正義を否定する深淵(1)
闇に暗躍し、ターゲットの命を奪い取る裏稼業・殺し屋。
これは、その中でも最強と謳われた1人の殺し屋と仲間達の変化の物語。
その時、闇夜を切り裂くような断末魔の叫び声が近くから聞こえ出した。
近付いてくるその声に、柚や憲伸らが何事かと思っていると、黒こげのバラバラ死体と化した憲伸の部下らしき声の主2名がぶっ飛ばされてきた。
この状況でこんな登場をする救世主はあいつしかいない。黒猫の武器入りカバンを奪還し、炎と電気を纏ったツインドラコスラッシャーを両腕に装着した青龍である。
「黒猫。大丈夫?」
「青……龍…………大丈夫そうに、見える?」
「見えないね。犬山さんよくもやってくれましたね。ただで済むと思わないでください」
そう言って青龍は、憲伸らに殺気を放った。
そのギャップに憲伸は、ホテルのレストランで間近に見ていた分、誰よりも戸惑っていた。
「くっ、こいつ、さっきとは別人じゃねぇか。けどな、ボウズ。何をそんなに怒っている? この嬢ちゃんは、お前の命も狙っているんだろう? だったら、死んでくれた方が嬉しいんじゃないのか?」
憲伸は勝手な推測でそう言ったが、その言葉はかえって青龍の怒りの炎に油を注ぐだけだった。
「ふざけないでください。あなたに僕と彼女の何がわかるっていうんですか? あなたはちょっとした情報から、僕らが利害の一致だけで繋がってると思ってるかもしれませんが、それは違います。僕にとって黒猫は、かけがえのない仲間であり、友なんです! そんな大切な人に対して、死んだ方がいいなんて思うわけ……ないでしょう!」
そう言うと同時に、青龍は怒りの感情を糧にして龍人化した。
初見の憲伸らが更なる変化に気を取られてあたふたしている今ならいける。そう判断した黒猫は、銃弾を体からほじくり出し、コピーしていた鳳凰の治癒能力で傷を癒やすと、彼らのスキを突いて憲伸の腕を手刀で切断して、それごと父の形見を取り返した。
「てめぇ!」
「あなただけは許さない。ママを殺し、パパの形見であるこの刀を汚した。それだけで万死に値する」
「ほざくな! さっきまで死にかけていたくせに、お仲間が1人増えたぐらいでいきがるな!」
「勘違いしないでくれる? 青龍は仲間じゃない。あなたやあの男と同じパパ達の仇。いつかはこの手で殺すべき相手よ」
年頃の少女としての複雑な想いを抱えているのに、黒猫が真っ直ぐそう言ったのを聞き、青龍は彼女の心を案じた。
それを払拭するように、黒猫は続けてこう言った。
「……けど、最近はこう思える。最も息の合う宿敵だって。だから、こういう時はすごく頼りになる」
と。
半年以上前の彼女なら絶対に出ないセリフ。青龍や仲間達と過ごした時間による変化がこの一文に集約されているのだ。
「はっ! 何が仇だ! クズがどう思おうが知ったこっちゃないが、仇にそんな感情を持つとはぬるいな! 目的のためなら、容赦なく殺す。それがてめぇらブラック・ナイトだろ!?」
「非情そのものである特捜隊5課のイヌだった男に言われたくない。あなたなんかがブラック・ナイトのことをどうこう言わないで」
冷静にそう反論されてイラッとした憲伸は、部下達に指示を出し、物量で2人を仕留めようと襲わせた。
こんな修羅場は何度もくぐってきている。そのため、全く取り乱していない青龍と黒猫は、ツインドラコスラッシャーとヒドラスラッシャーを構えて、
「黒猫。背中は預けたよ」
「いいの? 殺しちゃうかもしれないよ?」
「この状況でそんなことをする君じゃないだろ?」
「……ありがとう。信じてくれて……その期待には、ちゃんと応える!」
と、言い、近寄る敵を片っ端から斬り刻んでいった。
復讐する者とされる者。相反する両者の初のコンビプレーは予想以上に息が合っていた。
荷物や愛刀を崖の端まで隔離する黒猫の背を青龍が守り、青龍が敵が囲まれると黒猫が瞬時に蹴散らしていく。その相性の良さは、相棒といっても差し支えがないほど高いレベルだった。
いいところでの主人公の登場は戦況を一変させる。ありがちな展開ですが、これで形勢逆転です。




