形見の太刀(2)
闇に暗躍し、ターゲットの命を奪い取る裏稼業・殺し屋。
これは、その中でも最強と謳われた1人の殺し屋と仲間達の変化の物語。
と、そこへ、3人を見かけた警備員らしき初老の男が声をかけてきた。
「おや? 青山さん。こんなところにいらっしゃいましたか」
「えぇ。あ、紹介するね龍。今回のコンサートで警備をしてくれる警備員の犬山憲伸さん」
奏がそう紹介すると、憲伸は被っていた帽子を上げて挨拶した。
それを受けて龍と柚も挨拶と自己紹介をしたが、驚くべきことに、憲伸は初対面である彼らが死獣神であるということを知っていた。
「どうしてそれを!?」
「犬山さん、元刑事なの。5年ぐらい前にやめちゃったらしいけど」
「あぁ。体力の限界を感じてな」
そう言う憲伸の前歴にいち早く気付いたのは、名字と元刑事ということから導き出した柚だった。
「犬……もしかしてあなたは……」
「いかにも。俺はかつて特捜5課に所属して、警部まで上り詰めた男だ。同期はボウズもよく知ってる犬塚で、あいつとはよくコンビを組んでいた」
それを聞いた龍は驚くと同時に、彼の良き相棒だった犬塚を殺した者として申し訳ない気持ちになった。
「その……ごめんなさい。彼は僕がこの手で……」
「別に恨んじゃいない。ただ、詫びるくらいならハナから殺すな」
そう諭した後、憲伸は自身が声をかけた目的である奏のサインをもらおうと、色紙とペンを取り出し、サインを書いてもらった。
色紙に大好きなピアニストのサインが書かれ、ご満悦の憲伸。だが、ある物に目が止まると、サインからそっちに興味が移った。その視線の先にあったのは、柚が後生大事に持っている菊一文字零式・真打だった。
「ん? その刀……お嬢ちゃん。ちょっと見せてくれるかい?」
「それは……ごめんなさい。できません」
「いいじゃねぇか別に。減るもんじゃなし」
そう言いながら憲伸は、菊一文字零式・真打をぶんどって見ようと手を伸ばした。
その瞬間、柚は身を翻して愛刀を抱きかかえると、
「ダメなものはダメなんです! この刀は、パパが私に残してくれた大切な形見なんです! それを私以外の人の手なんかに触れてほしくありませんっ!」
と、噛みつくように怒鳴った。
その言葉で、龍は悟った。菊一文字零式・真打は元々闇の愛刀であり、彼女にとって形見だということを。
実際その通りで、菊一文字零式・真打は特捜5課が本部を襲撃した際、燃え残ったガレキの下から傷一つ付かず発見され、回収された代物である。
それを大切にし、自分の愛刀にしているあたり、柚の親への想いと形見に対する執着心が伺い知れる。
そんな想いが詰まった物に触れようとしたことを知って反省したのだろう。憲伸は菊一文字零式・真打を見せてもらうことを諦め、その場から退散していった。
愛刀を守るその姿は、子や縄張りを守ろうとする獣のそれと近い。それだけに一部始終を見ていた奏と龍は、彼女の危うい心と復讐の行き着く先を、まるで自分のことのように心配していた。
柚と闇の愛刀である菊一文字零式・真打は、反りが深く、佐々木小次郎の刀のように刀身が長いのが特徴です。




