当たり前の優しさ(1)
闇に暗躍し、ターゲットの命を奪い取る裏稼業・殺し屋。
これは、その中でも最強と謳われた1人の殺し屋と仲間達の変化の物語。
2時間後。目を覚ました柚は、猫の鳴き声のような欠伸をしながら、布団の中で伸びをした。
少し寝たのがよかったのだろう。思いのほか寝覚めはよく、倦怠感もマシになっている。
(少し楽になったかも。龍君は……やっぱりいないみたいね。なら、今の内にお風呂にでも入ろっかな)
そう思い、体を起こしたと同時に、彼女のおなかがグーッと鳴った。
時間は午後7時前。空腹になっていてもおかしくない時間帯である。
まずは食事をとろう。そう考えた彼女は、冷蔵庫が空だったことを思い出し、スーパーで鍋焼きうどんを買いに行こうと、枕元に置いていた財布に手を伸ばした。
その時、扉が開いて台所から、
「あ、猫宮さん。起きたんだ。おはよ……」
と、帰ったはずの龍が、手に何かを持って爽やかに言いかけた。
が、お察しのとおり、柚は依然素っ裸。それを忘れ不用意に扉を開けたことで、同級生の裸体を見てしまった龍は激しく動揺し、慌てて彼女に背を向けた。
一方の柚もまさか龍がいるとは思っておらず、咄嗟に肩から下を布団で隠した。
「な、なんでいるの!? 龍君! てっきり帰ったもんだと!」
「いやぁ、冷蔵庫に何も入ってなかったから、材料を買いに行ってたんだ」
龍の言ってることは真実で、あの後、彼はスーパーに急行して自腹で食材を買い、さっきの今まで柚のために料理を作っていたのである。
その料理とはもちろん……
「あ、そう……で、何を持ってるの?」
「あぁ、鍋焼きうどんだよ。猫宮さんこれ好きだし、風邪引いてるんなら、なおのこといいかなって」
屈託のない笑みでそう言う龍に、柚は、
(……あなたはエスパーか何か?)
と、心の中でツッコんだ。
それでも食事を作ってくれたことに変わりはなく、柚は肩に布団をかけたままベッドから降り、龍が鍋焼きうどんを置いてくれたテーブルの前に座って、箸を受け取った。
「……毒、入ってないよね?」
「そんなもの入れないよ」
「でしょうね。冗談よ。龍君は最低だけど、卑怯じゃないから。じゃ、いただきます」
柚はそう言って箸を持ったまま手を合わせると、麺を数本取り、息をフーフーと吹いて冷ましてから静かに啜った。
「どう?」
「……うん。おいしい」
おいしさから思わず微笑んでそう言うと、龍は嬉しそうに微笑み返した。
それを見て不覚と思った柚は、サッと顔を背けた。
身寄りのない友達が風邪をひいていたら、その子の力になりたい。
まさに、このサブタイトルを体現する行動と言えるかもしれません。




