爆弾による放射能、化学兵器、細菌兵器などである。(気象兵器が開発されていたとの噂もあり。)
世界を覆ったそれらの終末兵器から、その影響を避けるために、日本は、主な都市、町、発電所などの重要施設に、電磁技術を使って巨大な防衛ドームを建設し始めた。
都市の周囲に防衛壁を構築し、電磁発生装置から電磁波を発生させ、大気中の水分と特殊ガスを使って薄い膜を発生させる仕組みである。
防衛ドームというのは、おおよそ、こんなものだったらしい。
あまりの巨大事業に、不幸にも選んでもらえなかった都市もあったようだ。
父の顔は、あまり覚えていない。
なんでも、戦争前は宇宙開発に関する仕事に従事していたようだが、世界戦争の危機が迫ってくると、駆り出されて家に帰ってくることはなかった。おそらく宇宙防衛施設などの任務に当たっていたのだろう。
今となっては確かめようもないが・・・。
西暦2049年
どこかの国が、細菌兵器を搭載した弾道ミサイルを日本に向けて発射。防衛体制が整っている都市ではこれを防ぐことが出来たが、迎撃装備の薄い地方都市においては、自衛隊は、これを防ぎきることができず、100年以上戦争を否定していた日本国内は大パニックになった。
西暦2050年
おそらく中華人民共和国軍による自律型兵器、つまりAIを搭載したロボット兵器がパニックに乗じて能登半島に上陸。かろうじて米軍と自衛隊によって撃退される。中国政府はこれを否定したが、彼らが再び攻め込んでくるのも時間の問題だった。
西暦2051年
それまでの温暖化と乾燥化によって食糧危機戦争が生じていたが、分厚い粉塵の雲と、原因不明の因子により現象は逆転し、地球の寒冷化が始まる。高緯度の地域では、降雪、吹雪、マイナス40度を超える異常気象が始まり、更に耕地を失い、ますます食料と土地の奪い合いが激しくなる。
西暦2053年
極寒の大地から追われた人々の南下大移動が始まる。これにより、ロシア、中央アジアの貧しい人々は避難民となって中国に流れ込もうとするが、国境線を超えさせまいとする中華人民共和国軍との激しい戦闘が発生し、大量破壊兵器による虐殺がおこなわれた。
西暦2055年
しかし、中国北部にも寒冷化の異常気象が始まり、中国自身も南下せざるを得なくなった。彼らは東南アジアへ侵攻を始め、占領下に置いていく。軍事力のとぼしいこれらの国々が抗えるわけもない。
西暦2056年
中華人民共和国軍は、再び日本上陸を画策。まだ温暖な気候が残る太平洋側を直接狙ったようだ。カゴシマ、コウチ、ワカヤマ、シズオカ、カナガワ、イバラキ各地域の航空基地や軍事施設に極音速ミサイルを撃ち込むと上陸作戦が開始された。自衛隊も米軍も、同時に飛来した数百発の極音速ミサイルを迎撃することなどできなかった。日本国内は大混乱となり、自衛隊は組織的な活動を停止、かろうじて米軍が本国との連携を取っていたが、ミサイル攻撃を受けた原子力空母は沈黙。航空戦力に甚大な損害を受けた。海上では、残った艦隊と潜水艦、グアムからの航空支援により、中国軍との戦闘が続いたが、中華人民共和国軍の蜘蛛の子を散らしたような上陸部隊を止めることが出来なかった。奴らは、小型の1mにも満たない自律型機動兵器を大量投入してきた。自衛隊も米軍も、海から上陸してくるカニマシーンの群れに対応できなかった。
そして、俺たちの住んでいたツクバにもミサイルが着弾し、直接的な脅威が迫っていた・・・。
次回に続きます。




