柚の生態(4)
闇に暗躍し、ターゲットの命を奪い取る裏稼業・殺し屋。
これは、その中でも最強と謳われた1人の殺し屋と仲間達の変化の物語。
「……みんな、薄情ね」
また1人になったと思った柚は、天井を見つめ、ため息混じりに嘆いた。
が、実はまだ帰っていない者がいた。
「ははは。だね」
1番残ってほしくなかった人物であり、彼女の仇敵でもある龍である。
「……って、なんで龍君は帰らないの?」
「だって、しんどそうだし、ほっとけなかったから」
「とことんお人好しなのね。だから嫌い」
「あはは。その言葉、何回目だろうね。それにしても……」
そう言って龍は、初めて来た柚の部屋を見回し、意外に感じた。案外普通だったからである。
彼の予想では、復讐者らしく自分の写真がズタズタにされて壁中に貼られていたり、何もない殺風景な印象の部屋だと思っていたが、掃除や整理整頓がキチンと行き届いていて、いわゆる中学生の女の子の自宅といった感じだった。
「何?」
「あぁ、いや、なんでもない。そうだ。熱があるんなら、もっと体をあっためなきゃいけないよね? なら……」
そう思いついた龍は、部屋のクローゼットを開けた。
しかしそこには、俗に言う大人のオモチャが満載された段ボール箱と菊一文字零式・真打と下着や靴下が入った引き出しと学校用の服といつものレザーキャットスーツがあるだけで、普段着やパジャマといった類が一切無い。
違和感と疑問を感じる龍に、柚は無断でクローゼットを開けたことを咎める。
「あ、ごめん。けど、普段着とかは?」
「無い」
柚がそう即答したのを聞き、龍は驚いた。
彼女いわく、仕事や学校以外で出歩くことはほぼ無く、寝る時も全裸なため、普段着等は不必要な物として1着たりとも持ち合わせていない。
当然、そんな状況では友達を泊めることなどできないし、戦闘服や愛刀が人目に触れれば素性がバレる。それを防ぐために彼女はこれまで、泊めることはもちろん、家に人を招き入れたりもしなかった。
武文が中に入れるよう言われて即答できなかったのは、そういった理由があったからである。
「そこまで徹底してるんだ……って、感心してる場合じゃなかった。パジャマが無いんなら、学校のジャージで代用……」
龍はそう言って、クローゼットから体育で着るジャージを取り出そうとしたが、柚は布団だけで十分暖かいと言って断った。
「え? でも……」
「いいから」
「……わかった」
「じゃ、おやすみ。できれば、寝てる間に消えてくれたら、すごく嬉しい」
布団を深く被った柚にそう言われ、龍は冷蔵庫の中を確認してから、後ろ髪を引かれるように彼女の家を後にした。
柚がそれを感じ取り、ゆっくりと眠りについたのはそれから間もなくのことである。
素性を明かさないための徹底っぷり。
そこはプロとして見事かもしれませんが、年頃の少女としては、いかがなものでしょうか。




